テクノ雑学

第122回 絶好調! ハイブリッド自動車のテクノロジー —後編—

第120回では、トヨタ・プリウスが採用する動力分割&電気式変速装置のTHS(Toyota Hybrid System)と、それが実現する「シリーズ・パラレル式ハイブリッド」機構について説明しました。今回は、ホンダ・インサイトが採用するIMA(Integrated Motor Assist)システムと、それによる「パラレル式ハイブリッド」機構について説明したいと思います。

インサイトを支える進化したIMAシステム

パラレルとは「並列」の意味です。何が並列なのかというと、車輪を回転させてクルマを動かすための力の流れを指しています。現在、「ハイブリッド車」と呼ばれている自動車は、ガソリンを燃料として作動するエンジンと、電動モータのふたつの動力源を搭載していますが、パラレル式ハイブリッドでは、それぞれが発生する力が、並行して車輪へ伝わることが特徴です。

 パラレル式ハイブリッドの構成にはいくつかの種類がありますが、ホンダ・インサイトが採用しているIMAシステムは、非常に簡潔な構成で、ハイブリッドを実現している点が特徴です。


 構造的には、もともとエンジンに備わっている、自らの回転を維持するための機構「フライホイール(はずみ車)」部に、電気モータのロータ(回転子)を一体化させています。ロータはエンジンの出力軸にねじ留めされていて、常に一緒に、同じ回転数で回り続けています。モータの後段に位置する変速機は、通常のエンジン車と同じものを使えるのでコスト面でも有利で、マニュアルトランスミッションと組み合わせることもできます。

 IMAシステムの場合、基本はあくまでエンジンの力を使う走行です。ただし、停車状態からの発進や急加速など、大きな力が必要となる場合はモータによって出力をアシストすることが前提となるので、搭載するエンジンの排気量や出力は、車体のサイズや重量に比べて小さく設定されています。排気量が小さいエンジンは、そもそも単位時間内に燃やす燃料の量が少ないことに加えて、作動中に内部で生じる機械損失も小さくなるので、まずはこの点で燃費が向上します。

 発進時や加速時など、大きな力が必要となったら、バッテリからモータへ電力を供給して、エンジンの力にモータの力を積み増してやります。減速時には、電流の方向を逆転させることでモータを発電機として機能させ、バッテリに充電します。
 THSが、エンジンから後の変速および動力伝達機構をそっくり入れ替えてしまうものなのに対して、IMAシステムは既存のエンジンやトランスミッションの基本構成の中に、モータと制御系を巧みに組み込んで実現したハイブリッドシステムといえます。

 弱点としては、構造上、あまり大きなモータを使えないので、モータ出力に制限が付きがちなことがあげられます。また、モータだけ、エンジンだけで作動することができないので、現行のインサイトより前のIMAシステムでは、モータ出力だけで走行する「EV走行」が不可能でした。しかし、現行インサイトでは走行中のエンジンの吸排気バルブを閉じたままにする(つまり、燃料を燃やさない)ことで、実質的にエンジン機能を停止させる「気筒休止システム」との組み合わせによって、EV走行を実現しています。

 では、インサイトのIMAシステムがどのように作動するのか、走行シーンごとに説明してみましょう。

クルマが完全に停止している状態からの発進には、大きな駆動力が必要になります。アイドリングストップ状態からエンジンを始動させ、さらにバッテリからモータへ電力を供給して、モータの出力をエンジンの出力に上乗せすることで、力強い発進を可能にします。

低速かつ一定の速度で走っている状態では、「気筒休止システム」によってエンジンの機能を停止させ、モータの力だけで走行することで、燃料消費を抑えます。

加速や上り坂など、大きな力が必要な場合はモータに電力を供給し、エンジン出力+モータ出力で力強い加速を実現します。

高速での一定速走行時は、それほど大きな力は必要とされないので、エンジンの力だけで走行します。ただし、加速が必要になると瞬時に3.の状態になります。また、下り坂など基本的に駆動力が不要な状態では2.の状態になって、燃料消費を抑えます。

