テクノ雑学
第164回 ガスタービンとは?燃料に石油要らず、発電効率も高い火力発電
この夏に向けて、社会全体が必要とする電力の確保が、大きな課題となっています。各方面から節電のための具体的なアイデアが提示されていますので、それらを参考にして、一人ひとりがムダな電力を使わないための知恵を使っていきましょう。
当然、電力会社側にも供給量確保のための努力が求められますが、現実問題として、当面は火力発電所の稼働率を高めると同時に、発電装置の増設を進める以外に手はありません。火力発電と聞くと「貴重な石油を燃やしてしまうのは……」「CO2排出量が……」といった印象を受けるかもしれませんし、実際、そのような火力発電所もまだ現役で稼働しています。
しかし、実は資源確保の観点から、世界28カ国が加盟するIEA(International Energy Agency:国際エネルギー機関)の決定によって、石油を燃料に使う火力発電所の新規建造は禁止されています。現在の火力発電所で主流となっているのは、燃料に石油を使わず、発電効率も高い「ガスタービン・コンバインドサイクル」方式です。
発電機の延長が発電所
さて、電動モータを外部のなんらかの力によって回転させると、「フレミングの右手の法則」によって電力が発生することは、前回(第163回)の「電池切れでも安心! 〜手回し式発電機の原理〜」で説明しました。
「発電機」と呼ばれる製品は、モータと同様、コイルと電磁石で構成する発電装置と、それを駆動するための動力を生み出す装置を組み合わせたもので、一般向けに市販されているものの多くは動力発生装置にガソリンエンジンを使っています。縁日などの夜店の近くで聞こえる「ダダダダダ……」という音は、発電機のエンジンの作動音なのです。
変り種として、本田技研工業が販売している「エネポ」のように、コンロ用のカセットガスボンベを燃料に使うものもありますが、発電装置の駆動にエンジンを使っていることに変わりはありません。
商用設備や病院、工業用の自家発電装置では、より効率の高いディーゼルエンジンやガスタービンを動力装置に使うものが主流です。また、製鉄所などでは所内に火力発電設備を設けたり、製鉄の各工程で発生する可燃性ガスを利用しての発電(高炉で発生した高温高圧のガスでタービンを回すことにより発電する「炉頂圧発電」)も盛んです。
電力会社が運営している「発電所」も、せんじ詰めれば「巨大な発電機」にすぎません。ただし、発電規模の大きさと、発電効率をより高めることを目的に、発電機の駆動にエンジン以外の仕組みを使うものが主流となってきました。具体的には、巨大な「羽根車」を回転させて発電装置を駆動します。そのために水の位置エネルギーを使うものが水力発電所、燃料の化学エネルギーを使うのが火力発電所、核分裂反応によって生じる熱を使うのが原子力発電所ということになります。
発電の種類
文頭で触れた「石油を燃やして発電する火力発電所」は、ボイラーでお湯を沸かし、そこから立ち上る蒸気の力で羽根車(蒸気タービン)を回すことで発電機を駆動しています。このような発電方法を「汽力発電」と呼びます。発電所全体で見れば、燃焼装置(ボイラー)で作動流体(蒸気)を発生させ、別個に存在する動力発生装置(発電機)を動かしている「外燃機関」ということになります。また「ボイラーの蒸気でタービンを回す」という意味では、原子力発電所も汽力発電の一種ということになります。
お湯を沸かすために使う燃料は、石炭のような固体でも可燃性ガスのような気体でも、とにかく熱を発生させられるものならなんでも構いません。ごみ焼却場での発電では、紙類やプラスチックに含まれる炭素や炭化水素が燃料となっています。
1881年に世界で初めてエジソンが火力発電所を作ってからしばらくの間、用いられる燃料は石炭が主流でしたが、20世紀に入ると、徐々に石油へとシフトしていきます。体積あたりで発生できる熱エネルギーの大きさ(エネルギー密度)、貯蔵や移送が容易なこと、煤煙の少なさなどが石油のメリットです。日本では、1970年代に入る頃には石油が主流の座に就きました。
