電気と磁気の?館

No.72 SSDのパフォーマンスはメモリコントローラIC次第

クラウドコンピューティング時代の情報ストレージシステム

理化学研究所の次世代スーパーコンピュータ“京(けい)”は、演算速度が毎秒1京(けい)回(1京=1兆の1万倍=1016)という超高速を目指して開発されたことからの愛称。おかげで、万、億、兆に続く数の単位は、“京”であることが一般にも広く知られることになりました。京の上の単位はまだまだあり、垓(がい)=1020、杼(じょ)=1024 、穣(じょう)=1028 …恒河沙(ごうがしゃ)=1052 …、不可思議(ふかしぎ)=1064 、無量大数(むりょうたいすう)=1068と続きます。

 このように中国や日本では、4ケタ(1万倍)ごとの単位が用いられてきましたが、西洋では3ケタ(1千倍)ごとが主流で、SI(国際単位系)でも、キロ(103)、メガ(106)、ギガ(109)、テラ(1012)、ペタ(1015)、エクサ(1018)、ゼタ(1021)、ヨタ(1024)といった単位の接頭語が定められています。1エクサは100京、1ゼタは10垓に相当し、これほど大きな数は、現実には無縁のように思えます。しかし、デジタル化やインターネットの普及とともに、日々生成されるデジタル情報は急激に増加し、その総量はエクサバイトからゼタバイトの領域に突入しています。また、それによって新たな問題も浮上してきました。2007年頃から、生成されるデジタル情報量は、HDD(ハードディスクドライブ)やSSD(ソリッドステートドライブ)、磁気テープ、光ディスクなどの使用可能な情報ストレージ容量を上回るようになっているからです。

 社会全体の情報ストレージの大半はHDDによって占められています。磁気ヘッドを中心とする高密度記録技術の発展により、性能、容量、経済性(ビット単価)、情報の保全性など、総合的に最もすぐれるからです。しかし、近年、クラウドコンピューティングの進展とともに、生成されるデジタル情報と、使用可能な情報ストレージの容量とのギャップはますます広がりをみせています。このギャップを埋めるには、単にストレージ容量を拡大させるだけでなく、大量のデータをできるだけ低コストかつ効率的に管理する技術が求められます。そこで、データセンターなどでは、HDDを主体としながらも、高速アクセスを特長とするSSDを積極的に導入し、各種情報ストレージを階層化することで、増大する情報量への対応を進めています。

 

 

■ フラッシュメモリの書き込み・消去・読み出しの原理

 SSDは、もともと2.5インチHDDの互換用に開発された半導体ストレージデバイスです。HDDとちがってメカニックな機構をもたないため、振動や衝撃に強く、また高速アクセス、低消費電力を特長とし、各種産業機器ほかノートPCやカーナビなどにも搭載されるようになりました。
 SSDはNAND型フラッシュメモリ、メモリコントローラICおよび周辺回路で構成されています。データを記憶するHDDのディスク(プラッタ)に相当するのが、SSDのフラッシュメモリ。データを読み書きする磁気ヘッドやそれを駆動するアクチュエータに相当するのが、メモリコントローラICです。

 フラッシュメモリは、現在のICやLSIの主流であるMOS-FET(モスフェット:金属酸化物半導体電界効果型トランジスタ)をベースとする半導体メモリです。P型およびN型の半導体領域をつくったシリコン基板に酸化膜(絶縁膜)を形成し、ソース、ドレイン、ゲートの金属電極を設けたのがMOS-FETの基本構造。ソース-ドレイン間に流れる電流は、ゲートに加える電圧によってコントロールします。つまり、電流を水流にたとえると、ゲートは文字通り水門の役割をはたします。

 フラッシュメモリは、このMOS-FETのゲートと酸化膜の間に、浮遊ゲート(フローティングゲート)を形成させた構造となっています。浮遊ゲートは酸化膜により隔てられ、通常はシリコン基板側と絶縁状態にありますが、上部の制御ゲートから電圧を加えると酸化膜を通じてトンネル電流が流れ、浮遊ゲートに電荷が蓄えられます。これがデータの書き込み動作となります。逆に、シリコン基板側に電圧を加えると、浮遊ゲートに蓄えられた電荷が放出されます。これがデータの消去動作となります。浮遊ゲートに蓄えられた電荷は電源を切ってもそのままの状態を保ち、データは消えることなく保存されます。これが“不揮発性”メモリといわれるゆえんです。

 データの読み出しは、浮遊ゲートに蓄えられている電荷量で判断されます。ソース-ドレイン間に電流を流すためには、制御ゲートの電圧にある程度の高さが必要です。これを“しきい値電圧”といいます。浮遊ゲートに電荷が蓄えられている状態とそうでない状態では、このしきい値電圧が異なります。そこで、しきい値電圧がローかハイかにより、0か1かの1ビット情報の読み出しが可能になります。

 

■ SSDの長寿命化と高信頼性を実現するTDKのメモリコントローラIC“GBDriver”

 フラッシュメモリは不揮発性メモリの主流として、携帯電話やデジタルカメラ、携帯音楽プレーヤなど、身近なデジタル機器に多用されるようになりました。しかし、フラッシュメモリにも根本的な弱点があります。情報の書き込み・消去のたびに、トンネル電流が浮遊ゲートとシリコン基板の間の酸化膜を貫通するため、酸化膜は次第に劣化して、ついには書き込み不能になってしまいます。つまり、フラッシュメモリの書き換え回数には上限があるのです。

 フラッシュメモリには、SLCとMLCの2タイプがあります。制御ゲートに加えるしきい値電圧がローかハイかによって、1ビット情報を記録するのがSLC。しきい値電圧のレベルをさらに細分して、1つのセルで複数のビット情報を記録できるようにしたのがMLCです。MLCはビット単価を低くできるのが利点ですが、書き換え回数は約2,000回にすぎません。一方、SLCの書き換え回数は約50,000回で、高速・高頻度書き換えや高信頼性が求められる産業機器などに用いられています。

 しかし、書き換え回数に制限のないHDDと比較すると、2,000回や50,000回というのはあまりに少なすぎます。そこで重要になるのがウェアレベリングという技術。各メモリブロックの書き換え回数を均等化することにより、メモリ素子の疲弊(ウェア)を平準化(レベリング)する技術です。これは、自動車のタイヤの磨耗を均一化させるため、定期的に前後左右のタイヤを位置交換するタイヤローテーションと似ています。ただし、タイヤとちがってフラッシュメモリのメモリブロック数は膨大なので、専用のアルゴリズムを搭載したメモリコントローラICが必要となります。

 メモリコントローラICは、SSDの寿命や性能などに大きく関わるSSDの頭脳であり心臓部。SSDのパフォーマンスはメモリコントローラICによって決定されるといって過言ではありません。自社開発のアルゴリズムはじめ、さまざまな先進機能により、高い評価を受けているのがTDKのメモリコントローラIC“GBDriver(ギガドライバ)”。TDKでは、GBDriverを搭載した各種産業用SSD、CF(コンパクトフラッシュ)カード、CFastドライブ(CFastは、SATAインタフェースを採用した新世代のCFカード規格)など、多彩な製品をラインアップ。FA機器、医療機器、金融端末、サーバ、カーナビなど、ますます活躍の場を広げています。

 

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