テクノ雑学

第98回 デジタルコンテンツの革命? - 「ダビング10」のメリット/デメリット -

2008年7月4日の午前4時から、地上波、衛星放送とも、テレビのデジタル放送に「ダビング10(テン)」と呼ばれる、新しい著作権保護の仕組みが実施されました。それ以前に用いられていた著作権保護技術「コピーワンス」が、ある意味で非常にすっきりした内容だったのに対し、ダビング10による著作権保護は少々複雑になっていることから、ユーザの間には混乱も見受けられます。
 今回は、現状のダビング10の実態について、ユーザとしての視点で情報をまとめてみましょう。

「コピーワンス」から「ダビング10」へ

コピーワンスは、デジタルチューナーやセットトップボックス経由でデジタル録画機器に保存した番組を、他のデジタル録画機器やDVD-RAMなどのDRM(Digital Rights Management : デジタル著作権管理)対応のメディアへ「移動=ムーブ」できる、というものです。「移動」というのは、他の機器やメディアへのダビングを行なったら、元々録画した内容は削除されてしまうからです。
 紙の書類をコピー機などで複製したら、元の書類が白紙になってしまうようなものですから、これを「コピー=複製」と呼ぶのは、元々無理があったように思えます。



 対してダビング10は、PCや専用レコーダーなどに内蔵され、固定されているHDDに録画した場合に限り、DRM対応メディアや、i.Linkなどデジタル接続端子経由で他の録画機器へダビングしても、元の録画内容は削除されません。
 ただし、その回数に制限があって、10回目のダビングで元の録画内容が削除されます。また、ダビングしたものからさらに他の機器やメディアにダビングして「孫世代」を作ることはできません。


 利点としては、コピーワンス時代には不可能だったアナログ映像出力端子経由での、他の録画機器やDVD系メディア、VHSへのダビングが可能になったことです。アナログRGBによる出力には、解像度の制限(約52万画素)がありますが、1080iのコンポーネント映像出力などでもダビングは可能です。
 アナログ端子経由でのダビングにも「CGMS-A」という著作権保護技術が働いていますが、その規格にダビング回数の管理が含まれていないため、10回を超えてダビングしても元の番組は削除されません。ただし、アナログ経由であっても孫世代を作ることはできません。

 

■ ダビング10の制御方法

 さて、ここからが少しややこしい話になります。
 まず、ダビング10は、当然ながら対応デジタル録画機器、しかもHDDを内蔵・固定するものでなければ、その恩恵にあずかることができません。ここ1年ほどの間に登場したデジタル録画機器であれば、ファームウエアのアップデートで対応可能なケースも多いようですが、古いデジタル録画機器では、従来通りの「ムーブ」しかできないのです。

 デジタル放送の電波はパケット化して送信されており、パケットの先頭にはCCI(Copy Control Information)と呼ばれる、コピーの可否を制御する信号が付いています。デジタル放送波=パケットデータを受信した機器は、CCI信号を読み取って録画したデータ=番組のコピー制御情報に従って動作することになります。

 ダビング10が実施されてから後も、すべてのデジタル放送番組がダビング10を許容するわけではありません。従来通りのムーブのみの制限をかけることも可能で、どちらを選ぶかは放送側が任意に選択できます。
 そこでダビング10実施後、デジタル放送の電波は、従来のCCI信号に「Copy restriction mode」という1ビットの識別フラグを付加できるようになりました。簡単に言ってしまえば、ダビング10対応録画機器とは、ファームウエアがこの識別フラグを読み取れる機器のことです。
 受信した電波のCCI信号に含まれている識別フラグが「1」、もしくは識別フラグを含まない場合はコピー制御をダビング10、「0」の場合は従来通りのムーブのみとして扱います。古いデジタル録画機器にはこの区別ができないため、すべての番組がムーブのみ扱いとなってしまう、というわけです。
 

■ 今後の課題

 以下、混乱のもとになっていると思われる事柄について列挙してみます。

  • HDD内部でのムーブは、残りのダビング可能回数を減らさずに可能。
  • ダビング10に対応可能なメディアは、BD(ブルーレイディスク)ならAACS、DVD系ならCPRMの対応製品のみ。
  • HDDではなく、BDやDVD系メディアに直接録画した場合はダビング10は適用されない。
  • 録画機器から他の録画機器へアナログ接続端子経由でダビングした番組は、CPRM対応のDVD系メディアにVRモードでのみムーブできる。
  • iVDR-S、SD/SDHCカードなどのメモリーメディアは、現状では対象外。
  • 携帯プレーヤーなどへの対応は、録画機器によって異なる。

 コピーワンス時代よりも規制が緩まった印象の強いダビング10ですが、ユーザの立場からすると、まだまだ改善してほしい点もあります。
 まずは、今後ますます普及していくだろう、携帯プレーヤーへの対応です。HDDレコーダーもPC用のキャプチャーボードも、基本的に動画コーデックにはMPEG-2を使いますが、携帯プレーヤーの場合はまちまちです。
 録画機器が、ダビングしようとしている携帯プレーヤーが使う動画形式への変換機能と転送機能を持っていればダビング10に対応可能ですが、そうでない場合はアナログ経由でPCへダビングして、PC上で携帯プレーヤーに対応する形式に再エンコードして……といった手間が必要になり、デジタル化の意義が薄れてしまいます。

 もうひとつ大きな問題は、録画したコンテンツを、今後登場する新しい記録メディアへ引き継いで行くことができない点です。
 HDD/DVDレコーダーを購入して、まずは過去にビデオテープに録画した番組を、DVDに保存し直した人も多いのではないかと思います。しかし、ダビング10では孫世代が作れませんから、今後新たなメディアが登場しても、過去の番組を保存することができません。
 いったん本格的に普及してしまったメディアはそう簡単に絶滅するものではありませんし、デバイス側が新しくなっても互換性は確保されることが多いので、10年後にDVDが再生できないといった事態は考えにくいですが、個人的にはせめてメディア間のムーブは可能にしておいてほしい、などと思ってしまうところです。


著者プロフィール:松田勇治(マツダユウジ)
1964年東京都出身。青山学院大学法学部卒業。在学中よりフリーランスライター/エディターとして活動。
卒業後、雑誌編集部勤務を経て独立。
現在はMotorFan illustrated誌、日経トレンディネットなどに執筆。
著書/共著書/編集協力書
「手にとるようにWindows用語がわかる本」「手にとるようにパソコン用語がわかる本 2004年版」(かんき出版)
「記録型DVD完全マスター2003」「買う!録る!楽しむ!HDD&DVDレコーダー」「PC自作の鉄則!2005」(日経BP社)
「図解雑学・量子コンピュータ」(ナツメ社)など

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