電気と磁気の?館

No.23 ドライ・ウェットを電気信号にする湿度センサ

空気中の湿り気の度合を検知するのが湿度計。古くからさまざまな方式のものが考案されていますが、電子回路と相性がいいのは湿度センサ。加湿器や除湿器、エアコン、冷蔵庫、コピー機など、さまざまな装置に利用されています。

湿度センサにもいろいろなタイプがあります。湿度検出の精度や応答性のみならず、電子機器に組み込むとなると小型化も要求されます。

毛髪湿度計には若い女性の金髪が最適

空気についての科学的研究が始まったのはルネサンスの頃。希代の発明家でもあったレオナルド・ダ・ヴィンチは、振り子式の風力計などとともに、天秤(てんびん)ばかり式の簡単な湿度計も考案しています。乾燥した木綿は湿気を吸って重くなることからヒントを得たもので、同じ重さの球の片方を木綿で包み、もう片方はロウを塗布して、これらを天秤の左右にぶら下げておきます。湿度が高まると木綿は重くなって天秤が傾くので、その傾き具合を目盛から読み取るというしくみです。

もっと精度の高い湿度計を考案したのは18世紀スイスの科学者ソシュールです(言語学者ソシュールはその子孫)。彼は毛髪が湿度によって伸縮することに注目、これを器械に組み込んだのが毛髪湿度計です。毛髪の片方を固定し、もう片方には重りを連結させて、毛髪がいつもピンと張った状態にしておき、毛髪の伸縮によって指針を動かすしくみです。毛髪はそのまま使うのではなく、脱脂して用いました。脱脂すると伸縮変化は数倍も高まるからです。また、いろいろと試した結果、若い女性の長い金髪が最適であることもわかりました。簡単な装置ながら、なかなか感度の高い湿度計です。

ソシュールは近代登山の創始者としても知られています。ヨーロッパアルプス最高峰のモンブラン初登頂に向けて、賞金をつけて挑戦者を募りました。ルート開拓されて1786年に初登頂が成し遂げられると、翌年、自らも登頂を果たして、山頂で水の沸点測定などの物理実験を行っています。

レオナルド・ダ・ヴィンチ 湿度計
ソシュール 毛髪湿度計

コンデンサと似た構造の静電容量型湿度センサ

小・中学校の校庭などで見かける白い百葉箱(ひゃくようそう)の中には、乾湿式と呼ばれる湿度計が置かれています。2本のアルコール温度計を並べ、片方のアルコール溜りの部分をガーゼで覆い、たえず水で湿らせておくようになっています。水が蒸発するとき、アルコール溜りから気化熱を奪って温度が下がります。空気が乾いているほど蒸発量も多くなって温度も下がるので、気温(乾球温度計による)と乾球・湿球の温度差を読み取り、表から湿度を求めるしくみです。

毛髪湿度計や乾湿計は現在も気象観測などに使われていますが、人間が目視して読み取るため自動化が困難です。そこで、湿度の自動計測に利用されるのは電気式の湿度センサです。赤外線などの電磁波を利用したものや、バイメタルに似た方式などもありますが、最も一般的なのは特殊な高分子材料を感湿素子とした湿度センサです。

この高分子感湿素子型の湿度センサにも、静電容量型と抵抗変化型の2方式があります。静電容量型湿度センサは、構造も原理もコンデンサと似たものです。コンデンサは2枚の電極板の間に誘電体(絶縁体)をはさんだ構造となっていて、コンデンサが蓄える電荷の大きさ=静電容量は、誘電体の性質によって変わります。静電容量型湿度センサは、この誘電体に高分子の感湿膜を用いたもの。湿度変化によって感湿膜の誘電率が変化すると静電容量も変わるので、それを電気信号に変えて回路に送り込みます。

感湿球式湿度計 静電容量型湿度センサの構造

抵抗変化型湿度センサと処理回路を組み合わせた小型ユニット

静電容量式の湿度センサは、出力の精度や直線性、安定性にすぐれていますが、信号処理回路が複雑になることによるコストアップや、定期的に校正が必要になるなどの難点があります。そこで、TDKで採用したのは、使い勝手にすぐれ、小型化にも有利な抵抗変化型と呼ばれる方式の湿度センサです。

基板上に金属導体のくし型電極パターンを印刷して焼成し、その上に導電性高分子の感湿膜を塗布したのが抵抗変化型湿度センサの基本構造です。くし型電極には200Hz〜10kHzほどの交流電圧が加えられます。湿度が上がって感湿膜に吸着する空気中の水分子が増えると、感湿膜の可動イオンも増えて、くし型電極間のインピーダンス(交流における電気抵抗値)が下がることを利用しています。インピーダンスは湿度上昇とともに指数関数的に変化しますが、信号処理回路により直線的な出力電圧が得られるように工夫されています。

安全・快適なエレクトロニクス・ライフの実現に、センサ技術は欠かせません。TDKでは、独自の抵抗変化型湿度センサと信号処理回路を一体化した小型湿度センサユニットを各種製品化しています。センサ素子だけをケーブルではわせて使うと、周囲からのノイズの影響を受けやすくなります。しかし、ユニット化したことにより、回路で処理された後の信号は直流として流れるのでノイズの影響はきわめて受けにくく、100m以上もケーブルを引き回すことも可能です。センサと処理回路の二人三脚で高精度な湿度検知を実現するのがTDKの湿度センサユニット。加湿器や除湿器、エアコン、冷蔵庫、コピー機など、さまざまな電子機器に搭載されて活躍しています。

TDK 小型湿度センサユニット

TDKは磁性技術で世界をリードする総合電子部品メーカーです

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