テクノ雑学

第78回 より高速かつ広域な通信網の実現に向けて −WiMAXの可能性−

ここ1年ほどの間で、WiMAX(ワイマックス)という言葉を耳目にした機会があるのではないかと思います。

通信網と通信範囲

WiMAXは Worldwide interoperability for Microwave Access の頭文字を取った略語で、次世代無線通信規格と、それに準拠した仕様の製品を指すブランド名です。現状、一般向けに普及している無線LAN規格であるWi-Fi(Wireless Fidelity)よりも大幅に高速かつ広域での無線通信を目的に考案されました。

 Wi-Fiがおもに個人宅や企業内での無線通信用途に向けて開発された、いわゆるLAN(Local Area Network 構内/狭域通信網)を無線化する技術なのに対し、WiMAXはそもそもBroadband Wireless Access(広帯域通信)用途に向けた無線通信の技術です。仕様上で想定されている通信範囲は50kmにもおよび、もはやLocal Areaの域を越えていることから、ワイヤレスMAN(Metropolitan Area Network 都市規模通信網)の呼称も一般化しつつあります。

 MANとは、たとえば企業の事業所内部で構築しているLANを、市町村程度の範囲で相互に接続し、通信可能とするような規模のネットワークを指す言葉で、光ファイバー網の整備とともに普及してきた概念です。ケーブルテレビ回線網などをイメージすると、具体的な回線網の規模が理解しやすいかもしれません。そのMANを無線化できないか? という発想から生まれたのがワイヤレスMANであり、その派生・発展版であるのがWiMAXです。

 ちなみに、最近は個人宅、もしくは特定の室内といった規模のネットワークを指すものとしてPAN(Personal Area Network)という呼称も定着しつつあります。ネットワークの規模はPAN(通信範囲10〜20m程度)<LAN(数百m程度)<MAN(数十km程度)<WAN(Wide Area Network 広域通信網)の順に大きくなります。

■ WiMAXの基本仕様

 WiMAXの基本仕様は、IEEE(Institute of Electrical and Electronic Engineers 米国電気電子学会)の802標準化委員会(LAN/MAN Standards Committee)の下部組織、第16標準化部会(Broadband Wireless Access Standards)で策定されています。

 もともとの規格である802.16規格の仕様は、10〜66GHzの周波数帯を使い、1台のアンテナで約50km程度の範囲をカバー、最大通信速度が75Mbpsというものです。変調方式はWi-Fi規格と同じOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)を使い、1チャネルあたりの帯域幅もWi-Fiと同じ20MHzですが、固定アンテナで安定的に電波を送受信することで、通信データ量を大きく増やしているのが特徴です。

 そこから派生・発展したWiMAX(802.16a/d規格、後に802.16-2004規格に発展)は、使用周波数帯を2〜11GHzに変更しています。周波数帯を低めることで電波の直進性を弱め、建物の陰などにも回り込みやすくし、より安定した通信を実現することなどが目的です。

 1チャネルあたりの周波数帯の設定自由度が高いことも特徴です。たとえば全体で30MHz幅をの周波数帯が使える場合、それを10MHz幅ずつや5MHz幅ずつに分割し、それぞれを個別に管理・制御しながら運用できるのです。

 802.16規格は、Fixed Broadband Wireless Access(広域固定無線機器アクセス技術)とも呼ばれていました。おもな想定用途は、いわゆる「ラストワンマイル」用メディアとしての役割です。FTTHなどのブロードバンド回線を利用したいが、回線網の適用範囲から外れている、もしくは回線自体はすぐ近くまで来ているけれども、なんらかの事情で建物/家屋内に引き込めない……といった場合、通信可能な範囲に基地局を設け、建物との間を無線で接続することで、ブロードバンド通信を可能とするわけです。

 有線ネットワークでは、実際になんらかのケーブルを敷設しなければならない都合上、回線網の拡大にはさまざまな困難がつきまといます。たとえば、あらかじめ内部にネットワーク用回線網を持っていないアパートやマンションなどに設置する場合、各部屋ごとにいちいち回線を引き込まなければならないなど、なにかと手間がかかります。

 対してWiMAXなら、標準的な基地局1個あたりで600〜1000人の利用者をサポートできるとされているため、建物単位ではなく、ある程度の地域全体をカバーできてしまいます。つまり、これまで不可能だった地域でも高速通信を可能とする上で、手間とコスト節約の面で大きなメリットがあるわけです。

