テクノ雑学

第8回 点が織りなす多様な色彩世界 — カラープリンタが高精細である理由 —

点が織りなす多様な色彩世界

そろそろ秋も深まってくる時期。行楽地などに出かけて、記念に写真を撮る機会も増えることでしょう。  さて、あなたは「写真」を何で撮影しますか?  よほどのマニアでない限り、現在ではデジタルカメラを使うのではないかと思います。  

デジカメは、内蔵のモニターを使って写したその場で撮影結果が確認できますから、失敗していたらソク撮り直せる利点があります。また、いちいち現像に出さなくても、手持ちのプリンタで手軽に印刷できます。このような「ライブ感」が、従来のフィルムカメラとデジカメの大きな違いであり、一般のスナップ写真用途に適している点です。  デジカメが主流になった理由のひとつとして、一般向けプリンタの印刷品位がここ数年で飛躍的に向上したこともあげられるかもしれません。現在市販されているプリンタなら、フィルムを現像所で印画紙に焼きつけたもの(銀塩写真)と、見分けがつかないほど高い品位で印刷できるはずです。  

自宅にプリンタを持っていない場合は、コンビニエンスストアなどの店頭に置かれている「デジカメプリント機」などを利用する手もあります。実はこれも、内部にはパソコン用プリンタと同等の印刷機構が組み込まれているものです。

そろそろ秋も深まってくる時期。行楽地などに出かけて、記念に写真を撮る機会も増えることでしょう。

 さて、あなたは「写真」を何で撮影しますか?  よほどのマニアでない限り、現在ではデジタルカメラを使うのではないかと思います。  

デジカメは、内蔵のモニターを使って写したその場で撮影結果が確認できますから、失敗していたらソク撮り直せる利点があります。また、いちいち現像に出さなくても、手持ちのプリンタで手軽に印刷できます。このような「ライブ感」が、従来のフィルムカメラとデジカメの大きな違いであり、一般のスナップ写真用途に適している点です。  

デジカメが主流になった理由のひとつとして、一般向けプリンタの印刷品位がここ数年で飛躍的に向上したこともあげられるかもしれません。現在市販されているプリンタなら、フィルムを現像所で印画紙に焼きつけたもの(銀塩写真)と、見分けがつかないほど高い品位で印刷できるはずです。  

自宅にプリンタを持っていない場合は、コンビニエンスストアなどの店頭に置かれている「デジカメプリント機」などを利用する手もあります。実はこれも、内部にはパソコン用プリンタと同等の印刷機構が組み込まれているものです。

さて、鉛筆で、紙に絵や文字を書いたとします。なぜ鉛筆で紙に絵や文字が書けるのかといえば、紙の表面に鉛筆の粒子が付着して定着するからです。  

鉛筆で紙に書いた線を、電子顕微鏡か何かでどんどんクロースアップしてゆき、粒子の一粒一粒が見える状態まで拡大して見られたとすると、紙の上に描かれた絵や文字を構成する「線」は、たいへん高密度な「点描」であることがわかります。  

実は印刷一般もこれと同様、どんどん拡大してゆくと「点描」になっていますし、コピー機やパソコン用プリンタも同様の原理で絵や文字を印刷しています。それぞれ、紙に「点」を固着させる仕組みや「点」の大きさなどは異なるものの、最終的に点描であることに違いはありません。  

ドットマトリクスプリンタも、「点描」によって印刷しています。先端が尖ったワイヤーによって、紙に直接インクを叩きつけるものが「インパクト式」で、いわゆるドットインパクトプリンタと呼ばれるタイプです。対してインクジェットプリンタは、その名の通りインクを噴射して印字する「ノンインパクト式」という違いがあります。  

