テクノ雑学

第44回 携帯電話が内線電話に −モバイルセントレックスでオフィスが変わる−

モバイルセントレックスでオフィスが変わる

携帯電話が内線電話に −モバイルセントレックスでオフィスが変わる−

 この1月末、NTTドコモから「2007年度第3四半期を目途に、PHSサービスを終了する」との発表がありました。すでに2005年5月からPHSの新規契約申込を停止しており、サービス終了は時間の問題と見られていましたが、実際に終了がアナウンスされたことで、ひとつの時代が終わったことを実感させられました。

■ PHSからモバイルセントレックスへ

 PHSは「簡易型携帯電話」的な扱いで売り出されましたが、そもそもの構想は「外出先でも使えるコードレスホン子機」であり、技術的にもコードレスホンの延長にありました。一般家庭向けのPHS用親機は、価格面などがネックとなってあまり普及したとは言えず、筆者個人はこれがPHS衰退の最大の原因と考えます。

 ただし、企業や団体などでは、従来のPBX(Private Branch eXchange 構内交換機)+固定電話機に代えて、PHSを使った構内/内線電話網を構築したところも少なくありません。自分のデスクに着いていない時でも内線電話が受けられ、同じ端末が外出時にも活用できるといったメリットが認められていたわけです。

 さて、PHSサービスを停止するから…というわけではないでしょうが、同様のシステムを、PHSではなく携帯電話を使って構築するサービス「モバイルセントレックス」が、すでに2004年秋頃から始まっています。

モバイルセントレックスのしくみ
モバイルセントレックスのしくみ


 携帯電話キャリア3社ともにサービスを提供していますが、面白いのはシステムの構成がキャリアによって大きく異なっている点です。それぞれの概要と、メリット/デメリットについてまとめてみましょう。

■ NTTドコモ「PASSAGE DUPLE」

 PBXの代わりに、構内に専用のVoIP(Voice over Internet Protocol TCP/IPネットワーク上で音声データを送受信する技術)/SIP(Session Initiation Protocol)サーバーを設置します。SIPはIP電話やインスタントメッセンジャーソフトで採用されている技術ですが、転送機能や発信者番号通知機能などを持っているので、それを利用してPBX同等の機能を実現させます。

 サーバーと端末の間は、無線LAN(IEEE 802.11b対応)アクセスポイントを介してやりとりします。つまり、内線電話は「構内無線IP電話網」によって実現されると考えればいいでしょう。無線部分のセキュリティには、WEP認証とIEEE802.1xが対応しています。

 導入するためには、サーバー設置費用などの初期投資が必要になりますが、その代わりに内線通話料金、内線エリアからのパケット料金は無料です。内線用に使える端末は無線LANとFOMAのデュアル対応機(N900iL)のみとなります。

NTTドコモ「PASSAGE DUPLE」のしくみ


■ au「OFFICE WISE」

 ドコモと同様、構内に「OFFICE WISE装置」と呼ばれる小型の無線基地局兼交換機を設置します。さらに内線用のアンテナも設置し、基地局と端末の間は携帯電話の電波を使って通信します。つまり、auの携帯電話システムそのものを構内に構築することで、内線通話を可能とする仕組みです。
 VoIPやVPNなどのネットワーク技術を使わないので、auの携帯電話(プリペイド用機種を除く)なら、どの機種でも内線通話ができるのが特徴です。
 サーバー設置費用などの初期投資が必要で、それとは別に内線用として登録する端末1台あたり月額945円(税込)が必要になりますが、登録端末同士の内線通話は無料となります。ただし、パケット料金は別途加算されることになります。
 

au「OFFICE WISE」しくみ


■ ボーダフォン「Vodafone Mobile Office」

 他社とは違い、会社の代表番号などへ外からかかって来た電話を内線番号に転送する、いわゆるPBX機能はありません。純粋に「社内間通話」を携帯端末に置き換えるサービスです。

 特徴としては、構内にサーバーや交換機などを設置する必要がなく、すべてをボーダフォンの一般向け携帯電話インフラで処理する点です。同社製の3G携帯電話端末を「オンネットグループ」という単位に登録することで、相互に内線通話が可能になります。

 最大のメリットは、実際の構内に留まらず、ボーダフォンの通話可能エリアすべてが「内線通話」扱いになることでしょう。たとえば東京の事業所から大阪の事業所への通話や、出先の社員への通話も「内線」扱いとなるので、事業のスケールによっては大きなコストメリットが見込めるでしょう。

 オンネットグループに登録した同一法人名義の3G端末同士なら、月額基本使用料5460円(税込)のみで音声通話がし放題となります。3G端末から、オンネットグループに登録した一般電話へかけた場合も割引料金が適用されます。ただし、TV電話、パケット通信料金などは別途加算です。
 

ボーダフォン「Vodafone Mobile Office」のしくみ


■ キャリア各社の目指す先は?

 各キャリアのモバイルセントレックスサービスが異なるシステムを採用している理由は、それぞれが目指している「先」が異なっているからです。
 ドコモの場合は、光回線網や公衆無線LANなどのインフラ整備が進んだ先を見据え、携帯電話とIP電話の融合に関する実験的な意味合いを感じます。auのシステムは、小規模携帯インフラの設置による新たなサービス展開の模索でしょう。また、この2社は電話回線網所有社の関連会社であるためか、電話回線網を活かしつつ、携帯端末とのシームレス化による新たな展開を模索…的なニュアンスも感じられます。

 これに対して、回線網を持たないボーダフォンのサービスは、現状では一般ユーザー向けの「○○定額/割引」の延長線上にあるものと考えればいいでしょう。逆に言うと、このサービスを一般ユーザー向けとした「バーチャルファミリーホン」的な展開も、そう遠くない将来に提供されるかもしれません。


著者プロフィール:松田勇治(マツダユウジ)
1964年東京都出身。青山学院大学法学部私法学科卒業。在学中よりフリーランスライター/エディターとして活動。
卒業後、雑誌編集部勤務を経て独立。現在は日経WinPC誌、日経ベストPCデジタル誌などに執筆。
著書/共著書/監修書
「手にとるようにWindows用語がわかる本」「手にとるようにパソコン用語がわかる本 2004年版」(かんき出版)
「PC自作の鉄則!2006」「記録型DVD完全マスター2003」「買う!録る!楽しむ!HDD&DVDレコーダー」など(いずれも日経BP社)

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