なるほどノイズ(EMC)入門

【部品編①】コンデンサは最もシンプルなノイズフィルタ

抵抗、コイル(インダクタ)、コンデンサは電子回路を構成する3大受動部品。なかでもコンデンサは電荷を蓄えるという役割とともにノイズ除去でも大活躍。デジタル機器の小型化・高周波化が進むにつれ、パスコン(バイパスコンデンサ)やデカップリングコンデンサには、低ESL・低ESRタイプが多用されるようになっています。

ノイズにも色がある?

様々な周波数成分をほぼ同じ強度で含むノイズのことをホワイトノイズといいます。雨音や川のせせらぎ、木の葉のさやぎなどは、ホワイトノイズに似た自然界の雑音ですが、長く聞いていても意外にやかましくはなく、かえってリラックス効果や快い睡眠をもたらしたりします。それにヒントを得て、身の回りの耳障りな物音を、わざとホワイトノイズで隠してしまおうというのがホワイトノイズマシンなどと呼ばれる電子機器。睡眠導入や仕事集中用として、スマートフォンでも聞ける専用アプリもあります。

白色光は虹の七色に分解されるように、ホワイトノイズはほぼ同じ強度の様々な周波数成分からなる。
電子回路で発生する不規則ノイズもホワイトノイズが多い。パルス状のノイズも多くの周波数成分を含む。

ホワイトノイズにフィルタがかけられ、周波数が高くなるほど弱くなったノイズがピンクノイズやレッドノイズです。太陽光のスペクトルで周波数が高いのは青色側の光です。青色側の周波数が弱まると、相対的に赤色側が強調されるので、ピンクノイズ、レッドノイズと呼んでいるのです。
電圧が一定に保たれている理想的な直流電流は、色にたとえるなら無色透明な電流です。 一方、特定の周波数で流れる交流電流は、何らかの色をもつ電流といえます。また、直流電圧を頻繁に変動させるノイズというのも、交流電流の一種とみなせます。通常、ノイズはさまざまな周波数成分を含むので、色にたとえるなら混合色です。広帯域の周波数成分を含むようになると、しだいにホワイトノイズに近づいていきます。純白という言葉がありますが、ノイズに関していえば白は最も濁った色なのです。
電子回路に流れる直流電流にノイズが混入すると、電圧を変動させてICの誤動作などをもたらしたりします。そこで、このノイズ成分を除去するためにコンデンサが多用されます。コンデンサは直流電流を遮断してノイズ成分を流す最もシンプルなフィルタとして機能するからです。しかし、コンデンサにも多くのタイプ・特性(周波数-インピーダンス特性など)があり、使い方を間違えると、かえってノイズを増やしたりします。

パスコンはデカップリングコンデンサとも呼ばれる

電子回路におけるノイズ除去用として、コンデンサは次のように使われています。
[1] アクロス・ザ・ライン:2つのライン間のノイズの除去
[2] パスコン(バイパスコンデンサ):直流電源からのノイズの除去
[3] デカップリング:回路のループを小さくして、別の回路からのノイズを遮断(電源ラインの電圧変動を少なくして、回路間の干渉を抑制)
[1]は、直流電流は流さず、交流電流だけを流すコンデンサの基本性質から、容易に理解できますが、[2][3]については、ちょっと詳しい説明が必要です。
デジタル機器の回路を眺めると、ICの電源ラインにコンデンサがたくさん取り付けられていることがわかります。電源ラインにまぎれこむノイズをグランド側にバイパスさせるため、パスコンと呼ばれています。
パスコンにはもう1つの重要な役割があります。ICの動作に必要な電荷を供給し、電源電圧を一定に保つ役割です。このときコンデンサはバッテリのような役目を果たしています。もしコンデンサがなければ、IC動作にともなって電源電圧が変動して、ICはノイズの製造器となってしまうからです。
デカップリングコンデンサはパスコンとも深く関わったものですが、その目的は異なります。IC動作に必要な電荷が、遠く離れた別のコンデンサから供給されることがあります。これはノイズ発生の原因となるので遮断しなければなりません。簡単にいえば各回路を独立させ、ノイズの越境を防止するのが[3]のデカップリングの目的です。デカップリングとは連結(カップリング)を除去する(デ)という意味です。

パスコンをICに近づけて実装する理由

コンデンサは微小ながらインダクタンス成分や電気抵抗成分を含んでいます。これをESL(等価直列インダクタンス)・ESR(等価直列抵抗)といいます。ESLやESRはコンデンサにとって不要な寄生成分で、この値が大きなコンデンサをパスコンとして使うとノイズ発生を助長してしまいます。

コンデンサの静電容量は、電極の面積・誘電率に比例し、誘導体の厚さに反比例する。

電源が切り替わるたび、蓄えられた電荷の放電と、逆方向への充電が繰り返され、交流電流が流れる。

そこで、従来はICのまわりに多数のコンデンサを取り付けて、低ESR・低ESL化を図る必要がありました。この問題を解決して、1つのコンデンサですむようにしたのが、低ESLコンデンサです。
パスコンはICに近づけて挿入するというのが鉄則となっています。回路の配線すらアンテナとなってノイズの発生源となるからです。回路の配線ばかりでなく、パスコン内部にも電流ルートがあるので、これをできるだけ短くするような構造としたのが、低ESLコンデンサです。

低ESLコンデンサには縦横反転型と3端子貫通型の2タイプがあります。通常の2端子型の積層セラミックコンデンサは、横方向(長手方向)に端子電極がついていますが、これを縦方向にしたのが縦横反転型のコンデンサ。縦横を反転させることにより、内部電極の電流ルートは広く短くなり、低ESL化および低ESR化が達成されるのです。
この考え方をさらに推し進めたのが3端子貫通型コンデンサです。内部電極をはさむようにアース電極が積層された構造となっていて、ESLを縦横反転型よりも、さらに低減することができます。高周波化・高集積化が進行するデジタル機器に威力を発揮するノイズ対策部品です。

コンデンサが無い状態や一般のパスコンを使用している時に比べ、低ESLはノイズをキレイに除去している。

一般的なチップコンデンサに比べて、より高周波領域においてノイズバイパス効果を発揮している。

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