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[第3回 素材技術を生かした電波吸収体と電波暗室] 電波エンジニアリングを支える静寂空間

宇宙の謎の解明に電波望遠鏡が大きく貢献しているように、電子機器のノイズ測定や無線機器のアンテナ評価などに、電波吸収体を用いた電波暗室が活躍している。TDKは世界中に1000基近い納入実績をもつ電波暗室のリーディングカンパニーだ。

宇宙創成の“ビッグバン”を実証したマイクロ波の観測

光学望遠鏡では可視光を放つ天体しか観測できない。しかし、1930年代に電波を放つ天体があることが、空電現象(雷放電により発生する電磁波障害など)の観測から偶然発見され、電波天文学という学問が誕生した。ただ宇宙から届く電波はごく微弱であり、大きなパラボラアンテナを用いた電波望遠鏡でようやく観測できるレベルだ。都会では通信電波などが飛び交うため、電波望遠鏡はノイズの少ない地域に建設される。日本では八ヶ岳山麓の野辺山宇宙電波観測所が有名だ。ここでは口径45mのパラボラアンテナや口径10mの6台のパラボラアンテナなどにより、宇宙からのミリ波やマイクロ波の観測が行われている。  

われわれの宇宙は“ビッグバン”と呼ばれる大爆発から誕生したといわれる。宇宙は今なお膨張を続けているため、理論上、約137億年前にはすべての物質とエネルギーは、点のような大きさに圧縮されていて、それが何らかの原因で大爆発して火の玉のように広がったと考えられる。これがビッグバン理論だ。  

仮説にすぎなかったビッグバンの証拠とされたのは、宇宙背景放射(宇宙黒体放射)というマイクロ波の存在だ。ビッグバン直後の宇宙は高温状態だったが、冷えるにつれ原子が生成して、やがてガス雲や恒星、銀河が誕生し、現在の宇宙となった。もしビッグバン理論が正しいとすると、現在の宇宙には大爆発の余熱のようなものが宇宙全体に存在するはずだ。この宇宙背景放射は、1965年に米国・ベル研究所の研究者により発見された。彼らは新型のマイクロ波受信アンテナを用いた試験を行っているうちに、宇宙のどの方向にも約3K(絶対温度)のマイクロ波のスペクトルがあり、これがビッグバンの名残であることが突き止められたのだ。その後、初期宇宙の膨張進化を説明する“インフレーション理論”も提出された。暗黒の宇宙も電波を通して観測すれば、実に豊かな表情を見せはじめる。

反射波をコントロールするさまざまな工夫

BS放送やCS放送の受信にもパラボラアンテナが使われる。パラボラとは放物線という意味だ。お碗のようなリフレクタ(反射器)が放物曲面となっているので、入射する電波はリフレクタで一点(焦点)に集中する。そこにアンテナ本体である1次放射器を置き、集めた電波を受信するしくみだ。  どの方向から光が当たっても、必ず光源に光が戻るという反射器がある。立方体の隅を切り取ったような構造のコーナーキューブという反射器で、交通事故防止用に自転車後輪や道路などに取り付けられている。シンプルながら、なかなかすぐれたアイデアだ。  

入射光がまったく反射しないと物体は黒く見える。たとえば、砂浜の砂は乾いているところは白っぽく、波打ち際の濡れたところは黒っぽい。乾いた砂が白っぽいのは、砂粒表面の凹凸で入射光の多くが反射されることによる。一方、砂が濡れて砂粒の隙間に水が侵入すると、入射光は水の屈折によって奥へ奥へと侵入する。このため反射光が少なくなり黒っぽく見える。  

縫い針を束ねて針先のほうから眺めると真っ黒に見えるのも、これと似た理由による。針先に入射した光は、テーパー状の針の側面でジグザクに反射を繰り返し、内部に侵入していくばかりなので、反射光が極端に少なくなり、黒く見えるのだ。オーディオ装置の音響測定などに使われる無響室も同じ原理によるものだ。無響室ではくさび形にしたグラスウールなどの吸音材を壁面や天井に貼り付ける。吸音材で吸収しきれなかった音は、くさび形の側面で反射を繰り返させて奥へと導き、反射音を発生させないしくみとなっている。

コンパクトに運搬できる折り畳み式電波吸収体

無響室(Anechoic Chamber)は反響(エコー=echo)のない部屋という意味だ。電子機器のノイズ測定や無線機器のアンテナ評価などに利用される電波暗室(Radio Anechoic Chamber)は、直訳すれば電波の無響室ということになる。外部環境から電波を遮断するには、金属シールドした部屋でよい。しかし、金属シールドでは室内の試験機から放射するノイズは室内で反射してしまうため、正確な測定・評価ができない。そこで、壁面と天井の5面(あるいは床面も含めた6面)に電波吸収材を設置した電波暗室が利用されるのだ。  

電波吸収材としてはグラファイト(カーボン)のオーム損失を利用したピラミッド形の発泡プラスチックが多く用いられてきた。ピラミッド形にするのは、電波の当たる面積を大きくするとともに、反射波を奥へと誘い込んで熱に変換させて吸収させる目的がある。しかし、このタイプの電波吸収体を利用すると、数10MHzほどの比較的低周波領域では、ピラミッド形の電波吸収体の高さは5mを超えるようになり、電波暗室内の測定空間は極端に狭くなってしまう。  

そこでTDKが開発したのはグラファイトとフェライトを組み合わせたユニット型複合電波吸収体だ。低周波領域の電波吸収はフェライトが担い、高周波領域の電波吸収はカーボンが担うことで、電波吸収体の高さを抑え、広い測定空間を確保することが可能になった。とはいえ電波暗室には大量の電波吸収体が使われる。運搬コストの削減を図るため、TDKではきわめてコンパクトに収納・輸送できる折り畳み式の電波吸収体も新開発した。

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