インクジェットプリンタの構造を説明しましょう。まず、心臓部である「印字ヘッド」には、複数の細いノズルが並んでいて、それぞれのノズルはインクを貯えたカートリッジ式のタンクに接続されています。また、ノズルの背面にはインクを噴射するための機構が備わっています。現在の主流は、ピエゾ効果(絶縁性を持つ物質に電気を流すと変形し、逆に物質を曲げると電気が発生する現象)を用いて電気的に制御する方式と、ヒーターでインクを加熱し、インクが泡状に膨張する際の圧力を利用して吹き付ける方式です。

印刷用のインクは、C(シアン=青)、M(マゼンタ=赤)、Y(イエロー)、K(黒)の4色が基本になります。実はこの「C・M・Y・K」の4色の混合による色表現は、印刷で使うものとまったく同じ。それそれの色の濃度を調整することで、ほとんどの色を作り出すことができるのです。  

ただし、インクジェットプリンタの場合、各色のインクを混合してから噴射するわけではありません。CMYK各色のインクを、目的の色を構成するのに必要な濃度で重ね打ちすることで色を作り出します。最近は、CMYKの他に1〜3色の、たとえば薄いマゼンタやシアンのインクを加えて、より豊かな色を表現できる仕組みが主流になりつつあります。また、色の濃淡はインクを付着させるドットの間隔の大きさによっても表現しています。  

さて、点描で絵を描く場合、どれだけ高精細に表現できるかは、点描に用いる筆先の太さによって左右されます。当然、細い筆を使うほど高精細な表現が可能になりますよね。プリンタの場合、この精細度を「dpi(dot per inch)」という単位で表わします。300dpiなら、1インチ四方の面積を300個の点によって描画するという意味で、数値が高いほどより細密に印刷できます。  

インクジェットプリンタの場合、現行の最上級機種では横4800×縦2400dpiといった高精細な印刷が可能です。このレベルになると、銀塩写真とほぼ同等の品質で印刷できると考えていいでしょう。印刷品位を高めるには「筆」を細くする必要があるわけですが、インクジェットプリンタの場合、「筆」の太さに当たるのが、ノズルから1回あたりに噴射されるインクの量です。これが少ないほど「細い筆」による点描と同じ効果が得られますが、現行の上位機種では、なんとその量2ピコ(1兆分の2)リットルにまで微細化して噴射することができます。  

ただし、細い筆では高精細に点描できる代償として、同じ面積に描画するのに時間がかかってしまうのが難点です。そのため、インクジェットプリンタではノズルの数を増やすことで印刷速度の高速化を図っています。ノズルの数が増えれば、1回のインク噴射で塗りつぶせる面積が大きくなるわけで、現行の上位機種ではインク1色あたり512〜768本ものノズルを持つものが主流となっています。  

印刷用ヘッドは、半導体製造でつちかわれてきた「薄膜形成技術」「微細加工技術」などを駆使して作られる製品です。より微細な製品を作れるようにしながら、なおかつ(製造コストを低く押さえるため)生産歩留まり率を向上させるには、材料技術、生産技術などさまざまなノウハウが必要になります。この分野では、今も昔も日本メーカーが世界市場を大きくリードしており、今後も主軸であり続けることでしょう。  

四季で大きく移り変わってゆく風景と、高いプリンタ技術を併せ持つこの国に生まれた私たちは、こと「写真」に関してはたいへん恵まれている身の上なのかもしれません。

著者プロフィール:松田勇治(マツダユウジ) 1964年東京都出身。 青山学院大学法学部私法学科卒業。 在学中よりフリーランスライター/エディターとして活動。卒業後、雑誌編集部勤務を経て独立。現在は日経WinPC誌、日経クリック誌などに執筆。 著書/共著書/監修書 「手にとるようにWindows用語がわかる本」「手にとるようにパソコン用語がわかる本 2004年版」(かんき出版) 「PC自作の鉄則!2003」「記録型DVD完全マスター2003」「買う!録る!楽しむ!HDD&DVDレコーダー」など(いずれも日経BP社)

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