なるほどノイズ(EMC)入門
【実践編⑥】4K/8K時代のテレビのノイズ問題
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2018年より日本のNHKを皮切りに、待望の4K、そして8Kスーパーハイビジョン放送が始まりました。現行の地上波デジタル放送の4倍、16倍にもなる超高精細で鮮やかな色彩を持つ映像と22.2チャンネルの立体音響を楽しめる時代が到来しました。これまでと比べて、格段に多くのデータを高速で処理している4K、8K時代のテレビのノイズ対策を探ってみました。
臨場感のある映像を求めて
臨場感のある映像を追求し、テレビの大型化は進んできました。人の視覚で最大の臨場感を感じる水平視野角110°のためには画面の高さの0.75倍の距離から視聴する必要がありますが、この時に映像の粗さを感じさせないのが7680×4320ピクセルの解像度を持つ8K映像です。さらに8Kでは、動きをよりリアルにするためにフレーム数も毎秒60フレーム、更には120フレームへと増えています。これに伴う映像の情報量は144Gbpsにもなり、現行ハイビジョンの1.24Gbpsの100倍以上にもなります。これを支えているのは映像情報量を圧縮する符号化技術や信号遅延の影響を抑え、効率よく信号線を使い、高速に信号処理をする技術です。また、ディスプレイも液晶と比較して多くの利点を持つ有機ELディスプレイの採用が広がりつつあります。液晶テレビと有機ELテレビの映像表示原理はまったく異なります。液晶ディスプレイは液晶分子を電子シャッタとして、バックライトを通したり、さえぎったりして映像を表現します。さらにカラー表示には3色のカラーフィルタを必要としますが、高精細化は比較的容易です。短所は自発光型ではないためバックライトの光源を必要とすること、視野角依存性があること、スポーツなどの高速の動きでは残像感があることなどです。
一方、電極で挟まれた有機層が発光するのが有機ELの原理。有機材料を変えることで得られる赤、緑、青の微小な点光源を並べることで大画面ディスプレイが実現できます。画素が自ら発光することから、高いコントラスト、広い視野角、速い応答が実現でき、バックライトが要らないことから薄く、軽く、曲面ディスプレイへの応用も可能です。今後もこれらの技術が進み、4K、8K時代により適したディスプレイへの進化が期待されます。
液晶テレビも有機ELテレビもディスプレイ部分を除くと回路構成はほぼ同じです。電源ブロック(AC-DCコンバータ、DC-DCコンバータなど)、チューナブロック(地上波デジタル、BS/CS110度、BS/CS110度4K、BS8K)、復調・映像信号複合ブロック、DSP(デジタル信号プロセッサ)ブロック、インタフェースブロックなどからなります。このうち画質に大きく関わってくるのはDSPブロックの映像信号プロセッサ回路です。
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テレビのノイズとデジタル回路
「デジタル放送の映像にノイズがない」とよくいわれます。確かに映像が二重に見えるゴーストや白点がちらつくスノーノイズなど、アナログ放送特有のノイズはなくなります。しかし、画面の一部にモザイクがかかるようなブロックノイズ、画面の一部が静止画になってしまうバーストノイズなど、デジタルテレビならではのノイズも存在します。また、アナログ放送なら、画質もアナログに変化するので、画面がちらついたりしても何とか見えたりします。ところが、デジタル放送では見え方に中間がないので、場合によっては、突然、まったく映像が映らない、音声が聞こえないといった現象も起こります。このため、デジタルテレビには信号や電源の品質がきわめて厳しく問われます。
デジタルテレビにおいては、すべての回路基板がノイズの発生源となります。とりわけ問題になるのは、デジタルICの高速スイッチングにともなって発生するスイッチングノイズです。デジタル信号の矩形波は、信号レベルがH(ハイ)の状態とL(ロー)の状態からなります。これはIC内のスイッチング素子のON/OFFの切り替えによって実現されますが、信号レベルがH→L、L→Hと切り替わるとき、電源からグランドに周期的に貫入電流が流れます。これがスイッチングノイズの原因となるのです。
電源ラインにおけるスイッチングノイズ対策として、最も基本的なのはコンデンサの挿入です。これは一般にパスコンと呼ばれます。直流電流を通さず、交流電流を通すというのがコンデンサの基本特性です。そこで、ICに供給される直流電流に高周波のスイッチング電流が重畳するとき、ICの電源ピンにパスコンを挿入すると、外部からの高周波ノイズの侵入を食い止める(グランドにバイパスさせる)とともに、ICが発生するスイッチングノイズの漏洩防止の役割を果たすのです。
パスコンはできるだけICの電源ピンに近づけて装着するというのがノイズ対策の鉄則となっています。パスコンと電源ピンを離すと、その間のプリントパターンが意図しないインダクタとして機能してしまい、ICが発生するスイッチングノイズを反射させてしまう場合があります。また、パスコンだけで完全に除去できない場合は、インダクタやビーズをパスコンと組み合わせます。つまり一種のLCフィルタを構成させて高周波ノイズを低減させます。
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信号がHからLに(またはLからHに)切り替わるとき、トランジスタが同時にONとなる瞬間があり、グランドに大きな貫入電流が流れる。これがスイッチングノイズの原因となる。
