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4. ヘッド技術は先端半導体レベル

磁気ヘッドの製造技術は微細加工のレベルで見ると最先端の半導体に匹敵する。いずれも“ナノ”を相手に日夜奮闘している。ブロードバンド・デジタル時代を支える両輪として技術革新のスピードを速める。

精密化する磁気ヘッド、微細加工では半導体を超える

今年(2003年)後半にも登場する最先端の半導体LSIは90ナノメートル・レベルの精密加工技術を導入している。ここではフッ化アルゴンという紫外線ガス・レーザーを用いて、回路の最小線幅が90ナノメートルに達する微細な電子回路を描く。電子回路の大きさの指標であるCMOSトランジスタのゲート長は50ナノメートル・レベルになる。トランジスタの動作を保証するゲート酸化膜の厚さは1ナノメートルとなる。10ミリメートル角のシリコン・チップに1億個近いトランジスタが収まる勘定になる。

微細さでは磁気ヘッドも負けていない

しかし、こういう数字に驚いてはいられない。磁気ヘッドにもこのレベルに匹敵する技術が活躍している。“ナノメートル”という単位は磁気ヘッドにとっては日常茶飯事だ。ある意味では半導体よりナノに近い。特に読み取りヘッドの中核素子であるGMRのスピンバルブ膜は厚さ数ナノメートルの膜を何層も重ね合わせて作る。いわばナノ技術の塊とも言える部分だ。半導体との違いは回路の規模にある。半導体が大規模な集積回路を製造するのにナノを用いるのに対して、磁気ヘッドは欠陥の少ない磁気1回路を作り出すのにナノを利用する。

次期主力ヘッドは100ギガビット/平方インチ以上を狙う

記録密度を支えるTMRヘッドの薄膜(中央の黒い層)

次世代の主力磁気ヘッドと目されるトンネリングGMR(CPP-TMR)はナノ技術の粋を集めたものだ。現在の最先端ハードディスク(HDD)の記録密度が60ギガビット/平方インチであるのに対して、CPP-TMRは100ギガビット/平方インチ以上をターゲットにする。CPP-TMRはこれまでのGMRヘッドと違って、ディスク記録面からの漏れ磁界を検出する検出電流が多層の磁性膜と垂直な向きに流れる点にある。  

CPP-TMRは厚さ1ナノメートル以下の絶縁層を挟んで数ナノメートルから数十ナノメートルの強磁性層や反強磁性層をサンドイッチ状に重ねて作る。製造技術的には各種の磁性材料を含む多数の金属材料ターゲットを備えたスパッタ真空槽内で数原子レベルの厚さをコントロールしながら、それらの材料をスパッタし多層膜を形成する精密な工程になる。ナノメートル・オーダーの作業なので、真空の質、スパッタ条件、時間の管理が決め手になる。磁気ヘッドは半導体とは異なりアルティク基板上にたくさんのヘッド素子を並べて製造する。

垂直磁気記録も目前に迫る

垂直記録用の単磁極ヘッド

 「次の次」あるいは「さらにその次」には「垂直磁気記録」と呼ばれる技術が控えている。これまでのHDDはディスク面の長手(円周)方向に情報ビットを記録していたが、これから先は深さ(垂直)方向に磁気記録する方式になる。これによってディスクの記録密度が飛躍的に高まることが期待されている。垂直磁気記録は磁気ヘッド、とりわけ書き込みヘッドに変化を迫る。これまでは薄膜リングヘッドと呼ばれる方式だったが、深さ(垂直)方向へ書き込むために「単磁極ヘッド」という方式を採用する。単磁極ヘッドも半導体集積回路と同様なリソグラフィ技術(配線描画技術)を用いて製造される。  

垂直磁気記録に移行すると読み取りヘッドにもさらに高感度の性能が要求される。垂直記録になるとビット当たりの記録面積が微細になるからである。  

さまざまな難関を突破しながらハードディスクの記録密度は爆発的な伸びを続けてきた。記憶容量に対する時代の要請は今後もとどまることを知らない。ハードディスクをめぐる状況は熱い。

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