しかし、その後は、資源・環境問題への意識の高まりや、原油価格の高騰による発電コストの上昇などから、徐々に石炭や天然ガスを燃料に使うケースが増えてきました。現時点で日本国内の汽力発電に用いられている燃料は、石炭と天然ガスがそれぞれ40%程度で、石油は15%程度にまで低減されています。
同時に、汽力発電に代わって主流となりつつあるのが「内燃力発電」です。内燃機関=エンジンを介して、燃料の持つ化学エネルギーを機械エネルギーに変換し、その力で発電機を駆動します。ただし、大規模発電所で用いられる内燃機関はガソリンエンジンやディーゼルエンジンではなく、ガスタービンです。
内燃機関とは、「燃料を燃やした燃焼ガスそのものを作動流体として、機械機構を作動させることでエネルギーを取り出す装置」の総称です。その代表であるガソリンエンジンやディーゼルエンジンは、一つの燃焼室(シリンダー)の中で「吸気→圧縮→燃焼→排気」の行程を繰り返します。各行程中はシリンダー内をピストンが上下し、作動流体の容積を変化させることで作動流体の圧力を高めて燃焼するので「容積型」と呼ばれ、また燃焼は間欠式となります。
これに対してガスタービンは、作動流体が主作動軸に沿って直線的に流れ、その過程で吸気から排気までの行程がそれぞれ別の場所で行われることが特徴で、このような内燃機関は作動流体が流れる速度を圧力に変換しながら燃焼を行うので、「速度型」と呼ばれます。また、燃焼が常に起こっている「連続燃焼」であることも特徴です。
ガスタービンのメリットとデメリット
ガスタービンの構造と作動は、いたって簡潔なものです。前方に配したファンを回転させて空気を吸入し、続いて多数の羽根車を持つ圧縮機で圧縮します。圧縮されたことで高温・高圧となった空気が、次に燃焼器に送られたところで燃料を噴射します。始動時にだけ点火を行いますが、いったん燃焼が始まったら、その後は燃焼器内で常に燃焼が起こり続けます。
燃焼によって生じたガスは、膨張しながら後方に高速で流れていくので、それを作動流体としてタービンを回転させ、その回転エネルギーを機械エネルギーとして取り出す、というものです。ちなみに、作動流体でタービンを回さず、ノズルから噴射するエネルギーをそのまま推力として使うのが、「ターボジェット」や「ターボファン」と呼ばれる構造のジェットエンジンです。
ガスタービンは回転運動だけで成り立つので振動が少なく、1分あたり数万回転という高速な作動が可能なので大量の空気を吸い込むことができ、その量に応じた燃料を燃やせるので、体積あたり出力が大きいこと、低質燃料でも運用が可能、希薄燃焼に対応できるので排ガス成分中の有害物質が少ない、といったメリットがあります。
それに対してデメリットは、容積型に比べて熱効率がやや不利になること、各部が高温・高圧にさらされるため、高価な耐熱性材料が必要で、回転バランスを完全に取らなければならないといった製作上の問題、超高回転で作動するため、短時間で回転を上下させなければならないような運用には適さないこと、全体の流速が非常に速いため、吸気・排気の騒音が大きくなりがちなことなどがあげられます。
そのようなメリットとデメリットを勘案した上で、ガスタービンはさまざまな用途に用いられています。たとえばヘリコプターの多くはガスタービンを動力に使う「ターボシャフトエンジン」を用いていますし、燃費よりも速度が優先される類の船舶にも採用例があります。また、鉄道車両や大型自動車のハイブリッド式動力装置の動力源としても用いられています。
いいとこ取りのコンバインドサイクル発電
