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GRAIN53 電磁波を曲げるコツ

電磁波を曲げるコツ

電磁波の進行方向に磁化されたフェライト素子を電磁波が通過すると、その偏波面は進行軸を中心にして右回りに回転したが、進行方向に対し下から上へ垂直に磁化されたフェライト素子を通過した電磁波は、偏波面の水平を保ちながら、右斜め前方へ進路を曲げる。どの入口から進入しても、常に右方の出口に誘導されるので、この装置は一般にサーキュレータ(循環器)と呼ばれている。たとえば、このサーキュレータの(1)をアンテナに接続すると、受信した電波を(2)で受け、(3)に信号を送れば同じアンテナで送信もできるようになるわけだが、アンテナの切り替えを不要とするそのメリットはともかく、分度器で測ったように正確な進路変更がなぜ生じるのか。

前節で述べたことの繰り返しになるが、サーキュレータが内蔵するフェライト素子の直径を電磁波の半波長幅にきっかり合わせると、進行波とフェライト素子端面からの反射波が、素子の中心を軸とする対称パターンを描き、そこに現われる合成波は、両端を固定された弦の振動と同じ進行しない波、すなわち定在波となる。

ファラデー回転子における偏波面の回転は、進行波を2つの円偏波に分解することで説明できたが、サーキュレータ において方位転換の謎を握っているのは、じつは、この定在波なのである。しかし、"立ちどまる電磁波"といっても、ある時刻にフェライト素子に進入した電磁波が、しばしお茶なぞを楽しんでから、おもむろに腰を上げ別の出口から立ち去るとすれば、それは漫画である。もちろんある時刻に入射した電磁波は(フェライト素子に縦方向のHdcが印加されていれば)、次の瞬間には右斜め前方に駆け抜けていく。あまり適切な表現ではないが、間断なく押し寄せる進行波が、この素子の中で互いにシンメトリーに干渉しあうことで浮き出たゴーストのようなものが、つまりは定在波の正体といったらよろしいだろうか。

したがって、定在波が波打つ光景は、刻々入れ換わる進行波のある瞬間の成分の状態を反映していることになるが、ここで、ハタと気づくのが、前々節(GRAIN 51)でご覧いただいたファラデー回転子モデルである。

磁化された円柱状のフェライト素子を水平偏波が通過する光景をとらえたこのモデルにおいて、フェライト素子中程の定点を時刻t1からt6まで観察したのが以下のモデルである。

GRAIN 51で精査したとおり、電磁波の進行方向に直流磁界Hdcを印加されたフェライト素子における定点(電磁波が入射するフェライト端面からある距離のポイント)においては、偏波面はある一定の角度になり、時間とともに変わるのは、磁界の強さと向きだけである。そこで、サーキュレータに内蔵されたフェライト素子を斜め上から眺めた定在波モデルを、正負2つの円偏波成分に分解してみると、Hdc=0の場合は、正円偏波の位相の遅れ、負円偏波の位相の進みは生じないので、以下のようなモデルとなる。

このモデルと下のモデルにおいては、直流磁界Hdcがフェライト素子の底面から天面に向かって垂直にかけられているので、磁気モーメントの回転方位、すなわち正円偏波のそれは左回りに見える、念のため。

次にマグネットを装着し、磁界Hdcを印加した場合は、μが1より高くなる負円偏波は位相が進み(水色の位相角+θ)、反対にμが1より低下する正円偏波は位相が遅れることになるので(ピンク色の位相角-θ)、両者を合成した直線偏波(磁力線の粗密模様=定在波の絵柄)と以下のような対応関係が成立する。

さて、ここで、直流磁界Hdcを印加したこの定在波モデルと先ほどのファラデー回転子の定点観測モデルを見比べてみると、これはまさしくウリふたつである。つまり、このことから、サーキュレータのフェライト素子に立つ定在波は、ファラデー回転子の定点で観測された進行波と同等のふるまいを示すことがわかる。

しかし、ファラデー回転子においては、素子の長さを調節することで偏波面の回転角をいかようにも設定できるが、サーキュレータの場合は、なにしろ"立ちどまる電磁波"が相手なので、進行距離の増減による調整という手立てがそもそも成立しない。

そこで、下のグラフに示すように、サーキュレータにおける方位転換角の設定は、直流磁界Hdcの強弱に伴う正負円偏波透磁率(μ'+、μ'-)の微妙な変化をにらみながら行われることになる。

ファラデー回転機構を考察した折に詳しく述べたとおり(GRAIN 51)、正負円偏波の透磁率の差は、単位進行距離(つまり定点)における両者の回転角の差(すなわち偏波面の回転角)を示す指標であったわけだが、定点観測ファラデー回転子モデルとサーキュレータ定在波モデルの等価な様相は、その考察をそのままサーキュレータにも適用できることを示唆してくれている。つまり、直流磁界Hdcの制御により、両者のμ値の開き(回転角)を調整することで、その合成ベクトル、すなわち定在波の方位(すなわち直線偏波の進路)を、ピタリと所望の角度に合わせることができるはずである。その推論の正当性を裏付ける一例として、サーキュレータの現物をひとつご紹介しておこう。

実際のサーキュレータは電磁波が伝播する線路の違いにより、モデル図に取り上げた導波管タイプのほかにも同軸ラインタイプやマイクロストリップラインタイプなど、大小さまざまな各種の構造が開発されているが、上記の方位転換に関する原理は、いずれのタイプも同じである。ちなみに写真のマイクロストリップラインタイプは、マイクロ波集積回路基板に直接装着されるサーキュレータで、実際の大きさは、7×7mm、厚さ4.5mmと、きわめて小型であり、線路導体と接地導体のサンドイッチ構造も、プリント印刷技術により形成されている。

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