テクノ雑学
第183回 進化する石炭火力発電 〜環境にやさしいIGCC、IGFC〜
火力発電、特に石炭を燃やすと、地球温暖化の原因となるCO2や酸性雨の原因となる窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)が排出され、地球温暖化や大気汚染の原因になるなど、環境にはあまりよくないイメージがあります。
しかし、最新の石炭火力発電は、環境に負荷をかけないように進歩しているのです。今回のテクの雑学では、最新の石炭火力発電の技術「IGCC(Integrated coal Gasification Combined Cycle:石炭ガス化複合発電)」を紹介しましょう。
古くて新しい石炭発電
人類の石炭の利用の歴史は古く、紀元前3世紀頃の古代ギリシャで、鍛冶屋の燃料として利用されていた記録があります。イギリスでは、5世紀頃には商業的な石炭採掘が始められていました。18世紀イギリスで起こった産業革命にも、製鉄と蒸気機関を支える燃料としての石炭が大きな役割を果たしました。
火力発電は、「燃料を燃やして」取り出したエネルギーを元にして発電する方式で、燃やすのは炭素を主成分とした燃料です。最初に実用化された燃料も、古い歴史のある石炭でした。世界で最初の石炭火力発電所は、エジソンにより、1881年に米国ウィスコンシン州・アップルトンに作られました。1887年(明治20年)には、その技術を輸入して、日本最初の火力発電所が、東京・日本橋に作られました。
19世紀半ばからは、アメリカで石油採掘技術が発展し、その後各国に広まりました。当時は、石炭に比べると石油は、液体なので輸送や貯蔵が容易であり燃焼したときの発熱量が大きいこと、また石油そのものが化学原料として使用できることもあり、発電のための燃料も石炭から石油へと移りました。日本も例外ではなく、1962年の原油輸入自由化から、火力発電用の燃料は石油へとシフトしました。
しかし、1970年代の2度のオイルショックを経て、1979年、IEA(国際エネルギー機関)により「石炭利用拡大に関するIEA宣言」の採択が行われ、石油火力発電所の新設が原則として禁止されました。日本でも燃料の多様化が進められ、石炭、LNG(液化天然ガス)、そして火力に代わる原子力の利用拡大が積極的に進められました。2010年には、日本の電気のうち石炭は約24%、LNGは約27%、原子力は約31%をまかなうようになっていました。
2011年には、東日本大震災による原子力発電所の停止や、東京電力福島第一原子力発電所の事故を受けた原子力発電所の安全基準の見直しなどにより、多くの原子力発電所が稼働を停止しています。これを補っているのが火力発電で、10電力合計の2011年12月の発電実績(受電含む)では、原子力発電の割合が1割以下となっているのに対し、8割前後を火力発電が占めていると推測されます。
■ CO2の発生をおさえるクリーンコール技術
現在商用発電として主流の石炭火力発電は、燃焼効率を上げるために、石炭を細かい粉状に加工した超微粉炭を燃やしています。さらに、環境に配慮した新しい石炭火力発電技術として注目されているのがIGCC(Integrated coal Gasification Combined Cycle:石炭ガス化複合発電)です。環境負荷を減らして、石炭を利用するための技術全般を「クリーンコール」技術と呼びますが、IGCCは、石炭の利用効率を上げることで、環境への影響を小さくするクリーンコール技術の一つです。
IGCCは石炭を燃やして直接ボイラーを動かすのではなく、ガス化炉で可燃ガス化して、ガスタービンを使って発電します。同時に、ガスタービンの排熱を利用してボイラーを動かし、蒸気タービンでも発電するコンバインドサイクルを活用することで、さらに効率を上げます。
石炭をガス化するには、超微粒炭に空気や酸素を吹き付け、加熱します。すると、メタン(CH4)などの炭化水素ガスや水蒸気などが発生し、炭素(C)が残ります。炭素と吹き付けられた酸素が反応することで、二酸化炭素(CO2)、一酸化炭素(CO)が発生します。さらに、周囲にある水蒸気と炭素が反応して、一酸化炭素、二酸化炭素、水素が発生します。
石炭の微粒子が徐々にガス化していき、最終的にガスがどのような組成になるかは、圧力と温度に依存しますが、圧力3メガパスカル(約30気圧)・1,200℃以上で反応させると、最終的に一酸化炭素と水素の混合気体になります。この気体を燃焼して、ガスタービンを回します。
従来の石炭火力発電と比較すると、IGCCは、コンバインドサイクルの利用により、エネルギー効率向上して、1kwhあたりのCO2排出量はおよそ10〜20%程度削減できます(ポイント1参照)。また、CO2を燃焼前に分離回収することにより、さらにCO2排出量は削減できます(ポイント2参照)。
IGCCは商用化に向け、電力会社などが出資するクリーンコールパワー研究所の実証実験機が、福島県いわき市の勿来(なこそ)発電所で稼働中です。実験機は東日本大震災で被災しましたが、2011年8月から運転を再開しており、数年以内の商用化を目指しています。商用化段階でのエネルギー効率は48〜50%程度が見込まれています。
■ さらに燃料電池と組み合わせて高効率に
石炭のガス化によって発生する可燃性ガスの中には、水素ガスが含まれています。IGCCのガスタービンの手前に燃料電池を置き、石炭から発生する水素ガスで燃料電池による発電を行う方式を、「IGFC」(Integrated coal Gasification Fuel cell Combined Cycle:石炭ガス化燃料電池複合発電)といいます。
IGFCでは、まず、水素ガスを使った燃料電池による発電を行います。次に、燃料電池では反応しきれずに排出される水素ガス(オフガス)を燃焼して、ガスタービンを回します。さらにそのガスタービンの排熱で蒸気タービンを回すという、「三度おいしい方式」なのです。IGFCのエネルギー効率はIGCCよりもさらに高く、55%ぐらいのエネルギー利用効率が期待できます。
石炭は石油や天然ガスに比べ埋蔵量が多く、また世界中に広く分布している資源です。さらに、IGCCやIGFCでは、従来の石炭火力発電では発熱量が低く、使用に適さなかった品質の石炭でも利用できます。そのため、日本にとっては、国産の石炭でも発電に使えるものが増えるというメリットがあります。
環境への影響からみても、IGCCやIGFCは、石炭を燃焼させる従来の石炭火力発電に比べると、発生する窒素酸化物や硫黄酸化物などを、可燃性ガスの精製時に取り除くため、環境中に排出されにくくなります。また、CO2を分離回収しやすいので、空気中に排出する量が減らせます。天然ガスによるGTCC(Gas Turbine Combined Cycle:ガスタービン複合サイクル発電)とともに、環境にやさしい火力発電として注目されているのです。
著者プロフィール:板垣朝子(イタガキアサコ)
1966年大阪府出身。京都大学理学部卒業。独立系SIベンダーに6年間勤務の後、フリーランス。インターネットを中心としたIT系を専門分野として、執筆・Webプロデュース・コンサルティングなどを手がける
著書/共著書
「WindowsとMacintoshを一緒に使う本」 「HTMLレイアウトスタイル辞典」(ともに秀和システム)
「誰でも成功するインターネット導入法—今から始める企業のためのITソリューション20事例 」(リックテレコム)など
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