■ 無線メッシュ中継機能

 WiMAXには、「無線メッシュ技術」への援用も期待されています。
 無線メッシュ技術とは、中継機能を持ったアクセスポイント同士を相互に接続することで、無線LANのアクセス可能範囲を広める仕組みです。屋内LAN向けではすでに多くの製品で実現されていますし、802.11j規格対応で4.9GHz帯を使う製品なら、屋外でも利用が可能です。

 このメッシュ中継部分にWiMAXを用いれば、より広範囲で高速な無線アクセスが可能になるわけです。WiMAXの通信範囲50km程度というのはあくまで仕様上の理論値であって、実際には十数km程度に留まると見込まれていますが、それでも周囲10kmあたり一個程度のアンテナで高速に無線通信できるようになれば、「どこでも高速ネットワーク接続」の実現に大きく近付くことになるでしょう。


■ モバイルWiMAX

 日本では、WiMAXから派生した移動体通信技術「モバイルWiMAX」のほうに大きな注目が集まっています。その名の通り、WiMAX規格をベースにモバイル機器での利用性を向上させることを目的として考案されたもので、IEEEでは802.16e/f規格として策定、後に802.16-2005へ発展しました。

 モバイルWiMAXでは周波数帯を6GHz以下として、さらに電波の直進性を弱めて使い勝手を向上させました。日本では2.5GHz帯が割り当てられる見込みです。また、通信利用可能距離を3km程度とする代わりに、基地局を切り替えながら通信を行なうハンドオーバーを実現していることも特徴。仕様上の最大通信速度は75Mbpsとされ、時速120km程度で移動しながらでも安定した通信ができることを目標として開発されています。

 このような特徴を持つことから、いわゆるモバイル機器だけではなく、ITS分野における各種情報提供サービスや、次世代携帯電話での利用も視野に入れられています。

 2007年10月には、ITU-R(国際電気通信連合無線通信部門)の総会で、モバイルWiMAXが新たな陸上無線インタフェースとして承認される見込みです。すでに承認済みの陸上無線インタフェースは、W-CDMAやCDMA2000など、いずれも移動体通信メディアとして携帯電話などに用いられている技術。このことからも、モバイルWiMAXが次世代携帯電話用データ通信技術として採用される可能性は高いと目されています。

■ WiMAXの実用化に向けて

 海外では、すでにラストワンマイル用途でのWiMAX運営事例が多数あります。また日本国内でも鷹山が、WiMAXを使った無線通信サービス「BitStand」を東名阪エリアで提供しています。ただし、BitStandはアンテナと端末の間をWi-Fiで接続、その先を4.9GHz帯を使うWiMAXで接続するサービスで、いわゆるホットスポット的な形態。日本国内ではまだモバイルWiMAXの認可が降りていないためですが、いずれモバイルWiMAXとの連携による本格的な移動体通信サービスが提供されることは必至です。

 モバイルWiMAXに関する国内の最新動向を記しておくと、総務省は2007年9月10日から10月12日までの期間で、次世代高速無線通信の全国サービスに向けた電波利用免許の申請を開始しました。新たに割り当てられるのは2.5GHz帯で、最大2社に免許を与えるとされています。携帯電話のキャリアに対しては単独での事業参入を認めないものの、出資比率が3分の1以下の新会社なら参入可能としたため、NTTドコモ&アッカ・ネットワークス連合、KDDI&京セラ連合、ソフトバンクモバイル&イー・アクセス連合の3陣営が、WiMAXによるサービスの免許取得を狙っているようです。


著者プロフィール:松田勇治(マツダユウジ)
1964年東京都出身。青山学院大学法学部卒業。在学中よりフリーランスライター/エディターとして活動。
卒業後、雑誌編集部勤務を経て独立。
現在はMotorFan illustrated誌、日経デジタルARENAなどに執筆。
著書/共著書/編集協力書
「手にとるようにWindows用語がわかる本」「手にとるようにパソコン用語がわかる本 2004年版」(かんき出版)
「記録型DVD完全マスター2003」「買う!録る!楽しむ!HDD&DVDレコーダー」「PC自作の鉄則!2005」(日経BP社)
「図解雑学・量子コンピュータ」(ナツメ社)など

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