電気と磁気の?館

No.71 振動や熱ストレスにも耐えるタフなコンデンサ“メガキャップ”

2012年5月21日、日本列島の広い範囲で“金環食”

暦の毎月の1日を“ついたち”というのは、旧暦時代は新月をもって月初としたからです。つまり、新たな“月立ち(つきたち)”がなまって、“ついたち”となったのです。ついたちは、“朔”あるいは“朔日”とも表記されます。新たな月が立つとはいえ、生まれたばかりの新月はまだ見えず、数日ほどを経て、ようやく眉のように細い月が夕空に現れます。いわゆる三日月です。大昔は三日月の出現により、新たな月の始まりを確認し、2日ほど遡(さかのぼ)った日をもって、“ついたち”と定めました。遡の字から“しんにょう”をとると朔の字となります。“ついたち”という意味の“朔”は、“遡る”に由来するといわれます。
 通常は見えない新月が、日中に肉眼で観察できるときがまれにあります。月が太陽を覆い隠す日食です。とくに、皆既日食は目に見える新月・朔の瞬間であり、暦づくりにおいて重視されました。旧暦においては、日食は必ず1日(朔日)に起きるはずですが、暦の精度が狂ってくると、月末や2日に起きてしまうこともあったからです。
 2012年5月21日(旧暦では4月1日)には、日本列島の太平洋側の広い範囲で、金環食(金環日食)が観測されます。首都圏における金環食は天保10年(1839年)8月1日以来、173年ぶりとのことです。
 金環食とは、月が太陽をすっぽり隠しきれず、太陽の外周がリング状に残って見える日食です。地球のまわりを回る月の軌道は、完全な円ではなく楕円のため、地球から月までの距離は周期的に変動し、見かけの大きさ(視直径)も変化します。このため、月が地球に近いときは太陽を完全に覆う皆既日食となり、月が地球から遠いときは完全に覆いきれずに金環食となるのです。
 ちなみに、月は1年に数cmずつ地球から遠ざかっています。視直径もだんだん小さくなるので、遠い将来においては、金環食は起きても皆既日食は起こらなくなるはずです。

 

■ トランスがうなるのは、磁心の磁歪(じわい)による

 月には火山はないのに、ひんぱんに地震(正式には月震という)があることが、アポロ月面探査の際に、月面に設置された地震計によって確認されました。その主たる原因は地球や太陽の引力による潮汐力。地球では、月や太陽の引力で潮の干満が起こるように、固体である月もわずかながら変形を繰り返して、地震を起こすと説明されています。
 磁性体に外部から磁界を加えると、磁界方向に寸法が変化します。これは磁歪(じわい)と呼ばれる現象で、“ジュールの法則”で知られるフランスのジュールが、1847年にニッケル棒を用いて発見しました。交流磁界を加えると、あたかも潮汐力のように作用して、磁性体は伸縮を繰り返し、このとき音を発生することがあります。
 電柱や変電所のトランス(変圧器)が、低いうなり音を発生するのも、トランスのコア(磁心)に使われる電磁鋼の磁歪によるものです。身近には、蛍光灯でも同じようなうなり音が聞こえることもありますが、これも内蔵された安定器のコアの磁歪によるものです。
 磁性体は、磁区と呼ばれる微細な磁石領域が集まった多磁区構造となっています。通常、それぞれの磁区の磁化方向はバラバラになっていますが、外部磁界を加えると磁区は外部磁界の方向へ向きをそろえるので、全体としての外形も変化します。これが磁歪という現象です。
 磁歪による磁性体の寸法変化は、元の長さの100万分の1〜10万分の1程度にすぎませんが、通常の磁性体の1,000倍以上も寸法変化する超磁歪材料が、ある種の金属間化合物で発見されています。これをエキサイタ(振動源)として、アクリル板などを直接振動させるフラットパネルスピーカなどとしても利用されています(詳しくは、本シリーズNo.7をご覧ください)。

 

 

■ コンデンサの“鳴き”は誘電体の電歪現象

 電気と磁気は性格の違う双子の兄弟のような対称性をもっています。電気回路の起電力、電流、電気抵抗に相当するのが、磁気回路の起磁力、磁束密度、磁気抵抗といった具合です。磁性体に磁界を加えると寸法変化する磁歪に相当するのは、誘電体に電界を加えると寸法変化する電歪(でんわい)という現象です。電歪は圧力を加えると、電圧を発生する圧電効果と逆の現象であり、逆圧電効果とも呼ばれます。
 誘電体を利用した電子部品の代表はコンデンサです。コンデンサは誘電体を電極ではさんだ構造となっているため、交流電圧が加わると電歪によってわずかながら伸縮を繰り返します。この伸縮によって起きるのが、コンデンサの“鳴き”と呼ばれる現象。積層セラミックチップコンデンサは、プリント基板に外部電極端子がはんだ付けされますが、電歪によるコンデンサの伸縮はプリント基板をたわませ、あたかもフラットパネルスピーカのように作用して、ジーという音を立てることがあるのです。その対策としても使われているのが、TDKの“メガキャップ”。積層セラミックチップコンデンサの外部端子に、金属キャップを取り付けた特殊なコンデンサです。プリント基板には、金属キャップ部をはんだ接合するため、電歪によるプリント基板への振動伝播を抑制することができます。
 TDKのメガキャップは車載電子機器用としても活用されています。たとえば、車載電子機器の電源においては、放熱性を高めるためアルミニウムなどの金属基板が使われます。しかし、車載電子機器は激しい温度変化にさらされるため、金属基板の伸縮の度合が大きく、実装された積層セラミックチップコンデンサに強いストレスが加わり、はんだ接合部などにクラック(亀裂)が発生しやすくなるからです。また、温度変化に加えて走行中の振動や衝撃による基板たわみも、クラック発生の原因となります。TDKのメガキャップは熱にも振動にも強い、タフで高信頼性のコンデンサ。同じスペースで2倍の静電容量が得られる2段重ねタイプなどもラインアップしています。

 

 

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