コンデンサ・ワールド

第5回 積層セラミックチップコンデンサの技術革新

同形状で約1000倍の大容量化、同容量で約100分の1の小型化を達成

半導体集積回路においては、“ムーアの法則”という経験則が知られています。シリコンチップ上のトランジスタの数が、約2年間で2倍のスピードで高集積化が進行するというものです。このムーアの法則に匹敵するほどのスピードで、飛躍的な小型化を成し遂げた電子部品。それが積層セラミックチップコンデンサです。

積層セラミックチップコンデンサは携帯電話で300個前後、パソコンやゲーム機では1000個以上も使用されています。モバイル機器をはじめとする電子機器の小型・軽量化は、積層セラミックチップコンデンサの小型化技術なくして実現しなかったといって過言ではありません。
積層セラミックチップコンデンサの特長は、電極を多数積層することで小型でも大きな静電容量のものが実現することです。1980年代初頭において3216サイズ(3.2mm×1.6mm)で静電容量0.1µFであったものが、現在ではその1000倍の100µFにまで達しています。これは大容量を誇る電解コンデンサの領域です。また、同じ静電容量で比較すると、小型化も著しく進んだこともわかります。たとえば1980年代初頭に3216サイズだった0.1µFコンデンサは、現在では0603サイズ(0.6×0.3mm)にまで小型化しました。これは体積比では約100分の1。イチゴの種よりも小さな、肉眼では外観が確認できないほどのサイズです。

積層セラミックチップコンデンサはこうして製造される

民生電子機器における積層セラミックチップコンデンサの搭載は、1970年代のポケットラジオに始まります。もともと積層セラミックチップコンデンサは、小型化や耐久性が求められる宇宙機器用に開発されたもので、製法は他のコンデンサと大きく異なるものです。
まず精製された原料粉末をペースト状にして、これをキャリアフィルムに薄くのばして乾燥させ、グリーンシート(生のシートという意味)と呼ばれる誘電体シートをつくります。続いてこの誘電体シートに内部電極となる金属ペーストをスクリーン印刷して、これを数10枚〜数100枚あるいは1000枚以上も重ね合わせてプレスしてチップサイズに切断し、焼成炉で焼き上げます。こうして堅いセラミックスになったチップの両側に、外部電極のペーストを塗布して焼き付け、めっきをほどこすと、ようやく積層セラミックチップコンデンサが完成します。

材料技術、積層技術、焼成技術など、さまざまな要素技術が求められる

積層セラミックチップコンデンサは、さまざまな要素技術のインテグレーションによって製造されます。なかでも小型化・大容量化のキーテクノロジーとなるのは、誘電体シートや内部電極の薄層化技術です。積層数が1000層にもなると、誘電体シートの厚みは、1ミクロン(µm)以下にもなります。これは上質紙の100分の1以下、台所用ラップフィルムの10分の1以下という薄さです。このため、積層セラミックチップコンデンサには先進ナノテクノロジーも要求されます。TDKでは、誘電体粒子そして内部電極となるニッケル粒子をナノメートルオーダーで高品質に微粉化・分散化する技術により、極限に迫る薄層化を実現しました。
誘電体シートは、薄いうえにもろくて割れやすい性質があります。このためシートのキャリアフィルムからの剥離や、ズレなどのない高精度なシート積層にも、高度な技術が求められます。また、焼成工程における炉内の気体環境のことを“雰囲気”といい、炉内の温度コントロールとともに緻密な雰囲気制御も不可欠です。

TDKがいちはやく確立したニッケル内部電極化技術

積層セラミックチップコンデンサは、1000℃前後〜1300℃の温度で焼成されます。しかし、通常の空気雰囲気で焼成すると内部電極が酸化されてしまい、かといって酸素の少ない還元雰囲気で焼成すると、誘電体が還元されて半導体化し、コンデンサとしての特性が劣化してしまいます。このため、かつては内部電極としてパラジウムや銀など、酸化しにくい貴金属が使われていました。しかし、エレクトロニクスの発展によりコンデンサの使用量が急増するにつれ、内部電極に安価な卑金属を採用する技術が求められるようになりました。そこでTDKがいちはやく技術確立して量産化に成功したのが、ニッケル内部電極積層セラミックチップコンデンサです。
積層セラミックチップコンデンサには、温度特性の違いにより低誘電率系(種類Ⅰ)と高誘電率系(種類Ⅱ)の2つのタイプがあります。TDKでは1988年にまず高誘電率系において、さらに1999年には至難とされた低誘電率系においてもニッケル内部電極化を達成しました。

ICやLSIの低電圧駆動化に対応したULI、次世代ULI

前号でご紹介したように、積層セラミックチップコンデンサはESR(等価直列抵抗)やESL(等価直列インダクタンス)が低いという特長をもっています。アルミ電解コンデンサは大容量が持ち味ですが、ESRが高いため、100kHz以上の高周波領域では発熱ロスが大きくなって使用できません。積層セラミックチップコンデンサはESR・ESLがともに低いため、自己共振周波数(SRF)も高く、高周波回路でもすぐれた特性を発揮します。
加えて近年、デジタル機器には省消費電力が強く求められ、ICやLSIは低電圧駆動化の傾向にあります。このため、電圧変動を抑制するデカップリングコンデンサ(パスコン)として、小型ながら大容量で、かつ高周波特性にすぐれた低ESLタイプの積層セラミックチップコンデンサが多用されるようになっています。パソコンのマイクロプロセッサを取り外してみると、小さな積層セラミックチップコンデンサが多数実装されているのがわかります。これもデカップリングコンデンサです。
小型化・大容量化とともに、低ESL化は積層セラミックチップコンデンサの主要な技術トレンド。フリップタイプのコンデンサ(外部端子の位置を縦横反転して低ESL化)や3端子貫通型コンデンサ(貫通コンデンサを積層構造に応用して低ESL化)は、デジタル化・高周波化時代の申し子ともいうべき積層セラミックチップコンデンサです。
最近ではさらなる低ESL化を図ったULIと呼ばれるコンデンサも登場しています。インダクタ成分であるESLは、コンデンサの急速な充放電を妨げるように作用するため、回路の高速化の支障となります。ULIは多端子型で、電流方向が隣接端子で互いに逆方向になるように設計されています。内部電極に流れる電流は逆方向となるため、発生する磁界が相殺され、結果的にESLを低くすることができるのです。さらに多端子型を推進し、低ESL化を図った次世代ULIの研究開発も進んでいます。
エレクトロニクスが今後どのように発展を遂げるか誰も正確に予測できません。しかし、電荷を蓄える、直流を遮断し、高周波の交流ほど通しやすい機能をもつコンデンサが、エレクトロニクスに不可欠な素子として、これからも活躍を続けることは間違いありません。

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コンデンサの基本構造と性質・静電容量


・電解コンデンサ
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電解コンデンサの種類・構造・基本原理

・フィルムコンデンサ
フィルムコンデンサの主要特性
フィルムコンデンサの種類・構造・基本原理

・積層セラミックチップコンデンサ
積層セラミックチップコンデンサの主な特性


 

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