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場合によっては、上図破線部分にインダクタやビーズを直列挿入すると、より効果的になる(コンデンサとともにLCフィルタとして機能する。)
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パスコンはICの電源ピンにできるだけ近づけて装着する。これは高周波領域では配線パターンさえがインダクタとして機能してしまうからである。
ノイズ対策部品は選択と使い方を誤ればかえって逆効果
薄型大画面テレビの機能として迫力のある音声も重要ですが、最も重視されるのは映像品質です。とりわけデジタル化された映像信号を高速処理する映像信号プロセッサ回路においては、信号処理にともなって高調波(基本波の周波数の整数倍の成分)ノイズが発生します。デジタル信号の矩形波にノイズ成分である高調波が重畳すると、矩形波が乱れ、伝送エラーを起こしたりします。
こうした信号ラインのノイズ除去にもビーズやコンデンサが使われます。しかし、前述したように高周波領域ではコンデンサの外部端子ですらインダクタとして機能します。この問題を解消するのが、信号電流が流れる電極をグランド電極で囲んだ構造の3端子コンデンサです。通常の2端子コンデンサとくらべて、大幅な低ESL(等価直列インダクタンス)化とともに、高周波ノイズの低減効果を発揮します。
信号周波数とノイズ周波数が接近している場合には、3端子コンデンサよりも急峻な減衰特性をもつ3端子フィルタが使われます。これは高周波領域で高インピーダンスとなってノイズを阻止するインダクタと、低インピーダンスとなってノイズをグランドに逃がすコンデンサを組み合わせたLCフィルタです。インダクタやコンデンサを単体で用いるよりも大きな減衰効果が得られるように設計され、さまざまな特性のものが豊富にラインナップされています。内部回路の違いによりL型、T型、π型などがあり、素子数により2次、3次、5次などのタイプがあります。
一般的に、チップビーズ、3端子コンデンサ、3端子フィルタの順に、すぐれたノイズ除去効果が得られますが、この順に内部構造が複雑になるために、部品価格も高くなる傾向にあります。また、薄型大画面テレビにかぎらず、デジタル回路を内蔵する電子機器のEMC対策には、ノイズの発生状況に応じた適切なノイズ対策部品の選択が求められます。減衰特性にすぐれる3端子フィルタといえど、インピーダンスが不整合になると、リンギングやオーバーシュート、アンダーシュートなどを起こしてデジタル波形を乱したりするので、オシロスコープやスペクトル・アナライザなどで解析しながら、慎重にノイズ対策を進める必要があります。
病気の症状は人によって異なるように、ノイズは機器ごとに違います。ノイズ対策部品は選択と使い方を誤れば副作用によりかえって症状を悪化させるのは薬とも似ています。必要最小限の適切な部品により、コストパフォーマンスにすぐれたノイズ対策をサポートするのが、TDKのトータルEMCソリューションです。
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3端子コンデンサや3端子フィルタはより高周波領域のノイズ対策に有利。とりわけ3端子フィルタは急峻な減衰特性をもつため、信号周波数とノイズ周波数が接近しているときに使うと効果的。
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コストパフォーマンスの高いノイズ対策には、各種部品の適切な選択と使い方が重要。
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低周波領域ではインダクタとして機能してノイズを抑止する。高周波領域では抵抗として機能し、ノイズを吸収する。
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高周波になるほど低インピーダンスとなるので、高周波ノイズをグランドに逃がす。パスコンとしてICの電源ピンなどに装着される。
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信号電流の流れる電極をグランド電極で囲み、低ESL(等価直列インダクタンス)化を図ったコンデンサ。2端子コンデンサより、高周波領域でのノイズ除去特性にすぐれる。
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急峻な減衰特性を特徴とするLCフィルタ。単体のインダクタ、コンデンサの組み合わせよりも大きな減衰が得られる。L型、T型、π型など、各種タイプがあり、ノイズ状況に合わせて選択する。
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信号品質を守りながらコモンモードノイズだけを除去するのがコモンモードフィルタ。薄型大画面テレビはHDMI端子が標準搭載されている。HDMIはハイビジョンのような大容量映像信号と音声信号を非圧縮のまま1本のケーブルで高速伝送するデジタルインタフェース。TDKのHDMI用コモンモードフィルタは、デジタル時代の快適テレビライフをサポートする先進のノイズ対策部品。
TDKは磁性技術で世界をリードする
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