じしゃく忍法帳
第93回「DIYと磁石」の巻
電動工具のニュートレンド
“七つ道具”もさまざま
槌(つち)、斧(おの)、鎌(かま)、鋸(のこ)、熊手(くまで)など、弁慶が背負ったといわれる七種の武具のことを“七つ道具”といいます。これだけ揃っていると確かに便利ですが、かさばるうえに重いのが難点。そこで、忍者は携帯用の道具を自作しました。折りたたみ式の鑿(のみ) や錐(きり)、木の葉型の両刃ノコギリである錣(しころ)、土を掘るためのシャベルに似た苦無(くない)などです。
サバイバル用のツールナイフは、もっとコンパクトな七つ道具。小型ナイフに、ドライバ、ヤスリ、缶切りなどをまとめたもので、登山やキャンプなどで重宝します。カッターナイフ、ホチキス、モノサシなどをまとめた文房具バージョン、またハサミ、糸巻きなどをまとめた裁縫道具バージョンなどもあります。
木工、金工、ガーデニング、はてはマイホームの増改築まで、DIYブームは衰えるところを知らずホームセンターは大盛況。さまざまな電動工具が所狭しと並べられています。数ある木工用の電動工具のうち、あえて七つ道具を選ぶとすれば、電動ドライバ、電動ドリル、電動丸ノコ(あるいはテーブルソー)、電動カンナ、電動サンダ、曲線挽きに使われるジグソー(あるいは卓上糸のこ盤)、溝掘りや面取りなどに使われるトリマ(あるいはルータ)といったところでしょう。このほか、バンドソー(ベルト刃のノコギリ)、グラインダ、ボール盤、木工用旋盤なども使われます。かつては高価でしたが、近年は価格ダウンが進んで、DIY用に買い揃えるようができるようになりました。
便利なコードレス電動ドライバ
電動工具なしでも木工は可能ですが、あると便利なのは電動ドライバ。ネジを締めるのにけっこう力がいるもので、数をこなすと手首の関節を痛めたりします。しかし、電動ドライバがあれば太いネジでも簡単に締められるうえ、小さな穴ならドリルの刃を取り付けて電動ドリルがわりにもなります。電動ドライバの便利さを知って、木工を楽しむようになったという人もたくさんいます。
ドライバとドリルの兼用タイプもあり、これは電動ドライバドリルなどと呼ばれます。充電できるコードレスタイプは、コンセントのないところでも使えます。また、打撃力を与えながらネジを回すタイプはインパクトドライバと呼ばれ、通常のドライバの数倍の威力を発揮します。
電動工具の性能はモータに左右されます。充電式の電動ドライバドリルに使われているのは、永久磁石を利用したDCモータ。コイルを巻いた積層鉄心を電機子(ロータ)、永久磁石を界磁(ステータ)とし、整流子(コミュテータ)を設けたモータです。整流子は切り替えスイッチの役割をして、電機子に巻かれたコイルには、ブラシを通して電流が流れます。整流子は電流の方向を次々と切り替えて一定方向の回転を得ます。
電動ドリルドライバの値段が数千円から5万円を超すものまで幅広くあるのは、主に内蔵したモータと充電池の性能によるものです。小型・軽量・ハイパワーの電動ドライバドリルには、希土類磁石のモータとニッケル水素電池が使われています。
ロータに磁石を利用したブラシレスモータ
ACコンセントにつないで使う一般的な電気ドリルや電動丸ノコなどには、直巻整流子モータ(ブラシモータ)が使われています。DCモータと違うのは、ステータが永久磁石ではなく電磁石となっていること。直巻というのは、電機子コイルと界磁コイルが直列に接続されていることによるものです(並列接続されているタイプは分巻といいます)。
直巻モータの発生トルクは電機子コイルに流れる電流と、界磁コイルに流れる電流の積に比例します。このためきわめて大きな始動トルクが得られ、電動ドリルや電動丸ノコのような電動工具のほか、電気掃除機やミキサーなどにも使われています。
整流子タイプのモータの欠点は、ブラシと整流子の間に電気火花が発生し、電磁ノイズが発生することです。電動工具や電気掃除機などを使うと、テレビ画面に白いチラツキが現れたりするのはこのためです。また、ブラシ(カーボンブラシなど)は磨耗するので一定時間使用したら交換が必要になります。そこで、近年は直巻整流子モータにかわって、永久磁石を利用したブラシレスモータの電動工具も多くなっています。
DCモータからブラシと整流子をなくしたのがブラシレスモータの基本構造。ただし、ブラシと整流子がないかわりに、トランジスタによる整流回路が設けられ、電子的に回転磁界を発生させ、永久磁石を取り付けたロータを回転させています。
ブラシレスモータは小型・軽量・高出力、また高速回転を得るのにもつごうのよいモータで、電動工具ではハンドグラインダなどに用いられています。毎分2万回転もの高速回転が可能なので、金属や陶器などの精密な穴あけ、ガラス面への模様彫りなどに使われます。
図1 DCモータの内部構造
ブラシレスモータの3タイプ
ブラシレスモータにはロータとなる永久磁石とステータの位置関係により、3つのタイプがあります。ステータの駆動コイルの内側に永久磁石のロータを置いたものはインナーロータ型といい、駆動コイルの外側に置かれたカップ状のロータが回転するタイプをアウターロータ型といいます。また、駆動コイルと円盤状のロータを対面させるように配置したタイプはフラットロータ型と呼ばれます。ロボットのように頻繁な正逆転が必要な機器にはインナーロータ型、大きな慣性力が必要な機器はアウターロータ型が向いています。
2x4(ツーバイフォー)工法などでは釘が多用されるため、プロの大工さんは自動釘打ち機を使います。釘を装てんしてトリガを引けば、片手で連続的に釘が打てる仕組みです。この釘打ち機にはエアコンプレッサによる空気圧が利用されます。瞬間的に大きな打撃力を必要とすることと、手で持つ釘打ち機そのものの重量を軽くするためです。小型・軽量・高性能化を図るため、エアコンプレッサにもアウターロータ型のブラシレスモータが採用されるようになっています。ブラシレスモータなら電圧降下によって回転数が落ちる心配もありません。
DIYブームが女性にも浸透してきたためか、電動工具はひところよりカラフルでデザインも垢抜けたものとなっています。強力な希土類磁石の利用が進めば、電動工具はさらに小型・軽量でパワフルなものとなるでしょう。
図2 ブラシレスモータの3タイプ
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