電気と磁気の?館

No.25 歯車は“からくり”の基本

メカトロニクスとはメカニクスとエレクトロニクスとの合成語。最先端のメカトロニクス機器の代表格はロボットです。エレクトリック化が進んでいる自動車も、人を乗せて走行する一種のロボット。安全・快適なドライビングのため、さまざまなセンサも搭載されています。
ロボットには何らかの動力源が必要です。自然エネルギーを利用した自動機械は昔からいろいろと考案されていました。

昔の人が知恵を絞った自動走行の“からくり”

古代ギリシアの時代に、すでに自動走行するクルマつまり自動車のようなものが発明されていました。といっても当時はエンジンもモータもありません。動力源としたのは重力です。箱車の中に重りをロープで吊るして格納し、ロープは車輪の軸に巻きつけておきます。重力によって重りが下がるにつれ、車輪が動いて走行するというしくみです。重りはいっきに落下しないように、大きな砂時計のような容器の砂の上に乗せてあるのがミソ。砂が少しずつ落ちるため、重りはゆっくりと下がり、車輪もゆっくりと回転します。落下する砂の量を増やせばスピードは増し、落下を止めれば停止します。

重力を動力とする機構は、のちに機械時計に利用されました。中世ヨーロッパの教会時計とか、櫓(やぐら)時計や柱時計などの日本の和時計は、重りが落下するときの位置エネルギーによって時計の針を動かしています。

茶運び人形(茶汲み人形)をはじめとする江戸期の“からくり人形”には、クジラのヒゲを利用したゼンマイが動力として利用されました。また、歯車をゆっくりと回転させる調速機構には、和時計の仕組みが取り入れられています。

茶運び人形のいちばんの仕掛けは、客が茶碗を持ち上げると停止し、再び茶碗を置くと旋回して戻っていくところにあります。茶運び人形はゼンマイ仕掛けの三輪車です。ゼンマイの動力は歯車から動輪に伝えられて走行し、茶碗を持ち上げるとストッパがかかって停止。茶碗を置くとストッパが解除されるとともに、歯車と連結したカムが前輪の方向転換器を押しまわして旋回するという仕組みです。

古代ギリシアの自動車
茶運び人形の旋回のからくり

電子計算機が登場するまで活躍した電磁リレー式計算機

からくり人形は江戸時代の和製ロボット。茶運び人形ほか、とんぼ返りなどの複雑な曲芸を演じるからくり人形も考案されました。
水車や風車、電気モータなど、ただ回転を繰り返すだけの装置はロボットらしくありませんが、回転運動を往復・旋回などに変える機構をもつと、とたんにロボットらしく見えてきます。おそらく、これは人の手足の動きを連想させるからでしょう。電車や自動車よりもSL(蒸気機関車)が人間味あふれるのも、動輪とロッド(連結棒)などのむきだしのメカニック機構が、人の関節や腕のように見えるからです。カッチンカッチンと時を刻む歯車仕掛けの振り子時計も、昔は親しい家族のような存在でした。

歯車を複数を組み合わせると、回転数を調節することができます。また、回転数は歯の数によってデジタルに決まります。これを利用したのが歯車式計算機。1960年代に電卓が登場するまで、大学や研究所などでは、手回し式の卓上計算機が使われていましたが、これは17世紀のパスカルやライプニッツが考案した歯車式計算機をルーツとするものです。

歯車のようなメカニック機構ではなく、スイッチを使った論理回路で計算するのが電気式の計算機。半導体素子を用いた電子計算機(コンピュータ)が登場するまで、多数の電磁リレー(継電器)を利用した電気計算機(リレー計算機)が活躍していました。電磁リレーはバネの力と電磁石の吸引力を利用して、接点をON/OFFする装置です。いろいろなタイプがありますが、下図に示すのは最も単純なヒンジ型電磁リレーです。コイルに通電すると電磁石となって接点が切り替わるので、複数の電磁リレーの組み合わせにより、論理回路(AND回路、OR回路など)をつくることも可能になるのです。

電磁リレーのしくみ
電磁リレーを用いた論理回路の例

 回転する歯車を非接触で利用するギアトゥースセンサ

自動車にも駆動系やトランスミッション、ステアリング、ワイパーなどに、さまざまな歯車が使われています。また、スピードコントロールやABSなどのシステムでは、回転数を正確に把握する必要があり、その検知に歯車と磁気をたくみに利用したギアトゥースセンサと呼ばれる回転センサも用いられています。

回転センサとしては、機械式、光学式、電磁誘導式など各種ありますが、信頼性にすぐれ、小型・軽量化にも適しているのはホール素子を利用した回転センサです。電流が流れている物質(半導体素子など)に磁界を加えると、物質に電圧が生じます。これを発見者の名をとってホール効果といいます。電圧の大きさは磁束密度にほぼ比例するので、磁気センサとして利用できます。これがホール素子です。

このホール素子と磁石を組み合わせた回転センサがギアトゥースセンサ。磁石の磁界が加えられたホール素子を回転する歯車(軟鉄などの磁性体)に近づけると、歯車の凸部と凹部が交互に通過するたび、ホール素子を貫く磁束密度が変化するので、それをパルス信号の出力として取り出します。非接触ながら歯車の歯(ギアトゥース)の凸凹をたくみに利用しているため、ギアトゥースセンサと呼ばれるわけです。電磁誘導式では磁界の変動を検知し、変動のない静磁界を検知することができません。しかし、ホール素子は静磁界も検知できるのが特長です(N・Sの磁極も識別できます)。このため超低速回転時や停止状態でも機能します。

高性能ホールICと強力な希土類磁石(RECマグネット)を用いて小型・高性能化を図るとともに、振動、ノイズ、水、油などの耐環境性を高めたのがTDKのギアトゥースセンサ。自動車のカム・クランク軸の角度センサとして、燃費向上や排出ガス抑制などに貢献しているほか、電動自転車(電動アシスト自転車)などにも利用されています。

ホール効果の原理
ギアトゥースセンサの原理

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