テクノ雑学

第126回 ますます需要が高まるLEDで、ライフスタイルも快適に!

ここ数年の間で、身の周りにLEDを利用した製品が一気に増えてきた印象がありませんか? 代表的なものは、交通信号機、自動車の灯火類、電光掲示板などですが、昨年あたりから液晶ディスプレイのバックライトや、一般的な照明器具などの分野でも、LED化が急激に進んでいます。つい先日は、大手電器メーカーも本格的にLED照明の市場に参入を始めました。

環境にやさしいLEDの誕生

 LEDの特徴は、エネルギー効率の高さと、寿命*が長いことです。60Wの白熱電球と比べると、同等の明るさを持つLED電球は、消費電力が約1/5以下、寿命は約40倍長いとされています。電球は社会全体で大量に使われているものですから、照明器具のLED化は、省資源・省エネルギー社会の実現に大きく貢献できると目されています。

*LED照明器具の「寿命」は、輝度が新品時の70%に低下した時点とするのが一般的です。

 LEDは「Light Emitting Diode」の略です。日本語では「発光ダイオード」と呼ばれる通り、通電すると発光する半導体の総称として用いられています。そのルーツをたどると、1907年、真空管の開発者を務めていたイギリスのHenry Joseph Roundが、炭化珪素に電圧をかけると発光するエレクトロ・ルミネッセンス現象を発見したことに遡ります。Roundの実験では、10Vの電圧をかけたときに炭化珪素が黄色く光り、また固体によって青、緑などさまざまな色にも光ったと記録されています。
 1924年には、ロシアのOleg Vladimirovich Losevがダイオードに電圧をかけると発光することを発見しました。その後、トランジスタの発明(1947年)などを通じて半導体の研究が進んだことで、p型(positive型:正孔*が多い)と、n型(negative:電子が多い)物質を半導体の中に入れると発光することがわかりました。
 発光原理の解明によって開発が進み、1962年にはアメリカのNick Holonyakによって、現在、一般的となっている人工的な結晶を利用したLEDの構造が考案されます。これをベースにGEが製品化した世界初のLEDは、ガリウム、ヒ素、リンの化合物半導体によるもので、赤色に光りました。ただし、その明るさは白熱電球の1/100程度で、用途はごく限られていました。

*正孔とは?:固体の結晶構造の中の電子が欠落した部分で、正の電荷を持った電子のようにふるまう。半導体などでは、自由電子とともに電荷の移動を担う「キャリア」として働く。p型半導体は、正孔の移動によって電荷の移動を行なう。n型半導体では電子がキャリアとなる。
 

■ 長く輝く秘訣と今後も伸びるその市場

 では、LEDはなぜ、省電力で長寿命なのでしょうか? まずは、その構造と、発光のしくみを見てみましょう。

 ダイオードは、電極の間に電圧をかけると、一方向にだけ電流を流す半導体です。LEDチップの整流方向に電圧をかけると、内部の正孔と電子が移動して電流が流れます。移動の途中で正孔と電子がぶつかると、正孔の欠落部分に電子が結合する「再結合」という現象が起こりますが、再結合した状態のエネルギーは、もともと正孔と電子が持っていたエネルギーよりも小さくなります。この差分のエネルギーが光のエネルギーに変換され、発光するのです。また、半導体に用いる物質や結晶の構造によって、電子と正孔のエネルギーの差が変わり、これによって発光の波長帯域(スペクトル)が決まります。

 

LED素子ひとつを発光させるのに必要な電圧は数V程度で、電流が数十mA程度なので、もともと消費電力が低いのです。また、発光のスペクトルが狭いため、光の色が単色に近いことも特徴です。つまり、赤外線など目的外の波長にエネルギーが変換されにくいので、さらに効率が高まります。

 照明機器のエネルギー変換効率の指標として用いられるのは、lm/W(ルーメン毎ワット)という単位です。lmは光源が発する光量(全光束)の単位で、要は1Wあたりでどれだけの光量が得られるか?という指標であり、値が大きいほど、同じ明るさの照明を、より低い消費電力で実現できます。
 この数値で比較すると、2009年9月時点で最も効率が高いのは蛍光灯で、最大100lm/W 程度のものが珍しくありません。白熱電球は20lm/W 程度です。対してLED照明器具は、製品化されている最高レベルのもので、光源部面積が広いタイプが84lm/W、光源部面積が小さいタイプでも80lm/Wに達しています。
 発熱電球や蛍光灯が技術的には“枯れた”もので、今後大幅な効率向上が望みにくいのに対し、LEDのエネルギー変換効率は今も大きく向上を続けているのが特徴で、数年後には250lm/Wというレベルに達するという予測もあります。
 