減速ならびに制動状態では、モータに流す電流の方向を反転させて発電を行ない、バッテリに電力を蓄える「エネルギー回収」を行ないます。

停車すると、自動的にエンジンを停止する「アイドリングストップ」状態になって、燃料消費を抑えます。

 改めてその作動を見ると、IMAシステムは、いわば「電動アシスト自動車」的なハイブリッドシステムであることが理解できると思います。やや極端に表現するなら、プリウスのTHSが「可能な限りモータの力で走行したいが、バッテリ容量などの都合からエンジンも併用する」ような仕組みなのに対し、IMAシステムは「基本はエンジンで走り、力が足りない時だけモータがフォローする」仕組みと考えていいでしょう。
 両者には一長一短があり、どちらが優れているとはいえません。今後、どちらの方式が主流となるのかについても意見が分かれているところです。ちなみに、IMAシステム式の機構をベースに、エンジンとモータの間にクラッチなどを設けて、両者間の接合を切り離せるようにしたシステムなども研究・開発されています。

■ 今後の展望とバッテリの重要性

 さて、これからのハイブリッド車は、どのような方向に進化していくのでしょうか? まずは、一般のコンセントからバッテリへ直接充電できる「プラグイン化」が次のステップとなります。
 

 通勤や買い物など、生活の足としてクルマを使うユーザーの場合、8割以上は一日の走行距離が30km以内と言われています。現在のハイブリッド車は、あくまでエンジンとモータが協調して作動する機構であることから、バッテリの搭載量を必要最小限に抑えています。そのため、連続してEV走行可能な距離はせいぜい4〜5km程度なのですが、バッテリの容量を増やして30km程度のEV走行を可能とし、さらに一般のコンセントから充電できるようになれば、たまの遠出以外、燃料を消費せずに済むことになります。
 

 ここから先は、バッテリの性能しだいです。たとえば、バッテリのエネルギー密度(質量もしくは体積あたりの蓄電容量)がさらに高まっていくにつれて、エンジンをもっと小さく、軽くして、その分の重量をバッテリの増設にまわしたほうがいい、という方向に進むことは自然な流れです。
 この段階に至ると、そのクルマはもはや実質的にEVであって、エンジンはバッテリ切れ状態でも走行を続けるための「非常用発電機(もしくは非常用動力源)」にすぎません。これが「レンジエクステンダー」などとも呼ばれる、シリーズ式ハイブリッド機構です。
 そして、さらにバッテリの性能もしくは容量が増えれば、エンジンを完全に排除したEVになる、というわけです。

 さて、しかしプラグイン化やEV化に向けては多くの課題があります。たとえば、バッテリならエネルギー密度の向上、安全性の確立、そして廃棄/リサイクルにおける環境負荷の低減が必須ですし、モータやインバータは小型高効率化と発熱対策という、相反しがちな課題の解決が不可欠となります。
 これらの個別の課題については、また別の機会にあらためてとりあげたいと思いますが、現在、世界の主要国で生産される自動車の総数は6000万台程度という規模ですから、仮にその1/10がハイブリッド車やEVになったら、それらが搭載するバッテリやモータの生産のために消費される資源の量は、文字通り莫大なものとなってしまいます。また、プラグイン化が進めば、それに対応した電力供給能力の実現も課題となってきます。

 個人ユーザーにとっては、「燃費がいい」という直接的な利益を与えてくれるハイブリッド車ですが、社会全体で見た時、また生産から廃棄までをトータルで見た時に、果たしてどれだけの省資源化が実現できるのかを、冷静に検討することが重要です。


著者プロフィール:松田勇治(マツダユウジ)
1964年東京都出身。青山学院大学法学部卒業。在学中よりフリーランスライター/エディターとして活動。
卒業後、雑誌編集部勤務を経て独立。
現在はMotorFan illustrated誌、日経トレンディネットなどに執筆。
著書/共著書/編集協力書
「手にとるようにWindows用語がわかる本」「手にとるようにパソコン用語がわかる本 2004年版」(かんき出版)
「記録型DVD完全マスター2003」「買う!録る!楽しむ!HDD&DVDレコーダー」「PC自作の鉄則!2005」(日経BP社)
「図解雑学・量子コンピュータ」(ナツメ社)など

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