電気と磁気の?館

No.4 手回し発電機にみるハイテク今昔物語

最新のハイテクも意外と古いルーツをもっていたりします。科学技術の歴史を振り返ることは、発見・発明の現場を追体験すること。“理科離れ”を食い止めるのにも有効です。というわけで、今号では知っているようであまり知られていない発電機を取り上げました。無からエネルギーをつくれませんが、エネルギーを変換させることはいくらでも可能。省エネ技術に役立つヒントもたくさん潜んでいます。

手回し発電方式の$100ノートパソコン

パソコンは1人1台の時代になりつつありますが、途上国の子どもたちにとってはまだまだ高嶺の花。それどころが電気を利用できない環境で暮らしている子供たちもたくさんいます。そこで手回し発電方式のノートパソコンを提供しようというプロジェクトが、マサチューセッツ工科大学(MIT)メディア・ラボが設立した非営利団体OLPCによって進められています。基本ソフト(OS)に無償のLinuxを用い、アプリケーションソフトも必要最小限にするなどの徹底的なコスト削減により、機能的には1000ドル前後のパソコンと大差ないものが、わずか100ドルで実現できるそうです。

100ドルという超低価格もさることながら、バッテリが切れそうになったら手回し発電で充電できるところが便利。アウトドア用にこんなパソコンがほしいという声も聞かれます。人力はいつでも、どこでも、だれでも利用できるエコロジカルなエネルギー源。手回し発電機は非常用の懐中電灯や携帯ラジオなどにも利用されています(手回し発電機とそのしくみについては、当ホームページ じしゃく忍法帳・第115回 「手動発電機と磁石」の巻 をご参照ください)。

手回し発電式のノートパソコン

手回し発電機にかぎらず、水力発電や火力発電、風力発電なども、運動エネルギーを電磁誘導によって電気エネルギーに変換しているところは同じです。前号でご紹介したように、ファラデーは初の電気モータである電磁回転装置を製作しましたが(1821年)、彼はまた電磁誘導の発見(1831年)にともなう実験から初の発電機も考案しています。

そのきっかけとなったのは、1824年、フランスのアラゴによって発見された「アラゴの回転」です(図A)。糸で吊るした銅の円板の下で磁石を回転させると、円板が同じ方向に回転し始めるという現象です。銅は磁石に吸い付かないのに、なぜ回転するのかは、当時、説明のつかない謎とされていました。ファラデーはこの奇妙な現象は電磁誘導によるものではないかと考え、銅の円板と磁石によるたくみな実験装置を製作(図B)。これを電流計につないで円板を手回し回転させたところ、回転にともなって持続的な電気つまり電流が発生することを確認しました。この発電機を皮切りに、ほどなくコイルと磁石(あるいは電磁石)を用いた発電機が次々と考案されていったのです。

アラゴの円板 ファラデーが考案した手回し発電機のしくみ

発電機の本格的利用は灯台照明から始まった

コイルと磁石を用いた手回し式発電機としては、フランスのピクシ(ピキシ)が発明したものが最もよく知られています(図C)。これは回転するU字型磁石の磁極と向かい合わせに、コイルを巻いた鉄心を配置したもの。電磁誘導の理科実験でおなじみのように、コイルに向かって棒磁石を出し入れすると、コイルに起電力が発生して誘導電流が流れます。このとき出し入れするスピードが速くなるほど高い起電力が得られます。そこで往復運動のかわりに磁石を回転させる方式が考案されたのです。

ピクシ発電機の特長は整流子を取り入れたところ。U字型磁石を回転させて得られる電流は交流です。当時、電気というのはボルタ電池のかわりになるものが求められていたので、交流のままでは実用に不向きでした。そこでピクシは交流を直流に変換する整流子を磁石の回転軸に設けました。
整流子は英語ではコミュテータ、切り替え器という意味です。ビクシが考案したのは、鍵型の絶縁ギャップを設けた金属リングです(図D)。磁石の回転にともなって磁極が反転すると、絶縁ギャップによって電流の向きが変わるため、交流は直流となります(ただし一定電圧ではない脈流です)。

