電気と磁気の?館

No.22 寒暖計、体温計からロボット部品まで、温度センサの進化と用途の広がり

服装を決めるための気温の確認、おいしい天ぷらを揚げるための油温の測定、健康状態を確認するための体温測定など、日常生活の中で温度を知りたい場面は数多くあります。目視できない温度の変化を検知するのに活躍するのが温度センサ。その仕組みは大きく進化しています。

熱で形を変えるバイメタルは温度センサの大ベテラン

「三寒四温」というお天気用語があります。冬季の気温の変化を表しており、三日ほど寒さの厳しい日があると、そのあと四日ほど寒気がゆるんだ暖かい日が続くという意味です。俳句の冬の季語にもなっていますが、昨今は地球温暖化のせいか、三寒四温にも乱れが生じているようです。

気温測定用の温度計のことを寒暖計といいます。エレキテルを製作した平賀源内はじめ、江戸時代の発明家たちは寒暖計の製作に多大な情熱を注ぎました。といっても、彼らが気象観測に関心を持っていたわけではなく、江戸時代に発達していた養蚕業で、カイコの飼育にきめ細かな温度管理が必要とされたのが一因といわれています。カイコは寒さが苦手なため、気温変化にとくに注意がはらわれたのです。

蘭学者・宇田川榕庵は鉄と真ちゅうのバイメタルを利用したユニークな寒暖計を考案しています。バイメタルとは熱膨張率(温度の上昇によって長さや体積が大きくなる割合)が異なる2種の金属板を貼り合わせたもの。熱膨張率の大きな金属のほうがより伸縮が大きいので、温度変化によって“反り”が生じます。この反りで文字盤の針を動かし温度を計測します。

これと同じ原理のバイメタル式温度計は、今も身の回りで使われています。少しレトロな感じがインテリアとして根強い人気のアナログ式サーモメーターでは、ゼンマイ状に巻いたバイメタルに取り付けた針が温度表示しています。バイメタルの伸縮はわずかですが、ゼンマイ状にすることで、コンパクトながら大きな変位で針を動かすことができるのです。料理用温度計にもバイメタル式温度計が利用されています。細長い棒状の感温部にバイメタルを格納させるために、バイメタルをらせん(へリックス)状に巻いているのがポイント。簡単ながら巧妙なアイデアです。なかには天ぷら用の揚げ箸に温度計を組み込んだものもあります。

バイメタル

電気コタツでは、バイメタルの変形を利用して、温度調節するサーモスタットが古くから利用されてきました。温度が上がるとバイメタルが反って電気接点を押し上げるので電流が流れなくなり、ヒータがオフになります。温度が下がると反りが戻るので、電気接点も戻って再び電流が流れ、ヒータがオンになります。とても単純ですが良くできた仕組みです。

電気コタツのサーモスタットの基本構造

フェライトを利用した電気炊飯器のサーモスイッチ機構

1950年代半ばに登場し、主婦層の圧倒的支持を得て台所に電化革命をもたらしたのは電気炊飯器です(電気釜とも呼ばれました)。電気炊飯器がすぐれているのは、炊きあがると自動的にスイッチが切れる機構をもつこと。鍋で炊いて自分で火加減を調整するのに比べて、焦がしたり、消し忘れによる火災の心配がありません。

電気炊飯器のサーモスイッチにはフェライトと磁石がたくみに利用されました。磁性体であるフェライトは通常は磁石に吸いつきますが、ある温度(キュリー温度)以上になると磁性体としての性質を失い、磁石に吸いつかなくなります。電気炊飯器では釜底の下にフェライトが置かれ、スイッチを入れると磁石がフェライトに吸着するようになっています。炊いている間も磁石はフェライトに吸着したままですが、炊き上がって水分が少なくなり、釜底の温度が上昇しはじめると、やがてフェライトは磁性体としての性質を失います。すると、それまで吸いついていた磁石は、バネの力で引き戻されてスイッチが切れるという仕組みです。これまたシンプルながら絶妙なアイデアです。

その後、電気炊飯器は保温機能や予約タイマー機能、マイコンによるきめ細かな熱加減制御機能などを搭載して、電子ジャー炊飯器へと進化していきましたが、その原点はフェライトと磁石を利用したサーモスイッチ機構にあったのです。

電気炊飯器のサーモスイッチのしくみ

NTCサーミスタは体温計進化の立役者

マイコン制御などに利用されるトランジスタやICなどによる電子回路となじみのよい温度センサとして、NTCサーミスタがあります。サーミスタとは“温度に敏感な抵抗体(Thermal Sensitive Resistor)”を意味する英語の略語で、温度上昇とともに抵抗値が下がる性質(負特性=NTC)をもつ半導体セラミックス材料を用いたのがNTCサーミスタです。

NTCサーミスタによって大きく進化したのが体温計です。昔の体温計は、水銀が熱で膨張することを利用していました。平たいガラス管の中に水銀だまりと接続した細いガラス管を納め、体温によって膨張した水銀が細いガラス菅に流れ込む高さを読み取って温度を測っていました。小型で正確に測れるため広く普及しましたが、正確な体温を測るためには水銀の温度が体温と同じに上がり切るまで10分程度待つ必要があり、また水銀が有害なので破損時や捨てる時に危ないといった問題がありました。

電子体温計は、先端部にとりつけたNTCサーミスタと、本体に格納した発振回路や判定回路、マイコン、液晶表示部、ボタン電池などからなる小さな電子機器です。温度によって変化するNTCサーミスタの抵抗値を周波数に変換し、基準となる周波数と比較することで温度に変換します。

電子体温計で測ると、数秒〜数十秒程度で体温が液晶表示されます。これは、測り初めの温度変化に基づき、最終的な温度が何度ぐらいになるか(平衡温)を精度高く予測するモデルが電子体温計のマイコンに搭載されており、予測結果を表示しているからです。従来の水銀温度計とくらべて計測が速く、有害な水銀を使っていないので、たとえ破損しても安全ということで、家庭用体温計の主流として定着しました。

NTCサーミスタは電子回路における温度補償(temperature compensation)用としても重要な働きをしています。トランジスタや水晶振動子などを用いた電子回路は温度変化によって動作が微妙に不安定になります。そこで、温度上昇とともに抵抗値が下がる性質をもつNTCサーミスタを回路に組み込むことで、安定した回路動作を保たせます。これを温度補償といいます(補償とは、補正とか埋め合わせという意味)。

かつてNTCサーミスタは、半導体セラミックスを電極ではさんだ単板タイプが使われていましたが、電子機器の小型・軽量化ニーズに対応して、積層チップタイプが主流となっています。サーミスタ素材は半導体セラミックスであるため、小型化と特性の両立にはきわめて高度な技術が求められます。反面、サーミスタ素材の選択や内部電極の重なり面積の設計などにより、さまざまな特性のNTCサーミスタが得られるのは積層タイプならではのメリット。スマートフォンやノートパソコンといった電子機器のみならず、自動車の電子部品やロボットのさまざまな機能を制御するための温度センサとしても活躍しています。

水銀体温計
電子体温計とNTCサーミスタ

TDKは磁性技術で世界をリードする総合電子部品メーカーです

TDKについて

PickUp Tagsよく見られているタグ

Recommendedこの記事を見た人はこちらも見ています

電気と磁気の?館

No.23 ドライ・ウェットを電気信号にする湿度センサ

電気と磁気の?館

No.24 電磁調理器にも利用される“渦(うず)電流”とは?

テクノロジーの進化:過去・現在・未来をつなぐ

AIの未来:ChatGPTはどのように世界を変えるのか?

PickUp Contents

PAGE TOP