テクノ雑学

第121回 雲の向こうとつながるインターネット〜身近なクラウドコンピューティング〜

次世代の情報システムのキーワードとして最近耳にすることが多い「クラウドコンピューティング」。企業用の大規模な情報システムのための技術のように思えますが、実は、インターネットを日常的に利用している人なら、既に毎日のように利用している技術なのです。今回のテクの雑学では、クラウドコンピューティングの技術について、その概要を紹介します。
 

コンピュータの雲が形作るサーバ

インターネットでは、ネット上にあるサーバコンピュータに利用者がネットワーク経由で接続して、データをダウンロードしたり、メールやWebなどのサービスを利用します。ユーザーがサービスを快適に利用するために、サービス提供者は、データの量や接続数に応じた適切な容量や速度のサーバを用意する必要があります。

 しかし、インターネットを利用する人や企業が増えるとともに扱うデータの量や接続ユーザー数が急増するにつれて、必要なサーバのサイズもどんどん大きくなっていきました。余裕をもってサーバを用意しても、すぐに不足して入れ替えが必要になってしまいます。だからといって、大きすぎるサーバを用意しては、コストがかかりすぎて、適切な価格でサービスを提供することができません。

 そこで登場したのが、クラウドコンピューティングという技術です。クラウドコンピューティングは、多数のコンピュータをネットワークで接続して、巨大な一つのコンピュータ(クラウド)として扱えるようにする技術です。「クラウド(Cloud)」とは、英語で「雲」という意味で、サーバが小さなコンピュータの集合となって、雲のように形のはっきりしないイメージを表しています。
 

クラウドコンピューティングの主な長所は以下のようなものです。

コストが安い
 クラウドを構成する一つひとつのコンピュータは、性能が比較的低い、安価なコンピュータです。クラウド全体と同じ処理能力を持つ大型コンピュータよりも、安く構築できます。
 

拡張性が高い
 能力が不足した場合、クラウドにコンピュータを足すことで、能力を引き上げることができます。置き換えではないので、今までに入れたコンピュータ資源をそのまま活かすことができるので、低コストで拡張できます。
 

信頼性が高い
 クラウドコンピューティングでは、データやシステムを多重化(同じものを複数のコンピュータに置くこと)しています。システムの一部が壊れても同じ機能を他のコンピュータで代替できるので、システムが停止したり、データが消えたりすることが起こりにくくなっています。

■ 身の回りにあるクラウドコンピューティング

 サーバが安くなるといってもなんだかピンとこないかもしれませんが、インターネットサービスを提供している企業にとっては、適正な価格でサービスを提供するためにはサーバの価格は重要な問題です。多くの企業が、自社のサービスをクラウド上で展開しています。皆さんは、既にクラウドコンピューティングの技術を日常的に利用しているのです。

 検索エンジンのGoogleや、超巨大ECサイトのAmazon.comなどは、自社のサービスをクラウドコンピューティングで提供しています。

 Amazon.comは、自社のクラウドを、他社に対してもサーバとして提供するサービスを行っています。インターネット上で新しいサービスをはじめようとするベンチャー企業は、Amazon.comのサービスを利用することで、サーバへの初期投資をおさえることができ、またサービスの成長に合わせてサーバを拡張していくことができるのです。動画共有サイトの「YouTube」、ゲームの「Second Life」、ソーシャルネットワークサービスの「Facebook」(日本でいえばmixiのようなサービス)、オンラインストレージサービス(サーバ上にデータを保存できるサービス)の「Dropbox」など、多くのサービスがAmazonのクラウドサービスを利用しています。


 Googleは、自社のクラウド上で動作するウェブメール、スケジュールソフト、文書作成ソフトなどのWebアプリケーションを「Google Apps」として提供しています。これらのアプリケーションは、そのままWebから利用することもできますが、こうした機能を組み合わせて、企業内で利用する情報システムを構築し、運用することができるのです。社内ネットワークを利用するためのサーバなどを自社で準備・管理する必要がなくなるため、利用する企業が増えつつあります。

■ 未来のコンピュータは全てクラウドにつながる?

 最近話題なのが、「ネットブック」と呼ばれる、Webやメールなどのインターネット機能に特化した、低価格で小さなパソコンです。ネットブックとクラウドを接続して、アプリケーションやデータは全てクラウド上に置くことで、ネットブックを従来のパソコンと同じように利用できるようになります。また、データやアプリケーションはクラウド上にあるので、違うコンピュータからでも同じデータを使うことができるのです。この考え方をそのまま取り入れたのが、2009年7月8日にGoogleが開発を発表した「Google Chrome OS」です。

 必要最低限の機能を持ったLinuxのカーネル(OSの核になる部分)の上にWebブラウザを搭載し、電子メールやウェブの閲覧などだけではなく、文書作成、共有機能など、全ての処理をWebアプリケーションで行うという構想です。クラウドコンピューティングは、ますます私たちの生活と切り離せなくなりそうです。

出典:Google公式ブログ日本語版


著者プロフィール:板垣朝子(イタガキアサコ)
1966年大阪府出身。京都大学理学部卒業。独立系SIベンダーに6年間勤務の後、フリーランス。インターネットを中心としたIT系を専門分野として、執筆・Webプロデュース・コンサルティングなどを手がける
著書/共著書
「WindowsとMacintoshを一緒に使う本」 「HTMLレイアウトスタイル辞典」(ともに秀和システム)
「誰でも成功するインターネット導入法—今から始める企業のためのITソリューション20事例 」(リックテレコム)など

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