テクノ雑学

第15回 今夜は鍋にしましょうか? − 火を使わないIH調理器の仕組み−

火を使わないIH調理器の仕組み

今年は暖冬と言われていましたが、やはり1月になると寒さが身体に堪える日が続きます。寒い夜にはやっぱり温かい鍋料理がいいですね。鍋といえば、コタツの上にコンロを出して鍋を置くのが定番ですが、最近は火を使わないIH調理器が増えています。  

IH調理器のいいところは、なんといっても火を使わないところでしょう。IH調理器そのものに触れても熱くないので、周囲にある紙や布に引火する心配もないし、消し忘れの心配もありません。周囲に置いた食材も温まらないので、野菜や肉をすぐ横においても安心です。  

ガスコンロにかけた鍋が温まるのは、熱いガスの炎から鍋に熱が伝わって(伝導)温度が上がり、鍋から鍋の中身に熱が伝わって温度が上がるからです。炎の熱は鍋だけではなく周囲にも伝わるので、コンロの周囲は暖かくなりますが、周囲の食材まで温まったり、引火の危険があります。では、なぜIH調理器は、本体が熱くないのに鍋を温めることができるのでしょうか。それは、IH調理器は、電磁波を使って、直接鍋を発熱させるからなのです。  

IH調理器の中には、渦巻状のコイルが入っています。ここに高周波の電流を流すと、「電磁誘導の法則」にしたがって、コイルの周辺に磁力線が発生します。磁力線が金属でできたなべ底を通過する時に、鍋の内部に無数の「渦(うず)電流」を発生させます。渦電流が流れる時、鍋底の電気抵抗で熱が発生します。この熱で、鍋の中身が温まるので、調理ができるのです。IHとは、Induction Heating(誘導加熱)の頭文字をとった呼称です。

温度の調整はコイルに流す電流の強さを変えることで行います。最近のIH調理器では、温度センサーで、鍋底の温度を測定して自動的に電流を調整することで、過熱を防止するサーモスタットがついているのが普通です。温度センサーがついている位置は製品によって異なりますが、センサーになべ底が接していないと、正しく温度が測れません。鍋底が反っていたり、底が平らでないなべでは、センサーが動作せず、過熱する可能性があります。また、IH調理器そのものは発熱しませんが、鍋は熱くなるので、逆に鍋からIH調理器に熱が伝わって使用後の電磁調理器は熱くなっています。使用後は火傷に注意しましょう。  

世界で最初にIH調理器が実用化されたのは1974年です。その後、同じ原理でご飯をたく「IH炊飯ジャー」や、台所の多口コンロ「IHクッキングヒーター」も製品化されました。  

IH調理器の発売当初は、使える鍋の材質にも制限がありました。鉄などの磁性体(「磁石にくっつく」性質を持った物質)でできた鍋でなくては、加熱ができなかったのです。というのも、アルミや銅、ステンレスなど、一般に普及している鍋では、電気抵抗が小さすぎるため渦電流そのものが発生しにくく、熱も発生しにくかったのです。  

IH調理器では、加熱用コイルに高周波の電流を流す必要がありますが、この電流を取り出す装置を「インバーター」といいます。日本で使われている家庭用の電気の周波数は50ヘルツ(東日本)もしくは60ヘルツ(西日本)の電流ですが、IH調理器で使用しているインバーターは、この電流を数万ヘルツの電流に変換するものです。  

インバーターの原理は、いったん交流から直流に変換した電流を、高速にスイッチを操作してパルス状に送ることで高い周波数の電流を取り出すものです。磁性体の鍋しか使えなかったころのIH調理器のインバーターは、2万ヘルツの電流を取り出していましたが、アルミや銅の鍋でも加熱ができるようにするためには、6万ヘルツ程度の電流を取り出せばよいと言われていました。とはいっても、従来のやりかたそのままでは、周波数を上げることで、インバーターのスイッチそのものの発熱が大きくなりすぎるという問題がありました。  

ところが、電気抵抗が小さいアルミや銅の鍋なら、電流が流れやすいという性質を逆に利用して、スイッチ操作の速度はそのままで高い周波数の電流を取り出せることがわかったのです。この原理を利用して、さらにコイルの材質や部品を改良し、アルミや銅の鍋でも加熱できる、オールメタル対応のIHクッキングヒーターが、2004年秋に松下電器産業から発売されました。

【 関連情報リンク、ならびに情報協力 】

■ オールメタル加熱方式IH/鍋に泣いた男たち。

| 松下電器「isM」  

この製品では、鍋の材質を電気抵抗の測定によって判定し、インバーターの動作を最適に調節するなど、さまざまな工夫がされています。

さまざまな材質に対応したとはいえ、なべ底が金属でなくてはIH調理器を使うことはできません。とはいっても、やはり鍋を囲むなら土鍋がいい、という人も多いですよね。そんな人のために、IH調理器対応の土鍋が最近販売されています。  IH調理器対応の土鍋は、なべ底に金属製の「発熱体」を貼り付けています。発熱体が熱せられて鍋全体に熱が伝わり、土鍋をあたためることができるのです。土鍋そのものの温まりにくく冷めにくい性質はそのままに、IH調理器で利用することができるのです。  

この冬は、コタツの上にIH調理器と土鍋で、暖かい鍋を楽しんでみませんか。

 

【 関連情報リンク、ならびに情報協力 】

■ 東芝IH調理器【株式会社 東芝】

著者プロフィール:板垣 朝子(イタガキアサコ) 1966年大阪府出身。京都大学理学部卒業。独立系SIベンダーに6年間勤務の後、フリーランス。インターネットを中心としたIT系を専門分野として、執筆・Webプロデュース・コンサルティングなどを手がける 著書/共著書 「WindowsとMacintoshを一緒に使う本」 「HTMLレイアウトスタイル辞典」(ともに秀和システム) 「誰でも成功するインターネット導入法—今から始める企業のためのITソリューション20事例 」(リックテレコム)など

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