テクノ雑学

第146回 エアコンの除湿・冷房の仕組みとは?

エアコンの除湿・冷房の仕組みとは?

暑い日が続いています。ついついエアコンの設定温度を低くしてしまいがちですが、冷えすぎは体調不良のもと。最近のエアコンは健康に留意し、空気清浄機能や脱臭機能、人の居場所を察知して直接風を当てない機能、部屋の温度はあまり下げずに除湿する機能などを搭載していますから、上手に使いこなしていきたいものです。

 一方で、「除湿運転は冷房運転よりエコだと思っていたのに、逆に電気代が高くついた」といった声を耳にすることもあります。そこで、今回はエアコンの「冷房」「除湿」の仕組みについてまとめてみましょう。なお、「テクの雑学」では以前にも何度かエアコン周辺関連の技術について取り上げているので、そちらも合わせてご参考いただければと思います。
 

【 参考リンク 】

テクの雑学 第66回「新生活の強い味方−ここまで進んだエアコンの最新技術−」

テクの雑学 第74回「エアコンの友−インバータの役割−」

テクの雑学 第95回「空気から熱をくみ出す-ヒートポンプ-」

冷房の基本的な仕組み

最初に、エアコンで冷房ができる仕組みを簡単におさらいしておきましょう。エアコンは「室内機」と「室外機」で構成されています。それぞれが「熱交換器」を持っていて、室内機側の熱交換器を「蒸発器」、室外機側の熱交換器を「凝縮器」と呼びます。蒸発とは「液体が気体に変化すること」で、凝縮はその逆に「気体が液体に変化すること」ですが、室内機と室外機の熱交換器の内部では、その名の通りの現象が起こっています。
 蒸発器と凝縮器の間は2系統(蒸発器側→凝縮器側、凝縮器側→蒸発器側)のパイプでつながれていて、その内部は「冷媒」で満たされています。また、室内機は部屋の中に風を吹き付けるためのファン、室外機は凝縮器冷却用のファンと圧縮機(コンプレッサ)を備えています。

 室内の空気が持っている熱は、蒸発器を介して冷媒に伝えられます。熱を伝える仕組みには、冷媒の「気化熱」効果を利用します。蒸発器に入る前の冷媒は液体で、蒸発器の内部で蒸発して気体に変わるのですが、液体が気化するときには周囲の熱を奪う効果が起こり、これによって蒸発器周囲の熱を冷媒に伝えるのです。冷媒に熱を伝えて低温になった蒸発器周囲の空気は、ファンによって室内に吹き付けられて室内を冷やします。

 気化して熱を含んだ冷媒は、パイプを通じて室外機側に送られ、コンプレッサで圧縮されて、高温高圧の液体になって凝縮器に進みます。凝縮器の放熱フィン部分は、ファンからの送風によって常に表面の熱を奪われていて、冷媒より低温になっているので、ここで熱交換が行われて冷媒の温度が下がります。さらに冷媒は「膨張弁」と呼ばれる部分で、小さな穴から広い空間へ一気に放出されることで膨張させられます。この膨張の過程で起こる「断熱冷却」によって低温低圧の液体に変わり、再び室内機側に送られて室内の熱を吸収します。暖房運転の場合は、この行程が逆転すると考えてください。
 

冷房運転を行えば、除湿もしてくれる?