■ 青色LEDのブレイクスルー



 さて、LEDがなかなか照明用途に使われなかった理由は、大別すると3つあります。まず、照明に必要な「白い光」の実現が困難だったこと。そして、照明器具として必要な明るさを実現しようとすると、エネルギー効率が低下してしまいがちだったこと。最後に、構造が複雑なために重くなりがちで、天井や壁に埋め込まれている照明器具用のソケットでの対応に難があったことです。

 先にも述べたように、LEDは半導体の結晶構造や、それを左右する物質、製法によって特定の色で発光させることができます。そして、白く発光させるためには、光の三原色である赤、緑、青を発することが必要です。しかし、赤と緑のLEDは比較的早い段階から高輝度なものが実用化されたのですが、青色LEDの輝度はなかなか高めることができませんでした。この点でブレイクスルーを果たしたのが、現在、カリフォルニア大学サンタバーバラ校で教鞭をとっている中村修二氏です。

 高輝度青色LEDが開発・実用化されたことで、赤、緑、青の光の三原色が揃い、やっと輝度の高い白色光が実現できるようになりました。ただし、現在実用化されている高輝度白色LEDでは、3原色それぞれのLEDを備えるものはごく少数にすぎません。主流となっているのは、青色LEDに黄色の蛍光材料を塗布した「青黄色系擬似白色LED」と呼ばれるものです。

 青黄色系擬似白色LEDは、青色LEDが放射する光に、外部の蛍光体材料が発する黄色光を混色して白色を得るものです。3原色方式白色LEDに比べて、エネルギー効率の面と、コストの面で有利になります。
 さらに新しい構造の白色LEDとして研究・開発が進められているのが、黄色ではなく、赤と緑の蛍光物質を使うものや、青色ではなく紫色LEDを使うものです。

■ エコとスタイリッシュな生活の両立が可能に

 今後、LEDは幅広い分野で、従来の白熱電球や蛍光灯を置き換えていくことになるでしょう。しかし、まだまだ開発上の課題も残っています。まずは「熱損失」の問題です。
 熱損失とは、入力したエネルギーが目的とするエネルギーに変換される過程で熱に変換されてしまうエネルギーのことで、照明器具の場合は入力した電力と、器具から生じた可視光エネルギーの差ということになります。さまざまな研究報告などを見てみると、現在の白色LEDによって得られる可視光のエネルギーは、入力エネルギーの約30%程度で、残りはパッケージ内の吸収や反射によって失われたり、回路を駆動する過程で熱となってしまいます。

 ちなみに白熱電球のエネルギー効率は約10%程度、蛍光灯が約25%程度ですから、現状でもLEDのエネルギー効率は非常に高いのですが、もうひとつ、熱損失を抑えたい理由があります。蛍光物質は熱によって劣化が進み、これがLED機器の寿命を決めてしまうので、発熱量を低減できれば、それだけ長寿命化が可能になるのです。

 照明器具は、さまざまな場所と用途に、日々長時間使われるものだけに、LED化による省資源・省エネルギー効果は非常に大きなものが見込めます。筆者もさっそく、いくつかの場所の照明を順次LEDに切り替えてみましたが、蛍光灯よりもさらにシャープな印象で、特にデスクワーク用の光源には最適と感じています。また、非常用の懐中電灯をLEDに換えておけば、いざという時、より長時間の使用が可能になりますね。
 まだ新しい商品であることと、構造が複雑なことで、価格はまだ割高に感じますが、おそらく今後数年で急激に低下してくるはずです。個人レベルでできるCO2排出量低減努力として価値のあることですから、みなさんも機会を見てぜひお試しいただきたく思います。


著者プロフィール:松田勇治(マツダユウジ)
1964年東京都出身。青山学院大学法学部卒業。在学中よりフリーランスライター/エディターとして活動。
卒業後、雑誌編集部勤務を経て独立。
現在はMotorFan illustrated誌、日経トレンディネットなどに執筆。
著書/共著書/編集協力書
「手にとるようにWindows用語がわかる本」「手にとるようにパソコン用語がわかる本 2004年版」(かんき出版)
「記録型DVD完全マスター2003」「買う!録る!楽しむ!HDD&DVDレコーダー」「PC自作の鉄則!2005」(日経BP社)
「図解雑学・量子コンピュータ」(ナツメ社)など

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