電気と磁気の?館

No.83 圧電材料の振動を利用したセンシング技術

船舶ナビゲーション用に発明されたハリソンのマリン・クロノメータ

カーナビゲーションシステムなどでおなじみの“ナビゲーション”とは、もともと船舶の航法を意味する言葉です。GPS衛星からの電波により、地球上のどこでも正確な位置情報が得られる現在とちがって、昔は陸地の見えない大洋を航海することは危険を伴いました。そこで、羅針盤をはじめ、さまざまな航海用具が考案されました。

 現在位置の緯度は、北極星や太陽の高度から比較的簡単に知ることができます。しかし、経度の測定は困難で、大航海時代には羅針盤で進行方向を確かめつつ、ハンドログと呼ばれる用具で船舶の速度を求めて航行距離を計算し、これを海図上に書き込みながら航海を続けました。
 
 ハンドログは大きな糸巻のような用具です。一定間隔の結び目をつけたロープが巻かれていて、ロープの先端には木片が取り付けられています。木片を海に投げ浮かべ、砂時計の砂が落ちるまでの一定時間内に、船から遠ざかる木片までの距離を、ロープの結び目を数えることで求め、速度を計算しました。船舶の速度の単位ノット(knot:毎時1海里=1,852m/時)は、ロープの結び目(knot:ノット)に由来します。

 しかし、このナビゲーションは精度が低く、大航海時代を経た18世紀においても、現在位置の把握を誤って座礁するといった海難事故が後を絶ちませんでした。そこで、イギリス議会は、最高2万ポンドの賞金をかけて、正確な経度測定法を公募しました。これに応えて製作されたのが、木工技師ハリソンのマリン・クロノメータです。

 マリン・クロノメータは経線儀とも呼ばれますが、その実態は高精度な機械時計です。誤差の少ない時計があれば、航海中の太陽の正中時(その地点の正午)と時計が示す時刻(出発地の時刻)との時差により、正確な経度がわかるのです(時差1時間で経度差15°)。ハリソンのマリン・クロノメータは、船舶の揺れや気温変化などの影響を軽減することで、年差が約30秒という驚異的な精度を達成し(1759年の4号機)、20世紀にクォーツ時計が発明されるまで、高精度な機械時計の代名詞として世界に名を馳せました。今日でも、公的機関(COSC:スイスクロノメーター検定協会)による厳しい精度検定に合格した機械時計には、クロノメーターの名が与えられています。


 


■ 圧電材料はさまざまなセンサとしても活躍

 クォーツ時計の“クォーツ”とは、シリカ(SiO2)鉱物である石英およびその透明な結晶である水晶のことです。ある種の鉱物結晶に圧力を加えると電圧が発生します。これは1880年、フランスのキュリー兄弟(兄ジャック、弟ピエール)が、電気石や水晶などにおいて発見した現象で、圧電効果(ピエゾ効果)といいます。また、こうした鉱物結晶に電圧を加えると、外形が歪むことも発見されました。

 クォーツ時計は水晶の圧電効果を利用したものです。音叉状に加工した水晶片に交流電圧を加えると、圧電効果により外形の歪みを繰り返して振動を始めます。これを水晶振動子といいます。クォーツ時計では、この水晶振動子の固有振動数が毎秒3万2,768回(215Hz)となるように加工されています。この振動による標準信号を発振回路に送り、分周回路で15回繰り返し半減することで1Hzのパルス電流をつくり、ステップモータを駆動して針を動かしたり、液晶でデジタル表示したりします。  

 20世紀半ばには、ある種のセラミックスに高電圧を加えると、圧電素子となることが発見されました。これは圧電セラミックスと呼ばれます。セラミックスは多結晶体で、それぞれの結晶粒の自発分極(+と−の電気分極)の方向はバラバラですが、高電圧を加えることで、結晶粒の自発分極の向きがそろい、電圧を取り去っても全体で分極を残すからです。これを分極処理といいます(→詳しくは、本シリーズNo.17)。

 圧電セラミックスの薄板の両面に電極を取り付け、その片面に金属板を接着させたものを圧電ユニモルフといいます。電極に交流電圧を加えると、圧電セラミックスは伸縮し、接着された金属板を振動させて音を発します。圧電ユニモルフは、身近なところでは圧電ブザーなどの発音体として多用されています。

 また、圧電セラミックスはセンサとしても活用できます。TDKの粉体レベルセンサは、圧電ユニモルフの振動で各種粉体を検知するセンサで、コピー機のトナー残量センサとしても利用されています。トナーボックスの壁面に取り付け、圧電ユニモルフにより数kHz程度の振動を加えると、トナー残量に応じて振動条件が変わることを原理としたものです。
 


■ コピー機の画質向上に貢献する表面電位センサ

 圧電材料を利用したセンサは、コピー機の画質品位の向上にも寄与しています。レーザープリンタをはじめとする静電式のコピー機は、コロナ放電で均一に帯電させた感光ドラムに、レーザー光などで露光して潜像をつくり、そこにトナー粒子を付着させて現像し、これをコピー紙に転写、定着することで実行されます。画質品位を向上させるためにはトナー量の最適化を図る必要があり、そのためには感光ドラムの帯電状態を常に最適状態に保たねばなりません。その監視の役割を担うのが表面電位センサです。

 感光ドラムにセンサを接触させると電荷がリークしてしまうため、表面電位は非接触で検出する必要があります。TDKの表面電位センサは、チョッパと呼ばれる音叉型の振動板を用いた方式。帯電した感光ドラムの電位に応じて、プローブの検知電極には電荷が誘起されます。検知電極の前に圧電素子を取り付けたチョッパが置かれています。圧電素子を振動させると音叉型のチョッパの先端が開閉し、それに応じて通過する電気力線の量は増減します。これを検知電極でとらえて交流電圧の検知信号として取り出し、電子回路で処理します。これが音叉型の振動板を用いた表面電位センサの基本原理です。

 レーザープリンタも進化が続いています。従来、カラーレーザープリンタは、1つの感光ドラムで4色(CMYK:シアン・マゼンタ・イエロー・ブラック)のトナーの数だけ、順次、中間転写体に転写してからコピー紙に定着するロータリー方式が主流でした。しかし、この方式は時間がかかりすぎるのが難点です。そこで、カラーコピーの高速化を図るため、近年は4色のトナーごとに感光ドラムを設け、4色を1度に現像するタンデム方式が採用されるようになりました。TDKの表面電位センサは、独自のフィードバック回路により、安定した検知精度とともに高速応答性を実現していることが大きな特長。カラーレーザープリンタの高画質化と高速化に大きく貢献しています。
 

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