 「除湿」運転は、空気中の水分をコントロールする機能です。空気が含むことができる水分(水蒸気)の量は温度によって変わり、高温の空気ほど多量の水分を含むことができます。夏場に大気中の湿度が高まるのはこのためです。
 除湿機能はこの特性を利用しています。蒸発器で急激に冷やされた空気は、温度低下によってそれまで含んでいた水分を放出(飽和)し、これが蒸発器の表面に集まって「結露」します。冬に外気と接しているガラスが結露するのと同じ理屈ですね。そうして、空気中から取り出した水分をホースで屋外に排出することで、屋内の湿度を低下させるのが除湿機能です。

 もうお気付きの方も多いでしょう。そう、エアコンで冷房運転を行うということは、空気の温度が下がるわけですから、空気中の水蒸気も自然に減っていきます。つまり、除湿が行われるのです。実際、エアコンが搭載している除湿機能の基本は「弱冷房除湿」と呼ばれる運転モードです。冷房運転は、「室温を設定温度まで下げる」ための運転モードですが、結果的に除湿も行われます。これに対して弱冷房除湿は、「温度ではなく、湿度を目標の値まで下げる」ため、微弱な冷房運転を続けるのです。

 湿度と体感温度には密接な関係があります。気温が30度であっても、湿度が50%程度なら、あまり不快には感じないものです。また、弱冷房除湿の場合、基本的にコンプレッサを駆動するモータの回転が低く保たれる上に、温度設定が可能な場合、設定温度付近ではこまめにモータを停止させるので、通常の冷房運転に比べて消費電力の面でも有利になりがちでした。

エアコンの省エネ性能から生まれた再熱除湿

 ただし、「冷房」である以上、状況によっては除湿が不可能な場合もあります。たとえば梅雨時などの低温高湿状態で除湿しようとしても、室温設定が外気温より高い状態では冷房運転そのものができません。つまり冬場の暖房運転時には除湿できないので、窓ガラスや壁などの結露を防ぐといった用途には使えなかったわけです。


 これに対して、室温をあまり下げずに湿度を下げる機能は「再熱除湿」と呼ばれています。再熱除湿機能が生まれたのは、市場の要望だけではなく、実はエアコンの省エネ性能向上に伴う問題解決のためでもありました。背景にあるのは、性能向上のために進められたインバータの採用です。

 エアコンは、コンプレッサを使って冷媒を圧縮→液化させ、また逆に膨張→気化させることで、それに伴う温度の変化を利用して室内の気温をコントロールする機械です。作動原理上、蒸発器内部の圧力が低いほど冷媒は膨張しやすく、つまり気化しやすくなって、低温でも周囲からの熱を奪いやすくなります。逆に凝縮器側は圧力が高いほど、そこに蓄えられる熱量が大きくなります。言葉を換えると、蒸発器と凝縮器の温度差が大きいほど運転の効率が高まります。
 そこに一石を投じたのがインバータの搭載です。モータの回転数を自在に、かつ微細に制御できるようになったことで、昔のエアコンに比べて蒸発器と凝縮器の温度差が小さい状態でも効率よく冷房できるようになりました。単純な冷房能力は低下する場合もありますが、その分を補うために必要な電力が圧倒的に少なくて済むので、結果的に省エネにつながります。エアコンが省エネ性能を飛躍的に高めた理由は、このインバータ採用とコンプレッサの高効率化によるところが大なのです。

 しかし、この状態では蒸発器周辺の空気の温度と冷媒の温度差が小さくなるため、結露を起こさせる力が弱まって除湿性能が低下してしまいます。そこで基本的には冷房運転を行いながら、冷気に暖気を混ぜることで適切な温度に調整した空気を室内に送り込むのが再熱除湿運転です。

 再熱除湿機能が登場してしばらくの間、「省エネタイプのエアコンを買ったのに、電気代が高くなった……」といった声が聞かれることがありました。当時は省エネ性能を示す指標が冷暖房平均COP(Coefficient of Performance:エネルギー消費効率)で、消費電力1kWあたりの冷房能力と暖房能力の平均値を示すものでした。つまり、除湿運転がどの程度の電力を消費するのか判断できなかったわけです。2007年度からは性能指標にAPF(Annual Performance Factor:通年エネルギー消費効率※)を用いるようになり、インバータ搭載機の省エネ性能が発揮されやすくなりましたが、やはり除湿運転に関する項目は設けられていません。

