なるほどノイズ(EMC)入門

【部品編⑤】信号とノイズを選り分けるコモンモードフィルタの離れ技

伝導ノイズの伝わり方(モード)には、ディファレンシャルモードとコモンモードの2タイプがあります。ディファレンシャルモードとして伝わる信号電流は通過させ、コモンモードのノイズ電流だけを選択的に除去するのがコモンモードフィルタの役割。USBやIEEE1394、HDMI、DisplayPortなどの高速デジタルインタフェースなどで大活躍しているノイズ対策部品です。

デジタル機器やインターフェースケーブルなどは放射ノイズの発生源。電子機器内部で発生する放射ノイズは、無対策のままでは コモンモードの伝導ノイズに変身して、離れた機器まで悪影響を及ぼしたりします。

伝導ノイズのタイプをまず見極めるのがポイント

身の回りの電子機器は多かれ少なかれ放射ノイズの発生源となっています。それは簡単な方法で確認できます。たとえばポータブルラジオを稼動中のパソコンやテレビなどに近づけると、ガリガリ、ピーといった受信障害が起きます。バッテリ駆動のデジタルカメラでさえ、放射ノイズの発生源となっていることもわかります。 ノイズにはこうした放射ノイズのほかに、電源ラインや信号ラインを通じて伝わる伝導ノイズがあります。しかし、伝導ノイズはケーブルなどをアンテナとして放射ノイズになったり、逆に放射ノイズが伝導ノイズになったりします。このようにノイズは変幻自在、神出鬼没の振る舞いをするため、電子機器は自らがノイズの発生源とならないようにするとともに、外来ノイズによって誤動作などを起こさないようなイミュニティ(耐性)対策が必要です。これがEMCの基本的な考え方です。
伝導ノイズはコンデンサによってグランドに“バイパス”したり、抵抗やフェライトコア、チップビーズなどで“吸収”して熱として逃がしたりするのが一般的です。伝導ノイズ対策として、もうひとつの重要な手法があります。それはインダクタ(コイル)の性質を利用して、ノイズ電流を“反射”させて阻止するという手法です。インダクタは直流電流をスムーズに流しますが、交流電流に対してはインピーダンス(交流における抵抗)が高くなって流れにくくするからです。しかし、伝導ノイズの伝わり方(モード)には、ディファレンシャルモードとコモンモードの2タイプがあり、その違いに応じたノイズ対策が求められます。ノイズのタイプを見極めないと、ノイズ対策部品を回路に追加したのに、かえってノイズが増えたという事態も招きかねません。

信号源から信号ラインを通って電子回路に至り、SG(シグナル・グランド)パターンを通って電源側に戻る。往路と帰路の電流の向きが逆になるので、ディファレンシャルモードのという。ほとんどの信号電流はディファレンシャルモードで流れる。

信号ラインとSG(シグナル・グランド)を同じ向きに流れる。コモンモードノイズは、近接する信号ラインとの浮遊容量や磁気結合などを通じて侵入する。

ますます重要になるコモンモードノイズ対策

ディファレンシャルモードとは、信号ラインを往路、シグナルグランド(SG)を帰路とする伝導モードです。電子回路に存在する信号電流は、ほとんどこのディファレンシャルモードで流れます。
一方、コモンモードとは、往路、帰路に対して、同方向に流れる伝導モードです。コモンモードノイズは、配線系のインピーダンスのアンバランスなどによって生じ、高周波になるほど顕著となります。また、コモンモードノイズは床や地面などを伝わり、大きなループを描いて戻ってくるので、遠く離れた電子機器にもさまざまなノイズ障害を起こします。そこで、デジタル機器ではディファレンシャルモードのノイズ対策はもちろん、それ以上にコモンモードのノイズ対策が重視されるようになりました。

コモンモードフィルタに要求される特性:信号電流(ディファレンシャルモード)を通過させ、コモンモードノイズだけを除去する。USBやIEEE1394などの差動伝送信号において、信号波形に悪影響を与えないこと。

たとえばUSBやIEEE1394、HDMI、DisplayPortなどの高速インタフェースのケーブルは、位相が180°異なる信号を2本の信号線(ツイストペア線)に流しています。これを差動伝送方式といい、きわめて高速のデータ通信を可能にします。差動伝送方式は放射ノイズが少なく、外部ノイズの影響を受けにくいのが特長です。しかし、現実には2本の信号線の通信特性のアンバランスなどが原因となってコモンモードのノイズ電流が発生し、ケーブルをアンテナとしてノイズを放射したりします。このため、USBやIEEE1394、HDMI、DisplayPortなどの高速インタフェースでは、チョークコイルの原理を活用したコモンモードフィルタ(CMF)が多用されるのです。

チョークコイルは、交流電流のような急激な電流変化に対しては、それを妨げるような向きに起電力(誘導電流)が発生して(自己誘導作用)、ブレーキ効果を示す。

伝導モードの違いによりノイズと信号をたくみに分離

コモンモードフィルタは、2つのチョークコイルが1つに合体したような構造となっています。チョークコイルとはコアに巻線をほどこした電子部品です。巻線に電流が流れるとコアに磁束が発生し、急激な電流変化に対しては電流を阻止するブレーキのような役割を果たします(インダクタの自己誘導作用)。もともとチョーク(choke)とは“息をふさぐ”という意味の英語。コイルは交流電流の流れをふさぐ性質があるため、チョークコイルと呼ばれるのです。

しかし、ディファレンシャルモードの信号電流も、コモンモードのノイズ電流も、高周波の交流電流です。ではなぜコモンモードフィルタは、ディファレンシャルモードの信号電流を通過させ、コモンモードのノイズ電流だけを除去することができるのでしょうか?
そのポイントとなるのはコアに巻かれた2本の導線の向きです。コモンモードフィルタは2本の導線が1つのコアに“同じ向き”に巻かれているため、面白い作用が起こるのです。
というのも、信号電流は2本の導線を往路と帰路とするディファレンシャルモードなので、コアに発生する磁束は逆向きになり、磁束は相殺されて信号電流はスムーズに流れます。一方、コモンモードノイズ電流は同方向に流れるため、コアに発生する磁束は合成されて強め合います。その結果、ブレーキ作用が強くなり、コモンモードノイズ電流は通過を阻止されてしまうのです。これがコモンモードフィルタの基本原理。小さな部品ながら効果は絶大。高速・大容量ネットワーク時代において、コモンモードフィルタはますます重要なノイズ対策部品となっています。

トロイダル(環状)コアに巻線をほどこすのは困難です。そこで、巻線の自動化とともに小型化を図るため、以下のようにフェライトのドラムコアとプレートコアを組み合わせたコモンモードフィルタが主流となっています。数mm角サイズの小さな電子部品です。

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