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GRAIN52 立ちどまる電磁波

立ちどまる電磁波

進行方向に磁化されたフェライト素子を通過するだけで、電磁波の偏波面は右回りにねじれてしまう。謎めいたこの現象の仕掛けは、電磁波を2つの円偏波に分解したシミュレーションで、なんとか解き明かすことができた。が、じつは、このファラデー回転のミステリーにはさらにもうひとつの扉があり、その扉を開くとそこにはまたまた磁化されたフェライトがあり、飛び交う電磁波がなんとも不可思議な挙動を示している。

その様子を覗いたのが下のモデルである。手前にある(1)の導波管から進入した電磁波(直線偏波)は、行く手に佇立するフェライトの柱を抜けるときに、なんと今度は、60°右方へ鮮やかなターンをきめ、(2)の導波管から滑り出るのである。(2)から進入すれば、(3)へ抜け、(3)から入れば(1)に抜ける。要するに、この素子の中には3本の一方通行路が仕掛けられており、ひとたび首を突っ込んだが最後、進行方向右側の出口に突き進むよりほかなく、仮に抜け出た後、反射される逆行成分が生じても、元の入口には戻れない。

モデルに示すとおり、中央のフェライト素子は上下を円板状のフェライトマグネットにはさまれている。つまり、電磁波の偏波面に対して垂直に磁化されているわけだが、マグネットにはさまれたフェライト素子を収納しただけのいかにも単純そうなこの仕掛けも、前節で見たファラデー回転子同様、通信コミュニケーションの主役である電磁波にとっては、思わず頬のこわばる厳戒取り締まり装置ということになる。

それにしても電磁波は、なぜ曲がるのか。直流磁界Hdcが電磁波の進行方向に垂直にかけられているので、導波管中を伝播する直線偏波を正負2つの円偏波成分に分解しても、円柱状のフェライトに宿るスピン磁気モーメントの回転軸(HA方位)と正負円偏波のそれは直交してしまうことになり、ファラデー回転の謎解きモデルではこの現象の仕掛けは見抜けそうにない。

そこで、順序立ててこの謎に迫るために、まずは、導波管の中を進行する高周波磁界を少しリアルにとらえてみた。周囲を囲まれた空間を伝ぱんする電磁波は、同位相で直角に交わる磁力線と電気力線の粗密波として描くことができる。

次に、この磁力線に着目し、導波管に進入した磁力線の粗密波が、この先に控えるフェライト素子を通過する際にいかなる挙動を見せるかについて考えてみたい。

下のモデルはフェライト素子中において刻々と変わる磁力線の分布状態(粗密状態)を示したものだが、まずは、マグネットを取り外した(Hdc=0)上の列のモデルにご注目いただきたい。円柱状のフェライト素子に「λ/2」と書き込んだとおり、これはフェライト素子中に波打つ定在波を表わしている。フェライト素子の直径は、入射した電磁波が半波長(λ/2)だけ進む距離にピタリと合わせてあるので、入射後、フェライト端面で反射した成分の振幅と、途切れなく入射する進行波の振幅は、フェライト素子の中心を境界として常に対称形を結ぶことになり、そこにできる合成波は、あたかもフェライトの両端面に張り渡された弦の振動のごとくその場にとどまる定在波となる。

つまり、途切れなく入射する磁力線の粗密度合いと向きの変化が、増減と反転を繰り返す単振動をフェライト素子の内部に形成するわけだが、空きびんに息を吹き込んで音を鳴らす遊びと同じで、この現象のタネと仕掛けは至ってシンプルなものである。しかし、その下の列に示すとおり、冒頭でご覧いただいた電磁波のターン現象は、このフェライト素子にマグネットをあてがった瞬間に、真横を向いていた定在波の向き(磁力線の方位)が右回りに傾き、ある角度で固定されることを示唆している(上のモデルでは30°傾いているので、電磁波はその角度で右前方に曲がることになる)。これはなぜか。次節でその謎に迫る。

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