 加えて言うなら、暖気を得るために専用のヒーターを使うものがあったことや、弱冷房除湿とは違ってコンプレッサや室内機のファンが高負荷状態で運転される時間が増えたことも、電気代が高くなったと感じる原因だったと推測されます。しかし最近の機種は機構的な工夫によって暖気を得るので、省エネ性能に与える影響はぐっと少なくなりました。たとえば、凝縮器から高温高圧状態の液体を少しだけ蒸発器側(再燃器)に送ることで、蒸発器周囲の気温を調整するといった仕組みが用いられています。また、冬場には屋外の乾燥した空気と混合して室内へ送る「給気除湿」機能によってガラスや壁の結露を防ぐ機種もあります。

進化するセンサ機能でモニタリング



 さて、よく話題になるのが、「除湿と冷房、どっちが電気代の節約につながる?」という疑問です。少し前なら一般論として「弱冷房除湿が最も電気代がかからない」と言えましたし、現在の話でも、機能が限定されている最廉価帯の機種なら「真夏の高温多湿状態では冷房運転で設定温度を高めにしておくのが良い。再熱除湿運転は梅雨時など低温多湿の状態で……」と言ってかまわないと思います。

 なんとも困ってしまうのが中級以上の多機能機種です。メーカーや機種によって運転モードの呼称がまちまちで、単に「除湿」とされている運転モードが実は再熱除湿だったり、「衣類乾燥」など複数の除湿モードを持つものもあるので、明確な指針を提示することが難しいのです。

 ただし、最新の中級機種以上であれば、センサなどで室内の状況を検出し、自動的に最適な運転モードを使い分けたり、風向きを調整することで効率よく冷暖房を行うといった機能を備えているはずです。そのような機種ならば、「自動」モードにしておけば、日中は冷房と弱冷房除湿の使い分け、夜間は再熱除湿といった具合に、状況に応じて最適な効率の運転を行ってくれると考えていいでしょう。

 昨年あたりからは、電力消費量を直接表示する機種も増えています。中には電気使用量を任意に設定し、その量に近付いたら知らせてくれたり、外気温が下がってきたら運転停止を推奨するといった機能を搭載しているものもあります。
 これからエアコンを購入するなら、「省エネ基準達成率・エネルギー消費効率」に加えて、その省エネ性能をより良く発揮するための機能にも注目してください。エアコンは一度購入したら長年に渡って使い続けるものです。また、家庭で消費する電力の約25%がエアコンによるものとも言われます。上手に省エネできる機能を搭載した機種なら、購入時の支出は少々多くても、数年間の使用で差額分が償却できてしまうことも少なくありませんから、カタログ等でじっくりと調べていただきたいところです。

※「東京地区・木造家屋・南向き、洋室。暖房期間10月28日〜4月14日・冷房期間6月2日〜9月21日、6:00〜24:00の18時間使用。外気温度が16度以下で暖房、24度以上で冷房」という条件で必要となる能力の総合計を、そのエアコンが期間中に実際に消費する電力量で割った数値。COPがモータ回転数一定の性能を中心とした指標なのに対し、モータの回転数変動が大きいインバータ機の実際の性能に近い指標となる。


著者プロフィール:松田勇治(マツダユウジ)
1964年東京都出身。青山学院大学法学部卒業。在学中よりフリーランスライター/エディターとして活動。
卒業後、雑誌編集部勤務を経て独立。
現在はMotorFan illustrated誌、日経トレンディネットなどに執筆。
著書/共著書/編集協力書
「手にとるようにWindows用語がわかる本」「手にとるようにパソコン用語がわかる本 2004年版」(かんき出版)
「記録型DVD完全マスター2003」「買う!録る!楽しむ!HDD&DVDレコーダー」「PC自作の鉄則!2005」(日経BP社)
「図解雑学・量子コンピュータ」「最新!自動車エンジン技術がわかる本」(ナツメ社)など

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