テクノ雑学
第87回 静電気が発生する仕組みとは?防止する方法を知ろう
今年の冬の寒さはとても厳しいですが、冬のもう一つのつらさが静電気。エアコンのきいた室内は乾燥しがちで静電気が発生しやすい環境です。今回のテクの雑学では、静電気の発生のしくみと、防止のための方法についてみていきましょう。
なぜ静電気は発生するの?
静電気は摩擦によって発生します。プラスチックの下敷きで髪の毛をこすると、髪の毛が下敷きに貼りつくという遊びをした記憶がある方も多いでしょう。わざわざ意識してこすらなくても、人が動くことで、空気と人体、あるいは衣類と人体、上着と下着など、さまざまな摩擦が発生しています。
静電気の元になるのは、物体を構成している原子の中にある電荷です。原子は、原子核と電子からできていますが、原子核はプラスの電荷を持ち、電子はマイナスの電荷を持っています。摩擦によってこすれあっている2つの物体の一方からもう一方に電子が移動することで、電気的な性質が偏ります。この状態を帯電といいます。
物体がプラスとマイナスのどちらに帯電するかは、2つの物体の種類によって変わります。よりプラスに帯電しやすいものがプラス、マイナスに帯電しやすいものがマイナスになります。種類による帯電しやすさの傾向をまとめたのが帯電列です。
静電気が花粉を引き寄せる?
接触した2つの物体がプラスとマイナスに帯電した状態では、電気的な力で引き合います。なので、2つの物質は、互いにくっつきあいます。ストッキングをはいた脚にスカートの裏地がまとわりつく現象がこれです。
帯電しているものには、空気中の微粒子がくっつきやすくなります。微粒子も帯電しているので、電気を帯びたものに引き寄せられるのです。ホコリや、これからの季節では、花粉なども吸い寄せられることになってしまいます。
また、ドアノブや鍵穴に触るとばちっというショックを感じるのは、人体に帯電していた電気が、金属に触れることで一気に放出される(放電)からです。金属に電気がたまっているように考えがちですが、電気を通す物体では電気はそのまま流れてしまい、帯電することはありません。静電気は、電気を通さない物体(絶縁体)にたまりやすいのです。衣類の摩擦や歩くことによる地面との摩擦で人体は常に静電気を帯電しています。
静電気を防止するための方法
人が生活していると静電気の発生は避けられませんが、ちょっとした工夫で減らすことはできます。
適度な湿度を保つ
水蒸気は電気を逃がす性質があるので、適度な湿度があれば静電気は発生しにくくなります。乾燥しがちな冬は静電気が発生しやすく、逆に比較的湿度が高い夏は発生しにくいのは、そのためです。
静電気は、気温25度以下・湿度20%以下の環境で発生しやすくなります。つまり、冬の室内環境は、静電気がとても発生しやすい環境なのです。加湿器などを使用し、適度な湿度の維持に心がけましょう。
静電気防止スプレーや柔軟剤を利用する
市販されている衣類用静電気防止スプレーの成分である界面活性剤や、洗濯用の柔軟剤は、水になじみやすい部分(親水基)と油になじみやすい部分(疎水基)がくっついた形をしています。
疎水基が潤滑油として布地の摩擦を減らすことで、静電気を発生しにくくします。また、親水基が空気中の水分子を吸い寄せることで、布地の表面に水の膜のようなものを作り、電気を逃がしやすくします。「静電気の発生を減らす」「発生した静電気を逃がす」という2つの働きで、帯電を防止するのです。
衣類の素材を選ぶ
帯電列で遠いものどうしが接触すると、静電気を発生しやすくなります。逆にいえば、できるだけ近いものどうしを組み合わせて着ることで、静電気を防止できるようになります。
例えば、冬の防寒着によく使われるフリースはポリエステルなので、帯電列で離れたところにあるウールのセーターよりも、木綿のシャツを組み合わせたほうが静電気が発生しにくくなります。
導電性繊維を活用する
摩擦などで静電気が発生しても、電気を逃がすことで帯電は防げます。通常の繊維は、電気を通さない絶縁体ですが、電気を通すことで空気中に電気を逃がすのが、導電性繊維です。
導電性繊維は、金属やカーボンなどを含んでいます。帯電した布の表面に導電性繊維が接触することで、「コロナ放電」という現象が発生し、空気中にイオンが生じます。このイオンと、帯電した布の電荷が中和していくことで、帯電を解消できます。裏地に導電性繊維を使用している衣類も最近は販売されていますが、普通の衣類に手芸店などで売っている導電性繊維を縫い付けておくだけでも効果があります。
コロナ放電は、イオン式空気清浄機でも使われている原理ですが、こちらは、イオンを生じることで空気中のホコリやチリを集めます。同じ原理ですが、全く正反対の目的に応用されているのですね。
たまった電気をうまく逃がす
車のキーやドアのノブなど、日常の静電気を感じるポイントでは、「できるだけゆっくりと電気を逃がす」ことがポイントです。たとえば、いきなり指先でドアに触ると、尖った部分同士で急速な放電が起こりやすくなるのです。指先ではなく手のひらで触る、壁を触って自分のからだに帯電した電気を逃がしてからドアを触るといった工夫で、いきなり「バチッ」というショックを感じることは減ります。
冬になると静電気に悩まされている人も、こうした工夫でかなり快適に過ごせるようになります。ぜひ、試してみてください。
著者プロフィール:板垣朝子(イタガキアサコ)
1966年大阪府出身。京都大学理学部卒業。独立系SIベンダーに6年間勤務の後、フリーランス。インターネットを中心としたIT系を専門分野として、執筆・Webプロデュース・コンサルティングなどを手がける
著書/共著書
「WindowsとMacintoshを一緒に使う本」 「HTMLレイアウトスタイル辞典」(ともに秀和システム)
「誰でも成功するインターネット導入法—今から始める企業のためのITソリューション20事例 」(リックテレコム)など
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