テクノ雑学
第51回 夏の夜空に開く大輪の花 −打ち上げ花火の中はどうなってるの?−
打ち上げ花火の中はどうなってるの?
夏の夜空に開く大輪の花 −打ち上げ花火の中はどうなってるの?−
夏休みの風物詩といえば、花火。日本各地で開催される花火大会を楽しみにされている方も多いのではないでしょうか。今回のテクの雑学では、打ち上げ花火にスポットをあててみましょう。
花火の歴史
花火のルーツは、緊急通信用に使われた「狼煙(のろし)」です。紀元前3世紀の中国では、既に火薬の原料となる硝石が発見されており、これが花火の歴史の始まりとされています。
やがて12世紀後半、中国で、現在の爆竹やねずみ花火に近いものが作られ、広く普及しました。現在でも中国の旧正月には爆竹を鳴らして祝う風景がよく見られますね。この花火は、シルクロードを通ってヨーロッパに伝わりました。
日本に花火が伝来したのは、戦国時代の末期だとされています。最初の花火は、筒から火花が吹き出す程度のものでしたが、江戸時代にはいり、両国花火大会をはじめとして、各地で花火大会が盛んに行われるようになりました。この時代に有名だったのが、鍵屋と玉屋いう花火職人。花火大会でよく「玉屋〜」「鍵屋〜」という掛け声をかける人がいるのは、その名残です。
花火の構造
打ち上げ花火にはいくつか種類がありますが、一番一般的なのは「割物」という種類のものです。「菊」「牡丹」などと呼ばれる、同心円状の大きな花火です。
花火には「星」と「割薬」の2種類の火薬が使われています。「星」は空中で光る火薬、「割薬」は星を勢いよく飛ばすための火薬です。
花火の玉は球形で、同心円状に星と割薬が配置されています。空中に打ち上げられる時に導火線に火がつき、空中で星と割薬に引火します。星は、光りながら、割薬の爆発で勢いをつけられて放物線状の軌跡を描きながら飛び出します。私達は、このときに光の残像として見える星の軌跡を楽しんでいるわけです。
玉が大きいほど火薬をたくさん使った、大きな花火になります。「尺玉」「3尺玉」という呼び方は、この玉の直径のことで、花火の大きさの目安になります。
ちなみに、毎年9月に開催される新潟県小千谷市片貝町の片貝まつりで打ち上げられる「4尺玉」は、玉の直径120cm、重さは420kg、打ち上げの高さ800m、開いたときの直径が800mにもなり、ギネスブックにも登録されています。
小さな花がたくさん開くタイプのものは「小割物」といいます。
大きな玉の中に、小さな割物の玉がたくさん入った構造をしています。これが破裂すると、まず中に入っている割物の玉が飛び出し、空中でばらばらと光ります。その様子から、千輪菊と呼ばれています。
花火の色
現在の花火は、色とりどりのきれいな光ですが、江戸時代に流行していた花火は暗赤色の単色のものでした。これは当時の火薬の主成分だった、硝石と硫黄と木炭が燃えたときに出る色です。明治初期に海外から発色剤が輸入され、色がついた花火は洋火と呼ばれてもてはやされました。
花火の光の色は、金属の炎色反応によるものです。星の火薬に発色剤を混ぜ込んで、色を出すのです。代表的な炎色反応の例をあげてみました。
時間の経過と共に色が変わる花火を作るには、星の構造に工夫が必要です。まず小さな火薬の玉を作り、乾かしたあと、別の色の火薬で球状にその火薬の玉を包みます。この作業を繰り返すと、色の異なる火薬が何層か重なった星ができます。このような星を「掛け星」といいます。火がつくと、掛け星の火薬は外側から燃えていき、時間が経過するにつれて内側の火薬の色に変化する光が楽しめます。
花火の打ち上げ方
花火の打ち上げには「煙火筒」とよばれる筒を使います。この筒に、打ち上げ用の火薬(発射薬)を入れ、その上に導火線を下にして花火玉をセットします。発射薬に点火すると、花火玉が上空に打ち上げられると同時に導火線に火がつき、適当なところで花火玉中央の割薬が爆発して花火が開きます。
連続して打ち上げるような場合は、筒の中に熱した金属板を入れておき、あらかじめ発射薬を導火線側に貼り付けた花火玉を、発射薬が下になるように投げ込んでいく「早打ち」というやり方もあります。
大規模な花火大会では、あらかじめ打ち上げに必要な煙火筒と花火玉を全てセットしておき、遠隔地から点火する方法がとられます。点火はニクロム線で作った装置を使い、電気的に行いますので、コンピューターによる複雑な制御も可能です。
打ち上げは機械で制御できるようになりましたが、花火玉の製造は今でも手作業です。より大きく美しい花火で観客を楽しませようという花火職人の心意気を感じながら、残り短い夏の花火を楽しみましょう。
著者プロフィール:板垣 朝子(イタガキアサコ)
1966年大阪府出身。京都大学理学部卒業。独立系SIベンダーに6年間勤務の後、フリーランス。インターネットを中心としたIT系を専門分野として、執筆・Webプロデュース・コンサルティングなどを手がける
著書/共著書
「WindowsとMacintoshを一緒に使う本」 「HTMLレイアウトスタイル辞典」(ともに秀和システム)
「誰でも成功するインターネット導入法—今から始める企業のためのITソリューション20事例 」(リックテレコム)など
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