電気と磁気の?館

No.43 チップ部品の中に形成された“らせん”と“スパイラル”

ピラミッド建造法の謎に迫る“内部らせんトンネル説”

古来、世界七不思議の1つとされてきたのがエジプトのピラミッド。なかでもクフ王のピラミッドは高さ約147m、平均2.5tの石灰岩を300万個も積み上げた世界最大の巨石建造物です。建設重機もない時代、人力だけで、どのように建造されたかについては、昔からさまざまな説が提唱されてきました。最もなじみ深いのは“直線傾斜路説”。長いスロープを築き、石材をロープで引いて運び上げたという説です。スロープはきわめて長大になるので効率的といえず、疑問視されてもいましたが、これを覆すだけの説得力ある説はなかったのです。ところが、近年、フランスの建築家が“内部らせんトンネル説”という大胆な説を打ち出して、世界から注目を集めています(2009年7月5日のNHKスペシャルでも詳しく紹介されました)。

 これは高さ3分の1程度まではスロープを用いて築き、その後はピラミッド外周の内側に、らせん状のトンネルをつくって石材の運搬路にしたという説です。内部トンネルとすることで足場は不要になり、また、らせん状にすることで運搬路の傾斜は緩やかになります。ピラミッドの稜線のところどころに、切り欠きとなった部分が残っていますが、これは石材を方向転換するための場と推定しています。もし、この説が確かならば、5000年前の古代エジプト人の知恵に驚かざるをえません。

 1980年、TDKが世界に先駆けて開発した積層チップインダクタも、このピラミッドの建造法に劣らぬ破天荒なアイデアから誕生しました。積層工法による電子部品の代表格は積層セラミックコンデンサです。これは誘電体層と電極層をサンドイッチ状に積み重ねていくので納得できますが、インダクタとなると、らせん状コイルを内部につくらねばならず、普通に考えれば積層工法は不向きです。しかし、TDKではコイル半周分の導体パターンを印刷した積層材を積み上げ、らせん階段を築く要領で内部にコイルを形成する新技術を確立。積層セラミックチップコンデンサとともに、電子機器の小型・薄型・軽量化に大きく貢献することになりました。

ピラミッドの建造法(仮説)

 

ランタンのマントル

■ 積層技術をきわめたLTCC工法で複数の受動部品をインテグレート 

 インダクタ(コイル)には直流をスムーズに流すものの、交流にはブレーキをかけて通しにくくするという性質があります。面白いことに、インダクタは高周波の電流ほど通しにくく、逆にコンデンサは高周波の電流ほど通しやすくなります。この相反する性質を利用したのが、インダクタ(L)とコンデンサ(C)を組み合わせたLCフィルタです。ある周波数以下の電流を通過させるローパスフィルタ(LPF)、ある周波数以上を通過させるハイパスフィルタ(HPF)、ある周波数帯域(バンド)だけを通過させるバンドパスフィルタ(BPF)の3タイプがあります。

 たとえば、高級オーディオ機器では、3つのスピーカに音域を分担させた3ウェイスピーカというのがありますが、ここにもLCフィルタが使われます。低音域のウーファにはローパスフィルタ、高音域のトゥイータにはハイパスフィルタ、そして中音域のスコーカにはバンドパスフィルタが挿入されています。

 携帯電話の高周波回路においても、バンドパスフィルタは主要部品の1つです。近年、複数の通信方式に対応したマルチバンド化をはじめ、ブルートゥースや無線LAN機能を搭載したパソコンやゲーム機なども普及して、バンドパスフィルタの使用量は急増。また、多機能化・高機能化にともない、バンドパスフィルタにはさらなる小型・軽量化が求められるようになりました。そこで、その解決策として採用されたのが、積層技術を発展させたLTCC工法。アルミナをベースとするガラスセラミックスをシート化し、そこにコンデンサやインダクタなどの複数の受動部品を積層する工法です。個別部品を組み合わせたLCフィルタとくらべて格段の小型化が実現しました。

LCフィルタの基本回路
LTCC工法によるバンドパスフィルタの内部構造

■ HDDヘッドの製造技術を応用展開した薄膜電子部品

 携帯電話の高周波回路の基板に搭載されるチップ部品は、イチゴの種よりも小さい0603形状(縦0.6×横0.3×高さ0.3mm)が主流になっています。極限までの省スペースが求められる基板では、搭載されるバンドパスフィルタも高さを0.3mmに抑えることが求められます。しかし、積層技術の粋を極めたLTCC工法でも、低背化には限界があります。

 そこで、TDKがさらなる小型・低背化のためのブレイクスルーとして採用したのが、HDDヘッドの製造技術を応用展開した薄膜工法。フォトリソグラフィーやめっき、蒸着法などを用いて、基板に回路素子を薄膜形成していく技術です。この工法による薄膜電子部品として、TDKがまず開発したのは薄膜コモンモードフィルタ。2つのコイルの結合を利用したノイズ対策部品で、薄膜プロセス技術により、蚊取り線香のようなスパイラル状のインダクタを基板の上に形成して製造されます。

 この薄膜コモンモードフィルタに続く薄膜電子部品として、TDKが開発にチャレンジしたのが薄膜バンドパスフィルタです。しかし、その実現にはクリアすべき技術課題がありました。バンドパスフィルタはインダクタとコンデンサを組み合わせた素子であり、コンデンサ部には誘電体の薄膜が必要になります。厚膜プロセスによる積層セラミックチップコンデンサとは異なり、薄膜コンデンサには静電耐圧や耐湿特性など、高い信頼性が求められるのです。

 TDKでは誘電体膜に安定性にすぐれたプロセス技術を取り入れ、電極の形成プロセスにも見直しを図るとともに、端子電極と内部パターンの接続方法にも改良を加えて、従来製品と同様に使用できる高信頼性の薄膜バンドパスフィルタの開発に成功しました。通信機能をもったモバイル機器のさらなる小型・薄型化・高機能化ニーズに応え、TDKでは薄膜バラン、薄膜カプラなど、薄膜高周波部品の拡充に努めています。

薄膜コイル

 

薄膜バンドパスフィルタの構造と製造法

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