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第6回 携帯音楽プレーヤ 全ライブラリをポケットに街へ

全ライブラリをポケットに街へ

 

携帯音楽プレーヤ(フラッシュメモリ型/HDD型)

 

 LP&カセットテープ、CD&MD、PC&デジタル携帯音楽プレーヤ。ポータブルオーディオシーンの移り変わりによって、オーディオ機器もメディア収納スペースも驚くほどコンパクトに。何千曲というライブラリを残さず格納して持ち歩くことができる。

大量の音楽を格納するポータブルなジュークボックス

いつでも、どこでも、歩きながらでも、音楽を楽しめるヘッドホンステレオ“ウォークマン”が登場したのは1979年。またたくまに世界を席巻して新たな音楽文化を創造、ウォークマンは海外でも通じる一般語となった。初代ウォークマンはカセットテープを用いたアナログのプレーヤだったが、その後のデジタル技術の進歩により、携帯CDプレーヤ、携帯MDプレーヤが現れ、携帯音楽プレーヤの市場は急速に拡大した。  

2000年頃からは新たなトレンドが押し寄せた。CDやMDなどのディスクメディアにかわり、フラッシュメモリやHDDを搭載したデジタル携帯音楽プレーヤだ。音声圧縮技術(MP3など)によって、数百〜数千あるいは1万曲以上の音楽ファイルが格納できるのが大きな特長だ。また、CD等の音源をパソコンによって個人で圧縮ファイル化する以外に、インターネットの普及も追い風となり、音楽配信サービスによりブロードバンドを通じて望みの楽曲を短時間でダウンロードできるようにもなった。  

とりわけ2001年にApple社から発売された“iPod”は、そのデザインを含めたスマートさ、手持ちの全楽曲を格納できるほどの大容量さの点から、携帯音楽プレーヤの世代交代を加速した。

携帯音楽プレーヤ市場では、デジタルオーディオプレーヤ(フラッシュメモリ型/HDD型)が、すでに携帯CDプレーヤをしのぎ、さらに携帯MDプレーヤに迫りつつある。

こうした新世代の携帯音楽プレーヤは、現在、フラッシュメモリ型とHDD型とに二分化されている。小型軽量を求めるユーザーはフラッシュメモリ型を選び、大容量を求めるユーザーはHDD型を選択するということになる。  

代表的音声圧縮方式であるmp3では、元の音楽データの1/12である128kbsに圧縮しても音質は元とほとんど変わらず、4分程度の曲なら約4Mバイトになるので、たとえば1Gバイトのフラッシュメモリ型では250曲程度の格納曲数となるが、40GバイトのHDD型なら1万曲もの楽曲が格納可能となる。流行の音楽を頻繁に入れ替えたいというならフラッシュメモリ型、お気に入りの音楽コレクションをずっと拡充していきたいというのならHDD型が向いている。  

しかし最近では4Gバイトの容量を持つフラッシュメモリ型プレーヤも発売され、また同時に大容量HDDの小型化、高耐衝撃性化も進んでおり、ユーザーのニーズに対して両者の棲み分けがうまくできるかどうかが今後注目される点である。

※ ウォークマンはヘッドホンステレオ商品を表すソニー株式会社の登録商標です。

※ iPodは、米国及びその他の国々で登録されたアップルコンピューター社の商標または登録商標です。

有機ELディスプレイのアドバンテージ

HDDの小型化が進み、ディスクサイズが100円玉ほどの超小型HDDも登場した。また、TDKが開発した垂直磁気記録用PMRヘッドなどにより、記録密度も大幅に向上している。  

HDD用磁気ヘッド以外にもTDKの電子部品・デバイスが、携帯音楽プレーヤには数多く搭載されている。有機ELディスプレイもそのひとつだ。大量の音楽が小さな携帯音楽プレーヤに格納されると、聞きたい音楽をすばやく検索するヒューマンインタフェース技術とともに、表示用ディスプレイの性能が強く問われる。アウトドアで使用することも多いだけに、視認性は特に重要だ。  

有機ELディスプレイは液晶ディスプレイと異なり、バックライトを必要としない自発光型であることが特長だ。有機EL素子は積層した有機膜を電極で挟んだ構造となっていて、簡単にいえば太陽電池と逆のしくみで発光する。太陽電池は半導体に照射する太陽光を電気エネルギーに変換するが、有機EL素子は電極から流れる電流によって、発光層の有機分子を励起して光を生み出している。どの角度からも見やすく、高速応答性に優れ、液晶ディスプレイのような残像感もない。

発光層において電子とホール(正孔)が再結合するとき有機分子が励起される。励起された有機分子が元の状態に戻るときに放出されるエネルギーが、光に転換されて発光する。

またデザイン的にも、自発光の高コントラスト感を活かしたクールな見え方は、腕時計同様に身につけるものとしての価値感を高めることにもつながっており、携帯音楽プレーヤのディスプレイとしてまさにうってつけなのだ。

差別化の鍵を握る省電力技術とEMC対策

携帯音楽プレーヤは長時間連続使用することが多いだけに、バッテリセーブはきわめて重要な技術課題だ。このためHDD、ディスプレイ、IC等の個別デバイスの低消費電力化とともに、それらに電力を供給するDC-DCコンバータ回路の高効率化も重要となる。DC-DCコンバータは、コイル、コンデンサ、スイッチング素子、ダイオードなどを組み合わせ、バッテリから供給される直流電圧を昇圧したり降圧したりする回路である。コイルには一般に巻線タイプのSMDインダクタが使われる。先進の巻線工法(クロスワイズ)と独自の分割V型コアを導入、低抵抗化による省電力化とともに超薄型化を実現したのが、TDKのSMDインダクタVLFシリーズだ。また負荷側の低電力化によっては、さらに小型のチップインダクタも範疇に入ってくる。  

音楽ファイルを高速転送するUSBインタフェースには、ノイズから信号を守る、および不要なノイズを出さないためのEMC対策も求められる。TDKのコモンモードフィルタは、信号ラインに重畳するコモンモードノイズ成分を除去するだけでなく、信号波形を歪めるディファレンシャルモード成分も最小限に抑制するEMC対策部品である。また携帯音楽プレーヤは、とりわけ手に触れて操作する頻度が高い。静電気などから回路を守るために積層チップバリスタも活躍している。  

全ライブラリをポケットに入れ、街中で音楽を楽しめる携帯音楽プレーヤ。なりは小さいがその筐体の中で、TDK部品は非常に大きな役割を持っているのである。

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