テクノ雑学

第10回 「電線」から「光線」へ? −光回線は、いまや重要な社会インフラに−

「電線」から「光線」へ?

みなさんは、インターネットへ接続するために、どんな種類の回線を使っていますか?  

昨今ではFTTH(Fiber To The Home)、いわゆる「光ファイバー回線」で接続している方も、かなり増えているのではないかと想います。  

アナログモデムでは28.8kbpsや56kbpsだった回線速度が、まずデジタル電話回線のISDNを使うことで64kbpsとなりました。次に、アナログ回線で高速通信が可能なADSLが登場、文字通り従来よりも桁違いに速い最大1.5Mbpsから順次高速化を重ね、現在では最大理論値40Mbps超に至っています。そしてFTTHではとうとう最大100Mbpsも可能となりました。それにともなって、ネット上のコンテンツの内容も大きく変わってきました。アナログモデム時代は、Webサイトを構築する上で、表示速度を速めるためデータ総量を小さくすることが重視されていましたが、一般家庭でも高速回線を利用できる環境が整った現在では、画像を多用したり、動画をストリーム配信するページも珍しいものではなくなっています。  

光ファイバーを使ったデータ通信の特徴は、なんと言ってもその高速さにあります。研究段階のものでは、なんと1Tbps(1000Gbps)以上の転送速度を実現した例も報告されていますし、理論値としては100Tbps程度まで可能だろうと言われています。  

光ファイバーでコンピュータのデータ通信を行なうには、コンピュータ内部で扱う電気信号を、レーザーダイオードなどを使った回路で光信号に変換して送受信します。おおざっぱに言うと、CD-Rや記録型DVDメディアにデータを書き込む場合と同じような信号変換を行なっていると考えればいいでしょう。  

さて、「光ファイバー」という名前自体は、ずいぶん前から広く一般に知られていたと思いますが、知名度の割には身近な存在として感じる機会が少なかったように思います。FTTHによって、やっとその恩恵を実感できるようになったと言っていいでしょう。しかし、光ファイバーによる通信網自体は20年ほど前から徐々に構築され、機能しているのです。

現在実用化されている光ファイバーによる通信は、工学博士の西澤潤一氏(現・岩手県立大学長)が1964年に考案したものを基礎としています。1980年に「収縮性光ファイバー」として実用化されたことをきっかけに、主要幹線道路や高速道路の改修工事などに合わせて回線網の構築が進められ、NTTの基幹回線網も光ファイバーに置き換えられてゆき、1985年には太平洋側の主要都市が、北海道から九州まで光ファイバーで結ばれました。  

これらの回線網を利用して一般向けに提供されたサービスは、1988年に「INSネット64」、1989年には「INSネット1500」として始まった、いわゆるISDNを使ったデジタル通信・通話サービスが最初の例になります。  

その後も各種の回線網の光ファイバー化が進められ、90年代の半ばごろまでには、社会インフラとしてはかなり広い範囲に光ファイバー網が構築されます。また、さまざまな事業者が持つ独自の回線網の光ファイバー化も進んで行きます。身近なものでは、ケーブルTVや有線放送の配信用回線がその代表でしょう。将来の多チャンネル化を見越して、ある時期から回線を光ファイバーに置き換え始めたわけです(基幹回線網自体は既設回線網をレンタルしているケースもあります)。また、ガスや電気といったインフラ系の事業者も、設備の状態監視やメンテナンス用途などを目的に独自の回線網を構築する過程で、光ファイバーを積極的に採用していきました。  

これらの事業者の回線は、その多くが契約者(各家庭)の家屋の中にまで入っています。また、常時その通信容量をフルに使っているわけではありませんし、設置する際にバックアップ用の回線を複数設けておく場合もあります。そのような回線の余裕を利用して、インターネット接続を可能にしたサービスがFTTH、というわけです。  

