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「音」で周囲の状況を判断する、ブラインドサッカーと自動運転車の意外な関係

視覚に障がいのある選手がプレーするブラインドサッカーは、声や音、そして仲間を信じる気持ちを頼りにプレーする5人制サッカーです。ゴールキーパー以外は全盲の選手で(日本国内の大会では弱視者、晴眼者も可)、アイマスクを装着し、音の出るボールを用いてプレーします。2021年に開催された東京パラリンピックでは日本代表男子は5位でしたが、2022年に開催された「ブラインドサッカーワールドグランプリ in フランス」では準優勝となりました。

音を頼りに相手とゴールを判断する

ブラインドサッカーでは、ゴールキーパーを除いたフィールドプレーヤーの全員が全盲の選手で、アイマスクを装着してプレーします。視覚をさえぎられた状態で、ドリブルやパスを行う選手の姿は圧巻です。ピンポイントにパスを通したり、相手を避けながらドリブルしたり、また、かなりの速度でシュートを打ったりと、声や音だけを頼りに動いているとは思えないほどのプレーに驚かされます。

選手は声と音だけを頼りにするため、観客はプレー中に歓声を送ることはできません。唯一声を出せるのはゴール時だけです。ゴールが決まったことを選手に伝えるためにも、観客席からは大きな歓声が上がります。ブラインドサッカーの試合では、選手がまるでボールや相手の動きが見えているかのようですが、後天的に視覚に障がいを持ってからブラインドサッカーをはじめた選手にとっては、競技を始めた頃には強い恐怖心があったと語ります。

ブラインドサッカー日本代表の川村怜選手は日本サッカー協会のインタビューにおいて、「最初にピッチに立った時は自分がどこを向いているのかも分からず、怖くて走ることすらできなかった」と語ります。それでは選手は、どのようにしてプレーしているのでしょうか。

ブラインドサッカーで使用するボールの内部には金属のプレートが取り付けられており、転がると「シャカシャカ」という音が鳴ります。この音によってフィールドプレーヤーたちはボールの位置や転がり方を把握します。また、相手チームのゴール裏にはガイド(コーラー)がいて、相手や味方の位置、ゴールまでの距離、シュートのタイミングなどを声で伝えます。

フィールドプレーヤーがボールを持った相手に向かって行く時には、危険な接触を防ぐために必ず「ボイ!」(Voy:スペイン語で「行く」の意味)というかけ声を発さないといけません。弱視者または晴眼者が務めるゴールキーパーは、アイマスクなしでボールの行方を確認しながらゴールを守ります。

一般的に「情報の8割は視覚から得る」といわれていますが、視覚が制限されるブラインドサッカーは、視覚以外の「音」と「声」に対して感覚を研ぎ澄ませて行われるスポーツなのです。

ブラインドサッカーは4名のフィールドプレーヤーと1名のゴールキーパー、監督とガイド(コーラー)の計7名により、前後半各20分で行われる。

音から距離を測定する

ブラインドサッカーの選手は、ボールから出る音、チームメイトやガイドの声を聞くことで、ボールの位置やゴールの方向を判断します。また、音や声の大きさを通じて、ボールや相手との距離を判断することができます。このように、音を利用して距離を測定する技術は、さまざまな電子部品にも活かされています。そのひとつが「超音波センサ」です。超音波センサは、人間には聞こえない高周波の音を利用して距離を測定するセンサで、送信機から超音波を発信し、障害物に反射して戻ってくる音波を受信機で受け取り、その往復の時間を測定して距離を算出します。

例えば、漁船が魚の群れを発見する際に使われる「魚群探知機」では、超音波を海底に向けて発信し、何かにぶつかって戻るまでの時間から距離を計算しています。水中では音波は1秒間に約1,500mの速さで進むため、海底に向けて発信した超音波が1秒で返ってくれば、水深が約750mであることが分かります。また、海底よりも短い時間で返ってきた場合には、魚の群れがいることやその深さを知ることができます。

幅広い用途で活用される超音波センサ

超音波センサは、センサから発信した超音波が返ってくる時間によって距離を測ることから、ToF(Time-of-Flight:飛行時間)センサとも呼ばれています。

「超音波」とは、人間の耳で聴くことのできる周波数帯(約20~20,000Hz)以上の音波のことです。聴覚は人間よりも動物のほうが発達していて、コウモリやイヌ、ネコ、ネズミなど、超音波が可聴周波数となっている動物は珍しくありません。たとえば、イヌに合図を送る犬笛(ドッグホイッスル)の周波数は約30,000Hzで、人間には聞こえないものの、イヌには聞こえる超音波を利用しています。また、昆虫の蛾(ガ)が超音波の可聴域をもっているのは、天敵であるコウモリが発する超音波を検知して身を守るためといわれています。

超音波センサは、光学式のセンサと異なり、対象となる物が透明な物質や液体、また霧の中や直射日光下などの条件でも正確に距離を測定できます。現在では、自動運転車や家電機器、ドローン、ロボット、AR/VRデバイスなどに幅広く活用されています。

小型化を実現するMEMS超音波センサ

これまでの超音波センサは、超音波を発する圧電振動子と呼ばれる部品や共振器として使用されるコーンなどの部材を組み立てたアセンブリ品であり、製品の小型化に限界がありました。ウェアラブル機器などの小型の機器に超音波センサを搭載するためには、センサの小型化が課題となっていました。

TDKの超音波センサは、超音波の発生機構を先進の加工技術であるMEMS(微小電気機械システム)技術によって形成し、従来型と比較して体積が約1,000分の1という驚異的な小型化を実現しました。3.5×3.5×1.25mmの小型ケースの中に、超音波を発生する素子と信号処理をになうASICなどがコンパクトにパッケージングされています。

TDKの超音波センサには、先進のMEMS技術はじめ、独自アルゴリズムのDSP(デジタルシグナルプロセッサ)などによる信号処理回路、さらには小型モジュール技術やパッケージング技術など、TDKのコアテクノロジーである「製品設計技術」を駆使した革新的な製品です。低消費電力と超小型という特長により、バッテリ駆動するIoTデバイスやウェアラブルデバイスなど、さまざまなアプリケーションに期待できます。視覚に頼ることなく、音の方向や声の大きさから周囲の状況を判断して正確なプレーをするブラインドサッカー選手のように、高い技術力で幅広く活躍しています。

TDKの超音波ToF(Time-of-Flight)センサ

TDKの超音波ToFセンサ「SmartSonic™」は、MEMS技術によるPMUT(圧電MEMS超音波トランスデューサ)と超低消費電力のSoC(システム・オン・チップ)を統合した、高性能測距センサモジュールです。測定対象との距離を最大5メートルの範囲で高精度に測定することができます。障害物回避、人感検知、ロボット、セキュリティ・監視、AR/VR、ドローン、水位検出、スマートホーム/ビル、その他各種IoTデバイスなど、多種多様なアプリケーションに最適です。

TDKは磁性技術で世界をリードする総合電子部品メーカーです

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