電気と磁気の?館

No.81 エコドライブをサポートする車載用電流センサ

電流計と検流計のルーツ

電流計のことを英語でアンメーター(ammeter)といいます。これは電流の大きさを表す単位アンペア(ampere)とメーター(meter)を合成した略語。電流計と似た計器である検流計は、英語でガルバノメーター(galvanometer)といいます。これは、18世紀イタリアの解剖学者・生理学者ガルバーニの名に由来します。

1780年、ガルバーニは解剖したカエルの脚が、摩擦起電機からの放電によって痙攣(けいれん)するのに気づきました。さらに研究を進めたところ、2種の金属でカエルの脊髄と脚に触れることでも脚が痙攣することを発見しました。彼はこれを、動物電気(ガルバーニ電気)と名づけ、動物電気は脳から脊髄を通って筋肉に流れ込むと説明しました。これに疑問を抱いたのはボルタです。彼は2種の金属の接触によって電気が発生するのであって、カエルの脚はそれに反応しているにすぎないと考えました。ここから発明されたのがボルタの電堆(でんたい)やボルタの電池です。それまで電気といえばもっぱら静電気のことでしたが、ボルタの電堆(でんたい)·電池によって動電気=電流が利用できるようになり、19世紀の電磁気学が開花しました。

話をもとに戻せば、電流計は電流の大きさを測定する計器で、一方、検流計は微弱な電流を検出するための計器です。19世紀半ばに敷設された大西洋横断ケーブルの通信実験において、きわめて鋭敏な検流計が求められました。長大な海底ケーブルに流れる信号電流は減衰して、ごく微弱になってしまうからです。そこで、イギリスの物理学者ウィリアム・トムソン(ケルビン卿)が考案したのがトムソン反射検流計。小さな反射鏡をつけた磁針が、円形コイルの中央部に絹糸で吊るされた構造となっていて、コイルに微弱な電流が流れると、ミラーはわずかに回転します。ミラーには光が当てられていて、回転にともなう反射光のスポットの位置変化をスケールで読み取るしくみです。構造は簡単ながらきわめて高感度な検流計で、世界中の研究機関でも使われました。

ガルバーニの実験とボルタの電堆
トムソン反射検流計の原理

センサと信号処理回路からなるデジタル電流計

磁針ではなく、コイルの方を動かすタイプの検流計は、考案者の名をとってダルソンバル検流計と呼ばれます。これに改良を加えたのが、テスター(アナログ式)などにも使われる可動コイル型電流計です。その原理はモータと同じくフレミングの左手の法則。永久磁石の磁界の中に置かれた可動コイルに電流が流れると、電磁力が働いて可動コイルが回転し、指針が動くというしくみです。可動コイルの回転軸には、渦巻きバネがつけられていて、バネの制御トルクと可動コイルの駆動トルクが等しくなったところで指針が静止し、電流の大きさを示します。この可動コイル電流計は、ダイオードと組み合わせることで交流電流計としても利用されています。交互に向きを変える交流を、ダイオードで直流に整流して計測するしくみなので、整流型電流計と呼ばれます。

デジタル電流計の原理はアナログ電流計とは全く異なるものです。時間的に連続変化する電流をセンサで検出して、これをA/Dコンバータでアナログ量からデジタル量に変換して表示します。信号処理回路を必要とするものの、アナログ電流計のようにメカニックな機構をもたないので長寿命。コンピュータとの相性もよいので、さまざまな電子機器で利用されています。  

デジタル電流計のセンサ素子としてはホール素子などが使われます。電流が流れている板状の半導体に垂直に磁界を加えると、電流と磁界の双方に垂直な方向に起電力が発生します。これは発見者の名をとってホール効果と呼ばれます。ホール素子は磁気センサの1種ですが、導線を流れる電流は磁界を発生するので、これを検出することで電流センサとして利用することができるのです。

可動コイル型電流計の原理と構造
デルタ電流計の原理

HEV/EV/PHEVの燃費・電費の向上に貢献

現代の自動車は走るメカトロニクス機器。ホール素子やGMR素子などの 磁気素子を利用した電流センサは、自動車にも使われています。とくに、HEV(ハイブリッドカー)やEV(電気自動車)、PHEV(プラグインHEV)といったエコカーにおいては、燃費向上や航続距離の延長のために、高性能な電流センサが必要となります。

たとえばHEV/EV/PHEVでは、モータ駆動用メインバッテリの高電圧を、カーナビなどの電装システム用として、DC-DCコンバータで低電圧に変換して補機バッテリを充電します。この高電圧バッテリとDC-DCコンバータの間に搭載し、バッテリの入出力電流制御を担うのが電流センサの役割です。ただし、この電流センサには、高電圧回路と低電圧回路を絶縁する必要があり、非接触構造でなければなりません。

そこで活躍するのが、磁気素子を利用した貫通型の電流センサ。軟磁性体のトロイダル(ドーナツ状)コアにギャップを設け、そこに磁気素子を組み込んだ構造となっています。コアに測定対象の導線を貫通させると、導線に流れる電流から発生する磁束はコアに吸収され、それを磁気素子が検知し起電力が発生します。これをオペアンプで増幅して、信号処理回路へ送るというしくみです。これはオープンループ方式(磁気比例方式)と呼ばれます。

このオープンループ方式をベースとして、さらなる高精度化を図ったのが、クローズド・ループ方式(磁気平衡方式)の電流センサ。TDKでは、コストパフォーマンスにすぐれたオープン・ループ方式、高精度なクローズド・ループ方式など、各種の車載用電流センサをSAAシリーズとして提供。 HEV/EV/PHEVのバッテリの入出力電流制御、駆動モータとインバータの間の電流モニタリング用などとして、エコドライブをきめ細かくサポートしています。

磁気素子を利用した電流センサの原理
PHEVにおけるTDKの電流センサの応用

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