テクノ雑学

第151回 カラフルでフレキシブルな色素増感型太陽電池 〜低コスト・低エネルギーで生産できる未来の電源〜

観測史上最高に暑く、長かった今年の夏もようやく終わりました。連日の暑さの中、地球温暖化防止のためのCO2削減と、そのためのクリーンエネルギーが改めて注目されています。

 光を電気に変えて利用する太陽電池は、クリーンエネルギーの代表格ですが、最近は、屋外の太陽光だけではなく、主に屋内の光を利用して発電する「色素増感型太陽電池」というものもあります。

「太陽電池」とはいっても仕組みは違う

さて、この「色素増感型太陽電池」ですが、太陽電池といっても、屋外でよく見かけるシリコン電池を利用した太陽光発電パネルとは原理が異なっています。ですが、「光をあてると発電する」すなわち、光のエネルギーを電気エネルギーに変換するという点は共通しているので、「太陽電池」と呼ばれます。

 シリコン電池は、「N型半導体」と「P型半導体」という2種類の半導体を貼り合わせた形になっています。N型半導体とは、結晶内の不純物が電子を過剰に持っており、半導体結晶内での電荷の移動にその電子が使われるタイプの半導体です。一方、P型半導体とは、結晶内の不純物に電子が不足しており、半導体結晶内での電荷の移動には電子の欠損である「正孔」が使われるタイプの半導体です。
 

【 参考リンク 】

■テクの雑学 第143回 「光の道」を通る光 〜半導体レーザーの仕組み〜


 さて、シリコン電池に光をあてると、N型半導体では、電子が発生します。逆に、P型半導体では、正孔が発生します。つまり、シリコン電池の中でも、N型半導体の側はマイナスの電荷、P型半導体の側はプラスの電荷を帯びることになり、電位差が生じます。そのため、両側に設置した電極に負荷をつなぐと、電流が発生します。



 一方、色素増感型太陽電池では、透明な電極に二酸化チタン粉末を焼き付け、そこに色素を吸着させた電極と、対極の間をヨウ素を溶かした電解質溶液で満たした構造をしています。


 光をあてると、二酸化チタンの表面の色素が光のエネルギーで励起され、電子を二酸化チタンに渡して酸化されます。二酸化チタンに渡された電子は電流となって流れ、もう一方の電極で電解液中のヨウ素イオンと結びつきます(還元反応)。さらに、そのヨウ素イオンが酸化されて電子を放出し、その電子が色素の陽イオンと結合して、色素を元の状態に戻します。このサイクルを繰り返すことで、発電します。


 色素を使って化学反応を利用し、電気を取り出す仕組みは、植物の「光合成」によく似ています。
 

■ 色をつけると感度が良くなる!

 金属酸化物を利用した湿式太陽電池は古くから知られていましたが、反応する光の波長が紫外線に偏っていたこともあり、効率良く光をエネルギーに転換することが困難でした。1991年に、スイス・ローザンヌ大学のグレッツェル教授により、二酸化チタンの微粒子の表面に色素をつけることで、太陽光の大部分を占める可視光を効率的に利用して、飛躍的に起電力が増加することが見い出されました。

 色素の種類によって、効率良く励起できる光の波長が異なりますが、原理的には単色の色素で10%程度の変換効率が見込めます。複数の色素を組み合わせることで、より効率よい発電が可能になります。

 シリコン太陽電池に比べると発電効率は劣りますが、原理が簡単で加熱も500℃程度でよく、低コスト・低エネルギーで生産できます。原理の発見以来、日本をはじめ各国で研究が進められています。
 

■ 室内用の小さな発電に威力

 色素増感型太陽電池は、薄くて軽く、また色がつけられて美しくデザイン性に富んでいるのが特長です。また、色素の種類を工夫することで、屋内の低照度環境でも利用できます。蛍光灯の光に特化して、20%以上の変換効率を実現しているような製品もあります。透明電極にプラスチック電極を利用することで、フレキシブルな変形も可能になります。



 防犯モニタに内蔵された人感センサ、照度センサ、空調調整用の温度センサなどのセンサ類、ワイヤレスマウス、電話機、ヘッドホン、時計、小型室内灯など、小さな電力を必要としている機器は室内にたくさんあります。こうした用途に、色素増感型太陽電池は適しています。

 また、携帯電話の背面パネルに色素増感型太陽電池を貼り付け、補助電力として利用することで、低コストで省エネルギーを実現できます。TDKでは、表面電極に銀を使ってカラーパネルの表面に絵を描く、デザイン性の高い色素増感型太陽電池を開発しています。

 

TDKの色素増感型太陽電池(CEATEC JAPAN 2010に出展)

 ソーラーカーレースで色素増感型太陽電池を動力源とした自動車が完走したり、モデル住宅に取り入れられたりなど、実用に向けての開発が進められています。実用化に向けての課題は、耐久性の向上です。色素は光があたると紫外線で退色してしまうため、色あせしにくい色素の研究が進められています。また、電解液は、使用時に漏れる可能性があるため、全固体型電解液の研究が行われています。

 さまざまなエネルギー源を組み合わせて省エネを進めていくスマートグリッドを実現するためにも、コストが安く量産が可能な色素増感型太陽電池は、大きな役割を果たすと期待されています。


著者プロフィール:板垣朝子(イタガキアサコ)
1966年大阪府出身。京都大学理学部卒業。独立系SIベンダーに6年間勤務の後、フリーランス。インターネットを中心としたIT系を専門分野として、執筆・Webプロデュース・コンサルティングなどを手がける
著書/共著書
「WindowsとMacintoshを一緒に使う本」 「HTMLレイアウトスタイル辞典」(ともに秀和システム)
「誰でも成功するインターネット導入法—今から始める企業のためのITソリューション20事例 」(リックテレコム)など

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