電気と磁気の?館

No.7 超磁歪エキサイタを用いたユニークなパネルスピーカ

※本記事は、掲載時点の情報に基づくものであり、現在、本製品はTDKでは取り扱っておりません。

 今号でご紹介するのは、磁気や電気に対して顕著な外形変化を示す磁歪(じわい)材料や圧電材料。なかでも超磁歪材料は、通常の磁歪材料の1000倍以上もの寸法変化をするため、さまざまな応用が期待されています。接触させるだけで何でもスピーカにしてしまうユニークなアクティブ・アクチュエータや、厚いアクリル板を振動させる超磁歪フラットパネルスピーカも開発されました。

超磁歪振動子を用いたフラットパネルスピーカ

骨伝導(こつでんどう)方式の携帯電話用受話器というのが販売されています。聴覚障害をもつ人ばかりでなく、都会の雑踏などの騒がしい環境では、携帯電話の音声が聞きづらいことがあります。そんなとき携帯電話のイヤホン端子につなぐと、振動が頭骨から聴覚神経に直接伝わって、音声が明瞭に聞こえます。振動子として圧電セラミックス(電圧を加えると外形が変化する材料)が用いられていますが、超磁歪振動子を用いたヘッドホンというのも開発されています。

 磁界を加えると外形が変化する性質をもつ物質を磁歪(じわい)材料といいます。ジュールの法則で知られるジュールがニッケルにおいて発見(1842年)したので“ジュール効果”と呼ばれます。ニッケルばかりでなく他の多くの磁性体も磁歪効果を示しますが、その寸法変化量は1〜10ppm(100万分の1〜10万分の1)オーダー。100mの長さの棒でも、やっと0.1〜1mmほど伸縮するにすぎません。超磁歪材料はこの伸縮の度合が著しく大きな材料です。大きな磁気モーメントをもつランタノイド元素(テルビウムなど)と鉄族元素をベースとする金属間化合物で、寸法変化量は通常の磁歪材料の1000倍以上にも及びます。

 超磁歪材料の特長は高速の応答性をもち、圧電セラミック振動子よりも大きなパワーが得られること。この性質は高感度センサや振動子などとして利用できます。TDKでは超磁歪材料を用いたユニークなフラットパネルスピーカを開発しています。通常のスピーカのようにムービングコイルでコーン紙を振動させるのではなく、エキサイタと呼ばれる超磁歪材料の振動子を用いています。

 エキサイタは円柱状の超磁歪素子にコイルを巻いた構造。コイルに音声電流が流れると、超磁歪素子が伸縮し、そのパワーによって5mmほどの厚いアクリル板を振動させて音声を再生します。フラットなパネルを振動させるために、音源がどこにあるかわからないほど音像が広く、室内全体をミュージックで満たしたいというようなときには最適。新たなオーディオスタイルが生まれそうなユニークなスピーカです。スピーカキャビネットが不要、置くだけでそこがスピーカとなる超磁歪アクティブ・アクチュエータも製品化されています(音響メーカーのフォステクスカンパニー)。
 

超磁歪振動子を用いたフラットパネルスピーカ

 

超磁歪素子とジュール効果 超磁歪振動子を用いたエキサイタの構造例

 

■ ベルの発明に先立つドイツのライスの電話機

 変電所などのトランス(変圧器)がブンブンとうなりを立てるのは、コア(磁心)の鋼板が磁歪によって伸縮しているからです。この現象は古くはガルバーニ音楽とも呼ばれました。
 ガルバーニとは近代電気学の草分けとなったイタリアの解剖学者ガルバーニのことです。死んだカエルの筋肉が金属との接触で収縮することに気づいたガルバーニは、カエルの体内から電気が生まれると考え、これを動物電気と名づけました(1780年頃)。ボルタはこの説に疑問をもち、2種の金属の接触から電気が生まれると考え、有名なボルタの電堆(でんたい)を発明しましたが、このような経緯があって、当時、電池の電流はガルバーニ電気と呼ばれました。検流計をガルバノメータというのも彼の名に由来します。

