テクノ雑学

第38回 ケータイなのにトランシーバー?− 1対多の通話機能、プッシュ・トゥ・トーク −

1対多の通話機能、プッシュ・トゥ・トーク

ケータイなのにトランシーバー? − 1対多の通話機能、プッシュ・トゥ・トーク −

 ケータイにまた新たな機能/サービスが加わりました。2005年10月から、NTTドコモが「プッシュトーク」、auが「Hello Messenger」の名前で提供を開始したもので、一般名称としては「プッシュ・トゥ・トーク(PTT)」と呼ばれる機能です。
 

■ 通常の通話と何が違うのか?

 PTTは、ケータイを使って複数のユーザーの間で、ちょうど無線機やトランシーバーのように1対多の会話ができるサービスです。通常の「電話」としての会話とは異なり、同時に複数のユーザーの音声は流せません。他のユーザーに対して「発言」できるのは、後述する「PTTボタン」を押している1人だけ、というのもトランシーバーなどと同じです。ただし、トランシーバーや無線機では、端末同士が交信するために発している電波が届く範囲でしか会話できませんが、PTTの場合はケータイの電波が送受信できるところなら日本全国どこでも使える(例えば北海道のユーザー、名古屋のユーザー、沖縄のユーザーの間での会話も可能)のが相違点です。

 PTT対応のケータイ端末には、PTT機能専用のボタンが付いています。このボタンを押すと、まずPTT専用に登録しておいた電話帳が表示されるので、その中から誰と誰に向けて「会話」するのかを決め「グループ」化します。次にもう一度PTTボタンを押すと、実際に指定のユーザーを呼び出し、ボタンを押している間だけ「会話」に参加している他のユーザー達に向けて音声メッセージを送信できます。
 PTTボタン1プッシュあたり、NTTドコモの場合は30秒までのメッセージが流せます。誰かがPTTボタンを押している間に他のユーザーがPTTボタンを押した場合は、押した順番に発言権が確保されるようになっています。
 

■ どうやって通話をしているのか?

 では、一体どのようにしてケータイをトランシーバー化しているのでしょうか?
 まずひとつのポイントが、PTTの音声メッセージは通常の音声通話とは違い、データ(パケット)としてやりとりされていることです。パケットデータを複数の相手へ同時に送信すること自体は、すでにメールなど多くのサービスで実現されていますよね。PTTの音声データの場合も、それらとほぼ同様な仕組みを使って同報送信されています。

 端末のPTTボタンを押し、電話帳から会話メンバーを指定すると、そのデータはPTT用のサーバーへ送信され、そのセッションで同報通信するメンバーの登録行程に入ります。この時に使われるのがSIP(session initiation protocol)という通信プロトコルで、これはIP電話で相手を呼び出す時に使われるものです。会話を行なうメンバーが登録されたら、その情報がSIP用のサーバーに記録され、以後のやりとりはサーバーが自動的にグループに登録されたユーザーのみを対象とすることになります。
PTTの流れ(グループ設定時)

 次に、PTT用に音声で発した内容は制御用サーバーによってパケットデータ化され、SIP情報を基に登録メンバー全員に同時に配信されます。制御用サーバーは、他にもメンバー中の誰がPTTボタンを押しているか? といった事柄を把握し、また他のメンバーがPTTボタンを押している間に他のメンバーがPTTボタンを押した場合、次に音声パケットを送信できる順番などといった事柄を管理します。

PTTの流れ(通話時)

■ 通話以外の付加機能とは?

 PTTは、複数の相手に対して、リアルタイム性が必要なメッセージを同時に伝えるのに便利な機能です。TVのCMでもそのようなシチュエーションで説明していますが、例えば学校や会社の帰りなど、急に「みんなで食事して行こうか?」などという話になった場合、全員が街に散って「5人が入れるお店」を探したり、そのメニューを報告したり……といった用途に、たいへん便利に使えるものです。

 ちなみに、NTTドコモのサービスと、auのサービスでは、若干方向性が異なっています。auの「Hello Messenger」は、その名の通り、パソコン用のインスタントメッセンジャーソフトの類と同等の機能を持っています。PTTだけではなく、テキストによるチャット、アイコン(アバター)を使っての個人識別、写真の送付などが可能です。
 対してNTTドコモの「プッシュトーク」は、現在のところは音声のやりとり=トランシーバー機能だけです。ただし、ドコモの端末は以前からテキストによるPTT的な機能「チャットメール」を搭載していましたから、その気になれば次世代端末からでも統合メッセンジャー化できるはずです。

 現在はNTTドコモならドコモだけ、auならauだけと、同じキャリアと契約しているユーザーの間でしか利用できませんが、これがキャリアを超えて利用できるようになると、ユーザーは一気に増えるのではないかと考えます。
 PTTは海外で先行してサービス提供されていたのですが、同じキャリアかつ同じ端末を使っているユーザーの間でしか使えない、といった制約がありました。日本で始まったサービスは、機種の枠は超えましたから、次々世代機あたりではキャリアを越えた、もしくはパソコン用メッセンジャーソフトとも相互乗り入れできるPTT(もしくはメッセンジャーソフト)へ発展することを期待したく思います。
 

【 関連情報リンク】

■NTTドコモ > サービス・機能 > プッシュトーク

■au by KDDI > EZweb サービス紹介 > 各種サービス > Hello Messenger(ハローメッセンジャー)

*但し、上記リンクは今後、URLの変更がなされる場合がございます。ご了承下さい。



著者プロフィール:松田勇治(マツダユウジ)
1964年東京都出身。青山学院大学法学部私法学科卒業。在学中よりフリーランスライター/エディターとして活動。
卒業後、雑誌編集部勤務を経て独立。現在は日経WinPC誌、日経ベストPCデジタル誌などに執筆。
著書/共著書/監修書
「手にとるようにWindows用語がわかる本」「手にとるようにパソコン用語がわかる本 2004年版」(かんき出版)
「PC自作の鉄則!2006」「記録型DVD完全マスター2003」「買う!録る!楽しむ!HDD&DVDレコーダー」など(いずれも日経BP社)

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