テレビにデジカメ、身近な家電の電子デバイスの仕組み|あっとデバイス

第2回 デジタル化するテレビ

BSデジタル放送、110度CSデジタル放送に続き、2003年12月より一部地域で地上デジタル放送もスタートしている。アナログからデジタルにかわるテレビについて解説し、それを支えるデバイスについて紹介する。

デバイスイノベーション

経済学者のヨゼフ・シュンペーターは技術革新(イノベーション)に着目したことで知られている。当初、イノベーションとして想定されていたのは、プロセスイノベーション(製造プロセスでの創造的な技術革新)とプロダクトイノベーション(革新的な製品の登場による創造)であった。しかし、高度な技術を駆使し、複雑な作られ方をしている製品が多数ある現代においては、プロダクトイノベーションからデバイスイノベーション(革新的な部品の登場による創造)を分けるのが適切だろう。  

身近な例でいえば、発明の対価が話題になった青色ダイオードがそれにあたる。青色ダイオードそのものはデバイス。これだけを渡されても、一般消費者は何もできない。でも、いまこのデバイスが、さまざまな製品に生かされ、イノベーションを巻き起こしている。  急激に発展している新分野の製品は、この3種類のイノベーションが複合するのが常で、液晶パネルやプラズマディスプレイパネルにおいても大型化、高画質化、低価格化を実現するためには、デバイスイノベーション、つまり部品の革新が不可欠なのである。

デジタル化の時代

レコードはCDにその座を追われ、アナログカセットテープはMDにとってかわられ、写真フィルムはメモリーカードとなり、ビデオデッキはDVDレコーダに置き換えられた。これらはすべて、情報がデジタル化されているところに共通点がある。1と0のデジタル信号のみで情報が表現され、コンピュータが処理をして、音楽や映像、画像となって私たちに提供されるのである。  

こうした情報のデジタル化という流れは、テレビにおいても例外ではない。しかし、テレビは放送方式と切っても切ることができず、アナログ放送である限りは、テレビ単独で技術革新を続けても限界があった。しかし、それもこれから数年のうちに、がらりと変わりそうである。ドイツワールドカップと北京五輪をターゲットに、放送インフラを含めて、テレビの世界が大きく変わり始めているからだ。ちょうど高度経済成長期に、カラーテレビが経済と技術を牽引したように、これから日本の電子産業を、再びテレビが牽引する時代が到来しているのである。

ノイズ対策が画質を支える

映像系のデジタル家電は、MPEGというデータ形式のデジタル映像データをどう扱うかが鍵となっている。ハイビジョンの局品質映像から、家庭用ビデオの録画映像にいたるまで、MPEG規格の中で処理されているのだ。動画といっても、実際は「動きの早い紙芝居」だ。MPEGは、その紙芝居を1枚1枚デジタル化して圧縮するのではなく、紙芝居の前後の絵を見比べて、その違いを効率よくまとめて圧縮している。  こうした処理には、高速で圧縮・伸長のできるLSIが不可欠だ。各社が「○×エンジン搭載」といっている「エンジン」の実際は、各社のノウハウでMPEGの処理に加え、画質での差別化行うための高速処理するLSIのことを指している。  

ところが、デジタル音楽にせよ、デジタル映像にせよ、LSI技術だけでコトが済むほど単純ではない。それは、テレビに映し出す場面、音楽を再生する場面において、ディジタル情報は電気信号波形に変換されて信号が伝送されている。つまり、アナログ処理になっているのだ。しかも高速データ伝送になるほどアナログ信号も高周波になるので、ノイズ防止が重要になってくる。  たとえば、デジタル家電用の新しい接続用インターフェイスとして制定されたHDMI(高品位マルチメディアインターフェイス)も、「コモンモードノイズ」と呼ばれるノイズの低減が求められる。

TDKが開発したHDMI用コモンモードフィルタACM2012Hは、ディファレンシャルモードの伝送特性カットオフ周波数を従来1.6GHzからいっきに6GHzまで拡大。信号品位にまったく悪影響を与えない広帯域を実現している。極小コアの導線間隔をミクロンオーダーで制御する精密自動巻線技術やターミネーション(端末処理)技術が投入され、他社の追随を許さない。

電圧・電流の制御が鍵

テレビといえば、映像信号の処理法ばかりに気をとられてしまいがちだが、目立たないところで、電圧と電流の制御も鍵となっている。たとえば、プラズマディスプレイでは、コンデンサなどの部品を活用して、消費電力を小さくする試みが進んでいる。プラズマテレビでは、発光する際に高い電圧を必要とし、消費電力が大きくなってしまう。しかし、高い電圧を発生させるのに要した電荷エネルギーを一度の発光ですべて使いきるわけではない。これをコンデンサやコイルなどの部品で電荷を回収し、次の発光に備えることで、ゼロから高電圧を発生させるのに比べ、消費電力を大きく削減できるのである。電荷の移動を、重い石を上げたり下げたりすることに例えれば、ヨーヨーの様な共振の仕掛けを使えばあまりエネルギーを消費しないですむ。電気の場合、コイルやコンデンサでこの共振回路を形成すればよい。

アナログからデジタルにいたるまで、その内容を問わず、デバイスイノベーションが続くからこそ、デジタル家電が急速に発展している。TDKのデバイスイノベーションがどんなプロダクトイノベーションにつながるか、これからますます楽しみである。

 

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