 話を戻せば、ガルバーニ音楽とは、電流が奏でる音というような意味です。鉄棒にコイルを巻いて電池から電流を流すと、鉄棒は電磁石となります。こうした実験が各地で行なわれていた19世紀前半、電磁石の電流を入れたり、切ったりするとき、鉄棒がかすかな音を発することが発見され、ガルバーニ音楽と名づけられたのです(交流を流せばうなりのような連続音となるはすですが、当時はまだ交流はありませんでした)。

 このガルバーニ音楽を利用すれば、遠く離れた場所へも音声を送れるのではないかと考えた人物がいます。アメリカのベルに先立つ電話機の発明(1861年頃)で名を残すドイツのライスです。

 彼の電話機の当初モデルはいかにもドイツ的なものでした。送話器はビール樽の木材を耳のかたちに削り、豚のソーセージの薄い膜を鼓膜のように張ったもので、音声による膜の振動を電池から流れる電流の変化として受話器に伝えます。受話器は鉄棒にコイルを巻きつけたもので、電流変化によって鉄棒は磁歪効果を起こして伸縮し、かすかながらジージーという音(ガルバーニ音楽)を発するというしかけです。音はきわめて小さいので、コイルを巻いた鉄棒は当初はバイオリンの上に固定されました。バイオリンの弦の音を共鳴箱によって大きくするのと同じ発想です。しかし、ライスの電話機は音の強弱ぐらいは伝わったかもしれませんが、音声を忠実・明瞭に伝えるには無理があったようです。
 

ガルバーニ音楽(ジュール効果による発音)

 

ライスの電話機(改良モデル)


■ 磁歪振動子の超音波で金属を溶接

 携帯電話の受話器(スピーカ)や送話器(マイク)には、小型・軽量化を図るために、圧電セラミックスの振動子が用いられます。圧電体とは前述したように、圧力を加えると電圧が発生し(圧電効果)、電圧を加えると外形がひずむ(逆圧電効果)現象の総称です。

 圧電現象はフランスのピエール・キュリーと、その兄のジャック・キュリーにより電気石(トルマリン)において初めて発見されました(1880年)。ちなみに、のちにピエール・キュリーの妻となったのがマリー・キュリー(キュリー夫人)。放射能研究に生涯をささげたキュリー夫人のほうが広く世に知られていますが、夫のピエールは磁性体研究において不滅の業績を残した物理学者です。不幸にも馬車事故に遭って40代の若さで亡くなりました。

 圧電現象は水晶(クォーツ)にも見られます。クォーツ時計は水晶振動子の正確な発振周波数を利用したものです。鉱物結晶ばかりでなく、ある種のセラミックスには顕著な圧電効果があり、これを圧電セラミックスと呼んでいます。携帯電話の受話器や送話器には薄い圧電セラミックスの板に金属電極を貼りつけたものが用いられます。受話器側で音声の空気振動が圧電セラミックス板に加わると電圧が発生するので、これを増幅して音声信号として伝送します。相手の送話器の圧電セラミックス板はこの電気信号によって振動して音声を再生するというしくみです。

 圧電セラミックスに交流電圧を加えると一定周波数で振動するので圧電ブザー(電子ブザーの一種)として、電子機器のアラーム音などに多用されています。高周波の交流電圧を加えると超音波を発生するようになり、超音波洗浄器や微細な霧を発生させる超音波加湿器などにも利用されています。

 ハイパワーの超音波振動には圧電セラミックスより磁歪材料のほうが有利です。工業分野において磁歪振動子は超音波溶接機などとして使われています。これは重ねた金属板を加圧しながら、超音波振動により高速摩擦して金属を溶融させて接着させる方法。ICなどをプリント基板に接合するのにも利用されています(ワイヤボンディング、フリップチップボンディングなどと呼ばれます)。しかし、超音波溶接がはたして摩擦熱だけなのかどうかは詳しくは未解明。ありふれた摩擦という現象にも、多くの謎が潜んでいるようです。

磁歪振動子

 

超音波溶接機

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