なるほどノイズ(EMC)入門
【基礎編③】ノイズのモードとふるまい、アースとグランドの区別が重要
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電子機器にトラブルを引き起こすノイズは、信号と同じ電気エネルギー。電気通信はこのやっかいなノイズとの格闘の歴史でした。しかし、ノイズ問題と真正面に取り組み続けた結果として、現在の情報通信技術の確立があり、さらに私たちの暮らしがここまで豊かになってきました。人が家電や車、そして医療など、より質の高いサービスと繋がっていくこれからの社会でもノイズ対策の技術が益々重要となってきます。
レーダー以前の航空機探知技術
通信に使われる電波の波長が数㎝から数㎜のマイクロ波になり、一見するとスマートフォンにはアンテナが無いように見えますが、実は用途に応じたアンテナが内蔵されています。
20世紀初頭の無線通信では、長波〜中波の電波が使われていました。また、当時は受信機の感度が低かったため、長さ数100mから1kmにも及ぶアンテナを、地上から100m以上の高さに張っていました。このような長大なアンテナは遠くからも目立ちます。戦時となれば無線通信は軍事の生命線。この為、第1次大戦中のヨーロッパでは、無線通信用アンテナが真っ先に攻撃の対象にされました。
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戦闘機のエンジンの点火プラグの放電火花からはノイズ電波が発生することから、第1次大戦中に戦闘機の接近を探知するために、ノイズ電波を周波数変換して検波するスーパーヘテロダイン方式が発明された。
20世紀の電気通信技術史に名を残すアメリカの電気工学者E・H・アームストロングは、第1次大戦中は通信部隊の将校としてヨーロッパ戦線に従軍していました。大事な通信用アンテナを守るため、彼は敵機の襲来を予知するための妙案を思いつきました。マルコーニの初期の無線通信は、放電火花が発生するノイズ電波を利用したものであることは前にもご紹介しました。飛行機エンジンの点火プラグもまた放電火花によるノイズ電波を発生します。これを受信すれば敵機の接近を知ることができると彼は考えたのです。しかし、遠方の飛行機から放射されるノイズは微弱な高周波です。そこで、彼は受信した高周波のノイズ電波を低い周波数に変換・増幅してから検波する方法を発明しました。これがのちにラジオやテレビなどにも利用されるようになったスーパーヘテロダイン方式です。
グランド間の電位差をできるだけ小さくする
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身の回りの電子機器は多かれ少なかれノイズを放射し、また外部から飛来する放射ノイズによる障害を受けています。しかし、金属ケースですっぽり電子機器を覆えば、電磁波として飛んでくる外来ノイズを防御できます。金属ケースはノイズ電波を受け入れて、内部に透過させないからです。これは「シールド」「反射」「バイパス」「吸収」というノイズ対策の4要素のうち、最もわかりやすいシールドの手法です。このとき、金属ケースを大地に接地(アース)しておくと、ノイズ電波のエネルギーは大地に吸収されてしまうのでより効果的です。電子機器のノイズ測定などに利用する電波暗室も、外来ノイズを遮断するために全体を金属でシールドして接地しています。
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しばしばアースとも呼ばれますが、電子機器の金属ケースやシャーシ、信号の帰還経路に使われる回路パターンなどへの接続は、正確にはグランドという用語を使います。また、金属ケースやシャーシなどはフレーム・グランド、回路パターンはシグナル・グランドと呼んでいます。
電子機器においてはグランドとアースを厳密に区別する必要があります。というのも、たとえグランドを接地したとしても、グランドとアースの基準電位は微妙に異なり、ノイズの原因となるからです。これはフレーム・グランドとアナログ回路、デジタル回路、パワー回路が接続されるシグナル・グランドの間でも起こるので、基準点を設ける等でできるだけグランド間の電位差を小さくする工夫が重要になります。
回路パターンがノイズ放射のアンテナとなる場合もある
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「グランドは適切な個所に、可能なかぎり太く・短くして設ける」。これが回路パターニングの第1のポイントです。シグナル・グランドをシャーシなどのフレーム・グランドと接続するのも、グランドの面積をより広くとるためです。しかし、ネジなどで接続されている場合、ネジが緩んだりすると、そこから放射ノイズが発生するので注意が必要です。ギザギザのついた菊座金やスプリング座金が使われるのも、より良好な接触状態を保つための工夫です。また、回路パターニングにあたっては、「信号パターンと帰還経路であるシグナル・グランドのパターンが大きなループを描かないようにする」ということもポイントとなります。このループがアンテナとなって、高レベルの放射ノイズが発生したりするからです。電子機器のプリント基板の多くは、裏面や内層をシグナル・グランドとし、表面に信号パターンを設けた構造となっています。シグナル・グランドを流れる帰還電流は、最も抵抗が低くなるような最短距離をとります。このため、信号パターンの真下を流れることになり、結果として放射ノイズの発生源となるアンテナループを小さくすることができるのです。
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