ガスタービンの持つ特性は、発電用途にも向いています。まず、石油系ではなく、天然ガスや石炭ガスを燃料に使えることが大きなメリットとしてあげられます。これらは排気中の有害成分低減の点でも有効です。また、ボイラーを使った汽力発電のように大規模な装置では、出力を調整するのにある程度の時間を要しますが、ガスタービンなら迅速に対応できるので、需要予測に応じた効率の良い運用が可能になります。同じ敷地面積に複数の発電機を設置しておき、必要に応じて稼働台数そのものを変えるといった運用も容易です。
ただし、ガスタービン発電の課題は熱効率の低さでした。燃焼ガスの流れが非常に高速で、かつ連続燃焼なので、作動中にタービンに大量の熱が伝わってしまいます。この熱エネルギー分が損失となるため、容積型に比べて熱効率が低かったのです。対策として、一般的にはタービン翼そのものの冷却性能を高めたり、燃焼温度を一定以下に保てる空燃比での運用が行われますが、発想を転換し、廃熱そのものでも発電を行えるようにしたものが「コンバインド(combined:複合、合成)サイクル発電」です。
これも仕組みはいたって簡単なもので、ガスタービンの排気中に含まれた熱でお湯を沸かして蒸気タービンを回し、そこでも発電を行うものです。コンバインドサイクルでは、タービン入口の温度が高ければ高いほど排気温度が高まり、多量の蒸気を発生させられますから、その点が開発上の課題となりました。一般的なガスタービンでは、材質の耐熱性などの制約から、タービン入口のガス温度はせいぜい1,000℃程度で運用されていますが、1970年代後半からは航空機用エンジンの技術が導入されたことで、より高温での運用が可能となってきたのです。
東京電力が1985年に富津火力発電所で初めて導入したコンバインドサイクル発電では、入口ガス温度を約1,100℃まで高め、熱効率を47.2%にまで向上させました。従来の汽力発電では44%程度が限界でしたから、劇的な効率改善と言っていいでしょう。
さらに効率を高めるため、入口ガス温度を1,300℃まで高め、さらに蒸気タービン側もより高温・高圧に対応できるように改良を加えた「高圧型」に続けて、その排熱を再利用する「中圧型」「低圧型」と複数を配置することで、50%を超える熱効率を実現した「アドバンスド・コンバインドサイクル(ACC)」発電所も稼働中です。また、入口温度を1,500℃まで高め、タービン自体を蒸気の一部で冷却することで熱をより有効に活用する「モア・アドバンス・コンバインド・サイクル(MACC)」方式では、熱効率を60%程度にまで高めています。ちなみに、これは1950年来の火力発電所の3倍程度に相当する熱効率です。
さらに、タービンを回し終わった蒸気そのものや熱を近隣の工場などに供給することで、さらに全体の効率を高める試みも構想されています。
将来的なエネルギー供給のあり方を考える上では、「ベストミックス」の観点が不可欠です。その中にあって、天然ガスや石炭ガスなど多様な燃料から高い効率で発電できるコンバインドサイクル発電は、主軸の一つとして多いに期待できるものです。みなさんも、これからの電力供給がどんな方法で行われていくかに注目していただきたいと思います。
著者プロフィール:松田勇治(マツダユウジ)
1964年東京都出身。青山学院大学法学部卒業。在学中よりフリーランスライター/エディターとして活動。
卒業後、雑誌編集部勤務を経て独立。
現在はMotorFan illustrated誌、日経トレンディネットなどに執筆。
著書/共著書/編集協力書
「手にとるようにWindows用語がわかる本」「手にとるようにパソコン用語がわかる本 2004年版」(かんき出版)
「記録型DVD完全マスター2003」「買う!録る!楽しむ!HDD&DVDレコーダー」「PC自作の鉄則!2005」(日経BP社)
「図解雑学・量子コンピュータ」「最新!自動車エンジン技術がわかる本」(ナツメ社)など
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