テクノ雑学

第133回 家庭にもいよいよ進出! 進化する3D映像の世界

進化する3D映像の世界

この冬話題の映画「AVATAR」は、迫力ある美しい3D映像が評判ですが、その映像が家庭でも楽しめる3Dテレビが、いよいよ現実になってきました。今回のテクの雑学では、さまざまな3D映像の方式についてみてみましょう。

3次元に見える仕組み

そもそも、私たちが立体を見るとき、なぜ2次元ではなく3次元に見えるのでしょうか。それは、左右の目がそれぞれ微妙に違う像を見ているからです。左右の目で違うものが見えていることを、簡単な実験で確かめてみましょう。
 

〜 実験してみよう! 〜

1)両目を開いたままで、顔の正面に、左手の親指と人差し指で輪を作り、右手の人差し指を伸ばして輪の向こう側に見えるようにします。

2)手を動かさずに、右目と左目を交互につぶってみましょう。すると、左手の指で作った輪の向こう側に見えていたはずの右手の人差し指の位置が、右目で見たときと左目で見たときでは、異なって見えることが分かります。


 右目と左目の間隔の分、右目の位置と左目の位置はズレています。そのため、右目が見ている映像と左目が見ている映像は、微妙にズレているのです。このズレを元に脳内で演算が行われ、立体的な映像が再構成されるのです。
 

 この仕組みを使って最初に実用化されたのが、赤青メガネを使った「アナグリフ方式」です。2つのカメラを並べて、右目用と左目用の映像を別々に撮影し、右目用カメラの映像を赤、左目用カメラの映像を青で重ねてプリントします。反対に、見るときには右目に青いセロファン・左目に赤いセロファンを貼ったメガネをかけることで、右目には右目用の映像、左目には左目用の映像だけが入り、立体視が可能になります。映画に最初に用いられたのは1915年頃にまでさかのぼります。

 アナグリフ方式は簡単ですが、色のついたフィルタを使うので、カラーの映像を再現できないという大きな問題があります。立体視のためには、要は左右それぞれの目に違う映像を見せることができればいいのです。さまざまな方法が開発されていますが、それらは大きく「パッシブ・ステレオ方式」と「アクティブ・ステレオ方式」の2つに分けることができます。
 

■ 信号をフィルタで仕分けするパッシブ・ステレオ方式

 アナグリフ方式と同様に、右目用の映像と左目用の映像を同時に映します。赤と青で表示された映像を赤青メガネで分離する代わりに、それぞれの画像を進行方向に対して特定の方向に振動する光(偏光)で投影し、偏光板を使ったメガネを使ってそれぞれの目に到達させることで、左右の画像を分離します。

 


 パッシブ・ステレオ方式の代表的な方式が、IMAX 3D(R)です。IMAX 3Dでは、左右のメガネに90度異なる偏光方向のフィルタを使い、映像を分離しています。IMAXは、元々大きいフィルムを大きなスクリーンに輝度の高い映像で投影することで、臨場感と迫力を演出する方式ですが、さらに3D化することで臨場感ある3D映像となっています。
 

■ 映像を高速で入れ替え表示するアクティブ・ステレオ方式

 パッシブ・ステレオ方式が、同時に見えている映像にフィルタをかけることで左右別々の映像を見せるのに対し、アクティブ・ステレオ方式では、左右それぞれの目に見える映像を高速に切り替えて映写し、それと同期するシャッターによる切り替えで、それぞれの目に必要な映像を見せる方式です。XpanD方式がこの方式です。メガネの側にも電源や切り替え用の液晶などのシステムが必要になるため、偏光レンズのみの簡単な仕組みのパッシブ・ステレオ方式のメガネに比べると重く複雑な構造になります。
 

