じしゃく忍法帳

第69回「リレー(継電・遮断器)と磁石」の巻

電磁リレーはリモコンスイッチ

電信を実用化させた強力な電磁石の発明

 鉄道も電気通信もなかった昔、緊急連絡の手段として考案されたのが「駅」という 制度。幹線道路に設けられた駅ごとに、使者が馬を乗り継いで、重大事件を知らせた り、機密文書を送ったりするシステムです。駅とはそのための馬を常備しておく公的 な施設。駅という字が「馬へん」なのはその名残です。日本では大化2年(646年) 、唐の制度を取り入れて設けられた「駅馬・伝馬」が駅制の始まり。約30里(現在の 約16km)ごとに駅が置かれ、九州と畿内とを5日ほどで結んだといわれます。

 ところで、忍者と馬とでは、どちらが速く走るでしょうか? もちろん、いかに足 の速い忍者といえど、短・中距離走では馬にかなうはずはありません。しかし、数10 km以上の長距離走となると、馬はバテて走れなくなります。駅ごとに馬を乗り継いだ のはこのためです。忍者ならずとも、人と馬とがマラソンレースをすると、人のほう が速いのです。ちなみに日本独特の陸上リレー競技である「駅伝」は、この駅馬・伝 馬がルーツ。英語のリレーという言葉も、長距離旅行などで馬を乗り換えるという意 味をもちます。

 情報を送り届けるには、必ず何らかの伝達手段を必要とします。遠距離通信に一大 革命をもたらしたのは、何といっても19世紀に登場した電信。1本の電線を張って置 くことで(大地がアース線となる)、遠隔地とも瞬時に通信できるようになりました。

 初期の電信機には、さまざまな方式のものがありましたが、電信の実用化と普及に 大きく貢献したのは、強力な電磁石の発明です。当初、考案された電磁気利用の電信 機は、コイルが発生する磁界によって、磁針を振れさせて文字を読み取る方式でした (ホイートストンの5針式電信機など)。しかし、強力な電磁石の応用により、電流 のON/OFFを機械的運動として伝えることができるようになりました。電磁石な くしてモールス電信もありえません。

 モールス電信の受信機は、コイルに電流が送られてくると、電磁石の鉄心が磁化さ れて、バネと結んだ可動鉄片(接極子=アーマチュア)が吸いつけられ、電流が切れ ると可動鉄片はバネで戻されるという方式。可動鉄片にペンを接続すると、ON/OFFの状態が紙に記録されます。

 情報を遠隔地に伝送するのが電信の使命ですが、これをメカニズムの面から見れば 、何らかの機械装置を磁力によって遠隔操作することを意味します。そこで、電磁石 で吸引される可動鉄片の動きを、電気接点の開閉に利用したのが電磁リレーです。
 

 

電磁リレーを用いた漏電遮断器の原理

 電磁リレーはヒンジ型とリード型に大別されます(図1)。電磁石に吸引される可 動鉄片が、支点を中心とした回転運動をするのがヒンジ型。2枚の鉄製リードがコイ ルの発生する磁界によって磁化され、互いに吸引して接点を閉じるのがリード型です。

 電磁リレーは漏電を自動的に感知してブレーカを作動させる漏電遮断器にも使われ ます。

 電流が流れる電線の周囲には磁界が生じます(エルステッドが発見した電流の磁気 作用)。家庭用電源の2本の電線を、強磁性体の輪の中に貫通させておくと、発生す る磁界は磁性体内部を還流します。ただし、電灯などと結ばれて電路をつくっている 家庭用電源の2本の電線は、通常、往路・復路ともその電流の大きさは同じです。こ のため、発生する磁界の向きが逆で同じ強さとなり、磁性体の輪の中で相殺されてし まいます。

 漏電遮断器はこの現象を応用したもの。もし、電路の一部で漏電が生じると、往路 ・復路の電流の大きさが異なってきます。そこで、強磁性体の輪にコイルを巻いてお くと、還流する磁界の差によって微小な電流が発生します。この微小な電流を増幅し て、電磁リレーを作動させ、電路を断つのが漏電遮断器です。
 

図1 磁気リレーのタイプと構造

図1 電磁リレーのタイプと構造

小電流で大電流を制御 安全な遠隔スイッチ

 モールス電信機が遠隔地の受信機を磁力で動かすように、電磁リレーはいわばリモ コンスイッチとしての役割をはたします。そこで、工場のクレーン、コンベアなどの モータを間接的に始動させるスイッチとしても多用されています。というのも、大き な動作電流が流れ、特に始動時のモータには定格回転時の数倍もの大電流が流れるか らです。このため離れたところにあるモータを直接的に始動させるには、電線も太く スイッチも大型にする必要があります。その点、間接的に始動させる電磁リレーなら 、小電流ですむので安全。手元スイッチも小型のものが使えることになります。

 同様に家庭で使う電気掃除機などにも電磁リレーが使われます。電気掃除機のモー タも始動時には大電流が流れるため、これを手元スイッチで直接制御しようとすると 、蛇腹ホースの中の電線も太くなり、使い勝手が悪く、安全面でも問題が生じます。 そこで電磁リレーを利用して、小電流で間接的に電流容量の大きなリレーの接点でス イッチを入れる方式をとっているのです。図2(左)はトランス(変圧器)と電磁リレ ーとを組み合わせた回路の一例です。トランスの2次コイルには低圧の電圧が誘導さ れていて、手元スイッチを入れると短絡電流が流れます。2次コイルには鉄心が入れ られていて電磁石として作用するため、これが可動鉄片を吸い寄せて接点を閉じ、モ ータを回転させる仕組みです。
 

図2 電磁リレーの応用例

図2 電磁リレーの応用例

電磁リレーを使った初期のコンピュータ

 電話機が2つしかない場合は、電話機間を専用回線で結べば、いつでも相互に通信 が可能です。しかし、電話機が増えてくると、呼び出す人と呼び出される人とを接続 する電話交換という作業が必要になります。初期には交換手が接続作業をしていまし たが、加入者の増加とともに人手では間に合わず自動化が図られました。電子式の電 話交換機が登場するまで、電話交換機で大活躍していたのが電磁リレーです。

 ダイヤルしさえすれば全国どことでも自動通話できるようになったのは昭和40年代 。今からは信じられないような話ですが、それまでは市外通話はいちいち交換手を介 す必要があったのです。この全国自動即時通話を実現したのは、クロスバースイッチ 方式という電話交換システム(図2右)。直交させたスダレ状の細い金属棒を電磁リ レーで操作して、選ばれた金属棒がクロスして接続するとスイッチが動作するという 方式。それまでのステップ・バイ・ステップ方式(ダイヤル数字の各段ごとに電磁リ レーでスイッチ動作させていく方式)と比べて、格段の効率化が図られました。

 電磁リレーは電子計算機の前身である機械式の自動計算機の論理回路にも用いられ ました。1944年にアメリカで開発されたMARK1は、3000個の電磁リレーを用いた 世界初の機械式汎用自動計算機です。電磁リレーは信号の検出・蓄積のほか、その組 み合わせによって論理演算にも利用できるのです。このため、NC工作機械や産業用 ロボットのシーケンス制御(定められた作業を順番どおりに処理すること)にも使わ れてきました。

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