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ピタリと付ける技術を高める。ボッチャと磁石の共通点とは?

2021年に開催された東京パラリンピックにおいて、杉村英孝選手が個人戦で日本人史上初となる金メダルを獲得し話題となった「ボッチャ」。重度脳性麻痺者や四肢重度機能障がい者のためにヨーロッパで考案されたスポーツです。障がい者から健常者まで誰でも楽しめるため、近年では住民の交流の場としても注目されています。

誰にでも出来る頭脳戦スポーツ

ボッチャは、ジャックボールと呼ばれる白いボールに向かって、赤・青のボールを投げたり、転がしたりして、いかに近づけるかを競うスポーツ。1対1の個人戦の他に、ペア戦やチーム戦もあります。幅6m×長さ12.5mの長方形のコートで1エンド6球ずつを投げ、個人戦とペア戦は4エンド、チーム戦の場合は6エンドの合計点で勝敗が決まります。ジャックボールに自分のボールを近づけるだけ、というシンプルなルールですが、戦術的な面白さや一投での逆転劇もあるなど、観客も一緒になって盛り上がる競技です。

ボッチャは幅6m×長さ12.5mの長方形の屋内コートで行われる。障がいによってボールを投げることができなくでも、勾配具(ランプ)を使ってボールを滑り落とすことができる。

もともと、重度脳性麻痺者や同程度の四肢重度機能障がい者のために考案されたスポーツのため、重度障害でボールを転がせない場合には、自分の意思を介助者に伝えて介助者が勾配具(ランプ)でボールを転がすことも認められています。

ボッチャはカーリングのように、目標となるジャックボールにいかに自分のボールを寄せられるかを競います。すでに投げられたボールに自分のボールをぶつけてどかしたり、ボールを上からストンと落として今あるボールの上に乗せたりと、多彩なアプローチがあります。ジャックボールにもっとも近いチームが勝利し、得点はボールの数で決まります。ジャックボールに近いボールが複数ある場合は、下図のように相手のジャックボールを中心とした円を描き、その円の中にあるボールの数をカウントします。

ボールの特性を選んで目標に寄せる

選手は投げられる6つのボールを有効に活用するため、「転がるボール」「止まるボール」「はじくボール」など役割の異なるボールを使い分けます。

ボールの素材は、天然皮革・人工皮革・フェルトなどがあり、既定となる275gの重さに対し、プラスマイナス12gの範囲内で詰め物の量を調整できます。そのため、勢いよく転がるボール、投げたらまったく転がらずにピタリと落下した位置で止まるボール、相手のボールを弾き飛ばす硬いボールといった、転がり具合や止まり具合を変えたものを準備します。6つのボールはそれぞれ一度だけしか使えないため、どのタイミングでどのボールを使うかが戦略のひとつとして重要となります。

ボッチャ競技の中でもっとも重要となるのが、自分のボールをジャックボールにピタリと寄せて止めること。東京パラリンピックの実況中継でも「ビタ付け」という表現が話題となるほど、投げたボールを狙った場所にきっちり「止める」ことが勝負のカギを握るのです。

投げたボールを止めるのか、相手のボールをはじくのか、ボールの上に乗せるのかなど、投げ方のテクニックにはそれぞれ名前がついています。「アプローチ」「ヒット」「プッシュ」「ライジング」「ジャンプ」といった投げ方が下図のようになります。

特に「ロビングボール」と呼ばれる、相手がブロックしたボールを超えて、直接ジャックボールにピタリと付けて止めるテクニックは観客を魅了します。そのボールの止まり方はまるで磁石に吸い付けられるようで、ボッチャ競技のなかでも特に難しいテクニックとされています。

ピタリと鉄を吸い付ける最強のネオジム磁石

一流のボッチャ選手が投げるボールのように、ピタリと鉄を吸い付ける最強の磁力を持った磁石が「ネオジム磁石」です。

レアアースの一種であるネオジムと、鉄やホウ素などを原料に使った「ネオジム磁石」は、フェライト磁石の約10倍の強さを持ち、「世界最強の磁石」といわれています。わずか1cm程度の大きさのネオジム磁石同士を引き離そうとすると、大人の力でも大変なほどです。小さいながらも強い磁力を持つことから、パソコンのHDDやスピーカー、各種モータ、電気自動車、医療機器、風力発電機などに幅広く使用されており、各種機器の小型化や高性能化に役立っています。

磁石の開発の歴史を振り返ります。現在、工業生産されている主な磁石は、金属磁石と酸化物磁石(フェライト磁石)に大別され、このうち強い磁力を特長とする金属磁石には、アルニコ磁石に代表される合金磁石と、ネオジム磁石に代表される希土類磁石があります。20世紀の半ば過ぎまで磁石の主役となっていたアルニコ磁石は、溶解した金属原料を鋳型(いがた)に入れ、特殊な熱処理を経て製造されます。これを鋳造(ちゅうぞう)磁石といいます。このアルニコ磁石にかわって登場したのが希土類磁石で、なかでも1980年代に発明されたネオジム磁石は、史上最強の磁石としての王座を守り続けています。

(出所)産業技術総合研究所の資料をもとに作成

最強の磁力持っているネオジム磁石ですが、まだ改良の余地は残されています。ネオジム磁石は精密調整された粉末原料を成形・焼成して製造されます。TDKでは長年に渡り蓄積した材料技術をナノスケールで展開、原料粉末の微細化や均一化、焼成温度・雰囲気の高度なコントロールなどにより、磁気特性をいちだんと向上させた世界最強レベルのネオジム磁石の開発に成功しています。

また、TDKではネオジム磁石の製造において添加物として加えられるDY(ジスプロシウム)やTb(テルビウム)などのレアアースを一切使用しない高性能マグネットや、従来工法に比べて重希土類の使用量を大幅に削減する独自の「HAL工法」による高性能マグネットの開発にも取り組んでいます。強力な磁力によって物を引き付ける最新の磁石が、電子機器を始めさまざまな場面で活躍し、新しい時代の可能性も引き寄せています。

ネオジムマグネット

世界最高レベルの残留磁束密度と保磁力、(BH)maxを達成したTDKのネオジムマグネット。各種磁気特性をラインナップ。マグネット応用機器の飛躍的な小型・薄型化、ハイパワー化が可能です。

TDKは磁性技術で世界をリードする総合電子部品メーカーです

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