 また、パッシブ・ステレオ方式とアクティブ・ステレオ方式を組み合わせたのがRealD(TM)方式です。144Hz(1秒間に144回)映像を切り替えることで、ちらつきを極力おさえ、なおかつ特殊なフィルタを使って右目用と左目用の映像を逆向きの円偏光(進行方向に対して電磁場の振動が回転する偏光)に変換します。観客は円偏光フィルタのメガネをかけて見ることで、映像を分離します。通常のアクティブ・ステレオ方式に比べてメガネが軽く、また直線偏光に比べると多少席の位置がズレていたり、向きが変わったりしても立体視ができるので、観客の負担が軽いのが特徴です。

 Dolby3D方式は、右目用と左目用の映像の分離を、色調を微妙に変えることで、交互に高速に映写することで行います。メガネは、50層のカラーフィルタで、左右それぞれの色の映像だけを透過する、アナグリフ方式をもっときめ細かくしたような原理になっています。
 

■ 家庭で楽しむ3Dテレビ

 ここまで説明してきたのは、映画館で見る3D映像の原理ですが、3Dテレビの原理も基本は同じで、アクティブ・ステレオ方式とパッシブ・ステレオ方式の両方があります。

 アクティブ・ステレオ方式の3Dテレビは、ソフトさえ3Dに対応していれば、ディスプレイに特殊な加工をする必要がないので、2Dの番組に影響が出ないのが特徴です。ただし、テレビ画面は高速の映像切り替えに対応しなくてはいけないため、表示の速いプラズマディスプレイやDLP方式のリアプロジェクションに向いている方式です。

 パッシブ・ステレオ方式のテレビも店頭で見かけるようになりました。そのひとつが、Xpol方式です。映像は走査線1本ごとに右目用と左目用を交互に表示し、画面の表面に走査線に沿って微細な円偏光素子を並べることで、右目用の映像と左目用の映像に偏光をかけて表示します。円偏光フィルタを使った3Dメガネをかけてみると、偶数番目の走査線の光が左目、奇数番目の走査線の光が右目に入り、立体的に見える仕組みです。表示の切り替えが比較的遅い液晶テレビでもちらつきが発生しにくいことや、メガネが軽く視聴者の負担が低いという長所がある一方で、液晶の表面に加工が必要で、通常の2D画像を見るときに若干影響が出るという欠点もあります。

 このように3Dテレビと一口にいっても、仕組みによって特徴が異なります。購入の時は、2Dの番組やコンテンツを見る頻度、価格、ディスプレイの方式などの要素を考慮して検討しましょう。
 

■ メガネなしでも3Dに見える?!

 さて、ここまで紹介してきた3D映像の方式ですが、いずれの方式も、3Dメガネが必要でした。しかし最近は、3Dメガネなしでも3D映像が楽しめる技術が実用化されつつあります。

 NHKが開発を進めている「インテグラル立体テレビ」は、多数のレンズを並べた「レンズアレイ」を使って、少しずつ違う角度から見た映像を同時に撮影します。見るときは、表示用レンズアレイに撮影した映像を投影し、それを同時に見ることで、目の前に3D映像が浮かび上がる仕組みです。

 

インテグラル立体方式は、テレビとは異なる専用の投影用装置が必要になるため、家庭用よりは、主に屋外のデジタルサイネージなどに利用されると考えられています。

 テレビやスクリーンの「窓の中」で描かれる映像の世界に奥行きができることで、映画やテレビはより楽しく、表情豊かになっていくことでしょう。これから増えてくる3Dの映像作品に期待したいところです。


著者プロフィール:板垣朝子(イタガキアサコ)
1966年大阪府出身。京都大学理学部卒業。独立系SIベンダーに6年間勤務の後、フリーランス。インターネットを中心としたIT系を専門分野として、執筆・Webプロデュース・コンサルティングなどを手がける
著書/共著書
「WindowsとMacintoshを一緒に使う本」 「HTMLレイアウトスタイル辞典」(ともに秀和システム)
「誰でも成功するインターネット導入法—今から始める企業のためのITソリューション20事例 」(リックテレコム)など

 

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