電気と磁気の?館

No.26 モータと発電機の切磋琢磨

洗濯機や掃除機、冷蔵庫、エアコンといった家電機器ほか、自動車やロボットなどにモータはたくさん使われています。工業用動力としても欠かせません。モータと発電機は似たような構造の機器です。もともとモータと発電機は二人三脚のような関係で、切磋琢磨しながら発達を遂げてきたからです。

モータは左手の法則、発電機は右手の法則

プラモデルやおもちゃのミニカーなどに使われている小型モータを2つ用意して、その回転軸を連結します。片方のモータのリード線に豆電球をつないでおき、もう片方のモータに乾電池をつないで回転させると豆電球が点灯します。モータと発電機は同じしくみであることを知るための簡単な理科実験です。

ファラデーが電磁誘導現象を発見した1831年の翌年に、早くもピクシの手回し式発電機が発明されました(本シリーズ「 No.4 手回し発電機にみるハイテク今昔物語」参照)。

その後、さまざまな改良が加えられながら発電機の技術は急速に進歩しましたが、実用的なモータが発明されたのは、40年後の1870年代になってからのことです。これは不可解に思えますが、当時は蒸気機関が全盛の時代。電気から大きな機械力を得ようという発想が、そもそもなかったからです。

実用的なモータの開発の道は、ある失敗から偶然、切り開かれました。1873年のウィーン万博において、当時、最新の発電機が出品されました。そのデモンストレーションの準備をしているとき、担当技師が出力ケーブルをうっかり休止中の別の発電機に接続してしまいました。それに気づかず発電機を動かしたところ、休止中の発電機がいきなり回転を始めました。こうして発電機はモータにもなり、モータは発電機にもなることが発見されたのです。

有名な「フレミングの法則」は、モータと発電機の原理を学生に理解させるため、工学者フレミングが考案した記憶法。モータの原理が左手の法則、発電機の原理が右手の法則です。 身近な材料で簡単に手作りできる“クリップモータ”というモータがあります。なぜ、回転するかフレミングの法則で考えてみてください。

モータを発電機として駆動させる実験
フレミングの法則
グリップモータ(簡単な手作りモータ)

20世紀に復活した「交直論争」

19世紀の発電機とモータの技術史における一大エポックは、1880〜90年代における交流発電機と交流モータの開発です。これはまた広域送配電網の構築というインフラ革命と蒸気機関にかわる動力革命ももたらしました。

それまで電流というのはもっぱら直流を意味し、発電機もモータも直流に対応したものでした。エジソンが自ら発明した電球を普及させるため、エジソン電灯会社を設立し、ニューヨークで送配電を始めたのも直流でした。しかし、その間、交流に関する研究がしだいに進み、やがて巻き起こったのが、送配電に直流と交流のどちらが適しているかをめぐる有名な「交直論争」です。産業界も工学者たちも真っ二つに分かれて熾烈な論争が展開されましたが、最終的に交流方式に軍配が上がりました。電圧は発電所から遠ざかるにつれ低下しますが、交流ならばトランス(変圧器)によって簡単に電圧を上げられることと、実用的な交流発電機や交流モータが、テスラをはじめとする工学者によって考案されたことが主な理由です。

電気の図記号では、交流は「○に〜」で表されます。交流電流は一定時間ごとに交互に流れ、その波形はサイン波となるからです。テスラは二相交流発電機(位相差90°)と、その発電電流で駆動する二相交流モータを開発、ナイアガラの水力発電に採用されて、交流方式の優位を決定づけました。その後、二相方式を改良した三相方式(位相差120°)の交流技術もドブロウォルスキーによって開発され、三相交流モータは工業用動力として広く普及するようになりました。

現在の世界の送電方式も三相3線式の交流送電が主流です。しかし、エジソンがこだわった直流送電方式は、20世紀半ばになって見直されるようになり、日本でも一部の送電ルートに導入されています。長距離送電においては、電圧降下や電力損失は交流よりも直流のほうが小さいからです。ただ、発電所で発電した交流を直流に変換して送電したあと、再び交流に変換して供給するため、交流・直流変換設備などが必要となります。

テスラが考案した二相交流発電機

 誘導モータはアラゴの円板と同じ原理で回転する

現在、使用されているモータには多種多様なタイプがあります。分類の仕方もさまざまですが、流す電流によって、直流(DC)モータと交流(AC)モータに分類する方法が一般的です。

ACモータはさらに、整流子モータ、誘導(インダクション)モータ、同期モータなどに分類されます。AC整流子モータは始動トルクが大きく、すぐに高速回転するので、掃除機やドライヤ、ミキサ、電気ドリルなどに用いられています。構造はDC整流子モータとほぼ同じです。ブラシをもつので、接点火花により、テレビ画面にチラチラとした白点ノイズをつくったりします。

工業用モータほか、エアコンや冷蔵庫など、ハイパワーが必要で長時間使用される機器には、一般に誘導モータが使われます。誘導モータは回転磁界型と呼ばれるタイプです。ロータを取り巻くように複数のコイルを配置し、コイルに次々と発生する磁界(回転磁界)によってロータを回転させるしくみです。ロータは永久磁石でも電磁石でもなく、ロータに発生する渦電流を利用して回転させているところが特徴です。

誘導モータにおいては、回転磁界に対してロータの回転はスリップして遅れぎみになります。これを“すべり”といいます。すべりをなくして、回転磁界とロータの回転が同期するようにしたのが同期モータです。このほかパルス電流の数により、ロータを歯車のように回転させるステッピングモータは、高精度な位置決めが可能なため、OA機器、FA機器などで広く活用されています。

モータにも発電機にもなる一台二役の装置は、発電電動機とかダイナモータなどと呼ばれ、一部のハイブリッドカーほか、電動アシスト自転車などにも利用されています。自動車や自転車では運動エネルギーをタイヤと道路との摩擦エネルギーに変換してスピードを落とします。しかし、エネルギーが摩擦熱となって捨てられるのは“もったいない”ので、下り坂では発電機として機能させて制動し、上り坂では溜めた電気でモータを駆動してアシスト走行するというしくみです。モータと発電機の技術世界は奥深く広大。その進化は今なお続いています。

インダクションモータの原理

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