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2. ハードディスクの中のナノ宇宙

現実のナノテクは意外に身近なところにある。あなたの前にあるパソコン。その中にナノテクの宝庫が眠っている。実はハードディスクは何を隠そうナノテクの塊だ。磁気ヘッド、ディスク・メディアなど、ナノ・スケールの技術がひしめいている。映像、画像、サウンドといったマルチメディア・データを気軽に送受信できるブロードバンド時代の実現にはナノテクを駆使した大容量のハードディスクの貢献が大きい。

パソコンの隠れた心臓部 ハードディスクはナノテクの宝庫

HDDはパソコンの心臓部

画像や映像などの大量のデータを手許にあるパソコンで編集できるようになった。ひと昔前なら大きな編集スタジオでなければできなかった作業が目の前にある普通のパソコンを使えばできる。こんな芸当ができるのは、もちろんCPUチップの処理性能が格段に向上した結果だが、それと並んでハードディスク装置(HDD)の記憶容量が爆発的に増加したことも大きく影響している。

記憶容量は1年で2倍

最近では1.5年で2倍程度と若干ペースは落ち気味だが、ここ数年は1年で記憶容量が2倍に伸びるのが常識だった。パソコンの最新機種では80ギガバイトのHDDを内蔵するのが当たり前で、ほんの1年前に購入したばかりのユーザを悔しがらせもする。こうした背景にはCPUの高速化競争に負けず劣らず、HDDの熾烈な大容量化競争がある。何を隠そうHDDは“ナノテクの宝庫”と呼べるほどの超精密機器なのである。  

HDDの大容量化を支えてきたのは、ディスク・メディアの工夫と並んで、単位面積当たりのビット記録密度を高める磁気ヘッド技術と言える。ハードディスクは非接触のヘッドによってディスク面の情報ビットを読み書きする。磁気ヘッドはディスク面の上、10ナノメートル以下を飛行する浮上物体だ。ヘッドとディスク面の間隔を浮上距離と呼ぶ。たとえて言うと、ジャンボジェット機が地上1ミリメートルを飛行しているのと同じ感覚である。こんなあり得ないような光景がHDDの中で日夜繰り広げられているのだ。

磁気ヘッドはナノ製品

HDDヘッドの電子顕微鏡写真

HDDの記憶容量を高める取り組みは“ナノとの競争”でもある。ディスク面の記録密度を高めるには、磁気ヘッドの読み取り感度を上げて、記録面にできるだけ近づける必要がある。市販されている最新のHDDでは、1平方インチ(25.4ミリメートル角)の面積に、なんと60ギガビット(600億ビット)の情報を記録できる。これは直径3.5インチのディスクに換算すると、1枚当たり80ギガバイト(800億バイト)の容量になる。PC用のHDDはディスク1枚が普通であるが、サーバー等の用途のHDDは通常2〜4枚のディスクを内蔵するので、このような用途のHDD1台当たりの記憶容量は160〜320ギガバイトに達する。320ギガバイトというとすぐにはピンとこないが、30巻構成の大百科事典40セットがすっぽり入るほどの大きさだ。DVDの映画に換算すると2時間ものが1台のHDDに80本収められる勘定になる。

ギガHDDを支えるナノテク

これほどまでに記憶容量が増えたのは、MRヘッドさらにはGMRと呼ばれる磁気ヘッドが開発されてからである。GMR(巨大磁気抵抗)技術はHDDの記憶容量を爆発的に増加させた。このGMRにもナノテクが貢献している。GMRヘッドは厚さ数ナノメートルの金属膜を重ねて作る。特にスピンバルブ膜と呼ばれるGMRの中核部分は1ナノメートルレベルの磁化絶縁層で原子数個分の厚さしかない。この磁化絶縁層を挟む磁性層も数ナノメートルの厚さしかない。磁化絶縁層を性質の異なる二つの磁性層でサンドイッチ型に挟んだ構造をスピンバルブ膜と呼ぶ。さらにそれぞれの磁性膜はいくつもの磁性膜、非磁性膜の積層膜となっている。このような薄い膜を重ねる積層成膜技術、またそれらの膜をナノメートルレベルの微細パターンに加工して所定のヘッド構造に作り上げる技術は、最先端の半導体集積回路製造技術に匹敵する。 この分野ではTDKを始めとする数社が技術開発にしのぎを削っている。研究開発には多大な投資が伴うので、HDDの事業から撤退する企業もある。それほど技術開発競争は熾烈を極める。

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