ピクシ発電機の発明からまもなく、磁石ではなくコイルのほうを回転させる発電機も開発されました。重い磁石より軽いコイルを回転させるほうが有利だったのです。とはいえ、発電出力を上げるためには磁石を大きくしたり数を増やしたりしなければならず、実用向けの発電機は重くて大きな装置となりました。しかも、発電機を駆動するには蒸気機関が必要でした。馬車で運ぶ移動式発電機というのもあったそうです。

ところで、こうして発電した直流電力は、いったい何に使われていたのでしょうか? 19世紀前半の電力の主用途は照明でした。当時、電気照明としてはアーク灯が用いられていましたが、電池ではひんぱんに交換しなければならなかったからです。まだ電球がなかった時代から、発電機の利用はまず照明から始まったのです。

ピクシの手回し式発電機 ピクシ発電機整流子の仕組み

渦電流は身近なところでも応用されている

発電機において磁界を供給する役割をもつものを界磁といい(磁石式発電機では磁石が界磁)、誘導電流を発生させるためのコイルを巻いたものを電機子といいます。1840〜1860年代は、電機子の技術的改良による発電機の高効率化が試行錯誤的におこなわれた時代です。ひとかたまりの棒状の鉄心よりも、細い鉄線を束ねたり、薄板を重ねた鉄心のほうが高効率であることがわかったのもこのころです。これは鉄心に発生する渦(うず)電流とよばれるものが関係しています。

渦電流については高校物理レベルではあまり深く教えられませんが、とても重要な現象です。電磁誘導現象には慣性の法則と似たようなところがあり、外部からの作用には自ら反作用を起こして安定しようとします。たとえば、コイルに加えられる外部磁束が増加すると、コイルには誘導電流が流れ、外部磁束の増加を阻止するような反作用磁束をつくります(レンツの法則)。同様に金属導体に対して磁石を近づけると、外部からの磁束増加に反発して金属導体には渦状の電流が流れ、反作用磁束が生まれます。この電流のことを渦電流といいます。渦の中心に目に見えない磁石が現れると考えればわかりやすくなります(図E)。

鉄心にコイルを巻いて交流を流した場合においても、電流の向きが反転するたびに磁束変化が起きて、鉄心に渦電流が流れます。このとき渦電流と鉄の電気抵抗により電力が消費されて発熱します。これを渦電流損といい、発電機やモータ、変圧器の鉄心などでは、エネルギー効率を下げるやっかいな問題となります。渦電流損は電気抵抗が大きいほど小さくすることができます。そこで、発電機の電機子には、ひとかたまりの鉄心ではなく、細い鉄線を束ねたり、鉄の薄板を重ねた成層鉄心が用いられるようになりました(図F)。こうすることで、電気抵抗が増大して渦電流損を大幅に低減することができるからです(鉄心の損失としては、渦電流損のほかヒステリシス損というのもありますが、これはいずれご紹介いたします)。

話を戻せば、アラゴの円板や初の発電機であるファラデーの円板の回転も、実は渦電流によるものでした。導体に対して磁石を移動させると、導体には渦電流による反作用磁束が発生して回転力が生まれ、また、磁石の磁界中で回転する円板においては、円板の外周と中心との間に誘導電流が流れるのです。渦電流は観察しにくいものですが、身近な製品にも応用されています。電磁調理器やIH炊飯ジャーなどは、渦電流による発熱を積極的に利用したもの。また、渦電流の反作用磁束による制動力は鉄道用ブレーキなどにも用いられています(本シリーズ「 No.24 電磁調理器にも利用される“渦(うず)電流”とは?」参照)。

渦電流と反作用磁束
渦電流損と成層鉄心

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