テクの図鑑

vol.17 競合他社の追随を許さない 超低背型電源系SMDインダクタ

競合他社の追随を許さない 超低背型電源系SMDインダクタ

 

ノートパソコン、携帯電話、音楽用携帯HDDプレーヤなど、高機能化が進むモバイル機器には、多数の電圧制御回路が搭載されるようになっている。電源系SMDインダクタは電圧制御回路のキーパーツ。業界初の超薄型化とともに、バッテリセーブのための低抵抗化も実現したのがTDKのVLF3010だ。

コンデンサはダム、インダクタは水門

インダクタ(コイル)は、抵抗、コンデンサともに電子回路を構成する3大受動部品である。コンデンサは蓄電器とも呼ばれるように、電気エネルギーを蓄える性質がある。たとえていえばダムや貯水池のようなものだ。一方、インダクタは直流電流をスムーズに流すが、交流電流に対しては抵抗のように作用してブレーキをかける。これは急激な電流変化を妨げるように、コイルに逆起電力が発生するからだ(自己誘導作用)。ブレーキの強さは、交流の周波数やコイルの巻数などによって決まるので、電流値をコントロールすることも可能になる。つまり、インダクタは水門や堰のように機能する。  

電源回路などで用いられるチョークコイルは、インダクタのこの性質を利用している(チョークとは“ふさぐ・詰まらせる”という意味)。蛍光ランプに使われる安定器もチョークコイルの1種である。蛍光ランプにAC100Vを直接流すと、大電流が流れてフィラメントが焼き切れてしまう。そこで安定器によってブレーキをかけ、一定の電流値を保つようにしているのだ。また、安定器は蛍光ランプの点灯にも利用される。交流が流れてブレーキがかかった状態から、突然、電流を遮断すると、自己誘導作用により、安定器のコイルはその電流変化を妨げようとして高電圧を発生する。蛍光ランプはこの高電圧をキック電圧として放電を開始するのである。

超薄型化を可能にした新構造

回路基板にマウントされるSMDインダクタは、電源系と信号系に大別される。電源系インダクタには大電流が通過するために、直流抵抗(Rdc)をできるだけ小さくして、発熱ロスを抑える必要がある。したがって、電源系インダクタとして一部に積層チップインダクタも使われるが、大電流容量を実現するには巻線タイプが有利になる。しかし、巻線インダクタはフェライトのドラムコアに銅線を巻きつけ、シールドコアで覆うという構造のため、小型化とりわけ低背化が困難である。さらには低抵抗、大電流容量という特性も、あわせて達成しなければならない。  

TDKのVLF3010は、実装面積3.0×3.0mm、実装高さ1.0mm、業界に先駆けて新開発した超低背型の電源系SMDインダクタである。製品構造の徹底的な見直しにより、従来、ドラムコアを囲んでいた一体型のシールドコアを分割、2つのV型コアでドラムコアをはさむというユニークな新型構造を導入した(5件の特許を申請中)。また、クロスワイズという新巻線工法の採用により、至難とされた低抵抗化も同時に実現。  小型・超薄型サイズでありながら、1つ上のサイズと同じ特性をもち、他社の追随を許さない。

TDKのアドバンテージの水平展開

電源系SMDインダクタはバッテリ駆動のモバイル機器において、バッテリ電圧を昇降するために不可欠の部品である。交流はトランスによって電圧を変換できるが、バッテリから供給される電流は直流である。しかし、スイッチング素子とインダクタの自己誘導作用を利用することで、高効率の昇降圧回路やDC-DCコンバータが実現するのだ。  

ノートパソコンではCPU、HDD、液晶パネルなど、多数の回路にDC-DCコンバータが搭載されている。携帯電話でも回路駆動用ICへの電圧供給ほか、液晶パネルのバックライト用白色LEDの点灯などにDC-DCコンバータが使われている。とりわけ液晶パネルのカラー化・大型化・複数化、またカメラ機能の搭載など、高機能化が進行している最近の携帯電話には、多くの昇降圧回路が必要とされる。  

モバイル機器においてバッテリセーブは最重要課題の1つ。電圧制御なしに高機能化は実現せず、電圧制御となると高効率の電源系SMDインダクタの出番となる。すでにTDKではVLF3010、3012、4012、4014、5014の5品種の設計を完了。今後は、新構造VLF製品の水平展開として、10mm角、12mm角の大型インダクタへの製品拡大を図るとともに、高さ1mmを下回る超々低背製品の開発も進めている。

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