光ファイバー自体は、けっして複雑な構造のものではありません。純度の高いガラスやプラスチックを使った、光を通す細い繊維です。その太さは、1本あたりの太さが約125ミクロン。だいたい髪の毛と同じ太さと考えればいいでしょう。なるべく光をスムーズに通すため、材質には透明度の高い「石英ガラス」などが使われます。  

ポイントは、通信速度の高速化と信頼性確保の意味で「全反射※」現象を利用するため、部分によって光の「屈折率」を変えている点です。光は、屈折率の高い物質から屈折率の低い物質へ進入する時、その進入角度が平行に近いと境界面で反射されてしまう特性を持っています。この現象が「全反射」です。  

光ファイバーケーブルは、中心部10ミクロン程度の「コア」部分は光が通りやすく、その周囲の「クラッド」部分は光が反射しやすいような構造となっています。コア部分はクラッド部分よりも光の屈折率が高く、この特性差によってクラッド部分が「全反射」現象を起こすことにより、光はコア内をまっすぐに、つまり途中で光エネルギーが減衰しにくい状態で進んでいくのです。

※全反射 光が屈折率の高い物質から屈折率の低い物質に到達すると、角度を変える特性がある。その進入角度が平行に近くなると、光は屈曲率の低い物質には侵入できなくなり、境界面で反射される。この現象を全反射と呼ぶ。  

実際に製品化されている光ファイバーは、この繊維の1本1本をナイロンなどで被覆し、直径1mm程度の太さになっています。これは、光ファイバーが材質的に折れやすいことの対策でもあります。また、実用時にはこれらを複数本束ねたケーブルを使います。何本束ねるかは、用途と必要なデータ通信容量によって異なります。電線でも同様に複数本を束ねて使うことは多いですが、電磁波やノイズ成分が外部に漏れ出して隣りのケーブルと干渉する、といった問題が起こりがちです。その点、外部に光が漏れにくい光ファイバーなら、たくさんのケーブルを束ねても干渉の問題は起きにくいので、長距離間でも正確なデータを通信する用途に向いているのです。  

FTTHで用いられている光ファイバーは、おもに石英ガラス製の「シングルモード光ファイバー」です。これは高速転送や長距離通信に対応しますが、反面でその硬さゆえ、取り回しが難しいのが難点です。なるべく直線的に配線する必要があり、80度程度以上曲げてしまうと通信できなくなるので、なるべく緩やかな弧を描くように配線する必要があります。どうしてもキツい角度で曲げなければならない場合は、鏡を使ったジョイントなどの特殊な装置で対応します。 もうひとつ、「マルチモード光ファイバー」もあります。これはプラスチック製で、転送速度は低下しますが、扱いが簡単になっています。AV機器の「光デジタル入出力」に使われているケーブルがその代表です。また、繊維を被覆せず、むき出しにしている光ファイバーもあります。これはデータ通信用ではなく、ケーブルに加工せず、そのまま「光る繊維」として装飾用などに用いられています。  

光ファイバーを部材として使用した製品も各種登場しています。ジャイロセンサーや光電センサー、 繊維を並行に複数本並べて接着したファイバーシートなどが実用化されています。データ通信ラインを「電線」から「光線」へ置き換えるだけでなく、私たちの様々な生活シーンの中で、光ファイバーはその重要度を日々増しているのです。

著者プロフィール:松田勇治(マツダユウジ) 1964年東京都出身。青山学院大学法学部私法学科卒業。 在学中よりフリーランスライター/エディターとして活動。 卒業後、雑誌編集部勤務を経て独立。現在は日経WinPC誌、日経クリック誌などに執筆。 著書/共著書/監修書 「手にとるようにWindows用語がわかる本」「手にとるようにパソコン用語がわかる本 2004年版」(かんき出版) 「PC自作の鉄則!2005」「記録型DVD完全マスター2003」「買う!録る!楽しむ!HDD&DVDレコーダー」など(いずれも日経BP社)

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