テクノ雑学
第161回 モーションキャプチャとは?動作を記録するその技術を解説
前々回、動作でゲーム機を操作するために、カメラの前で動く人の動きを立体的に捉えるのに必要な二つの技術として、「距離画像センサ」の技術と、「モーションキャプチャ」の技術があることを紹介しました。今回の「テクの雑学」では、モーションで操作するためのもう一つの技術である「モーションキャプチャ」の技術について紹介します。
人間の動きは関節の動き
人間の身体は、骨格の周囲に筋肉がついており、筋肉が伸縮することで骨と骨のつなぎめにあたる「関節」を動かして、さまざまな動作を行います。モーションキャプチャは、関節などの人体の動作の特徴となる部位の位置と動きを記録することで、人間の「動作」を記録するものです。関節などに「マーカー」と呼ぶ印を付けて、その位置と動きを3次元で測定し、データ化して記録します。
モーションキャプチャの方式
モーションキャプチャの方式には、マーカーの位置を測定する方式によって、「光学式」「機械式」「磁気式」などがあります。
a) 光学式
「マーカー」を付けたボディスーツを着用した人の動きを、カメラで撮影します。その際に、複数のカメラで撮影し、その画像のズレを元にして対象までの距離を測定する「三角測量」の原理でそれぞれのマーカーまでの距離を計算することで、位置と姿勢を記録します。
その際に重要になるのが、基準となる「位置」(キャリブレーション)を決めることです。そのため、光学式モーションキャプチャでは、あらかじめ動きを記録する範囲を正確に決める必要があります。
光学式モーションキャプチャの応用で、赤外線を発するマーカーの位置を、複数の赤外線センサで記録するものもあります。それぞれの赤外線マーカーに固有のIDを持たせることで、光学式カメラによる撮影よりも、測定の精度を高めることができます。
b) 機械式
関節などに直接、ジャイロ(角速度)センサや加速度センサなどを付けます。また、関節と関節の間をテープやシャフト(棒)などで接続する場合もあります。これらのセンサで動きを測定し、そのデータを記録します。
c) 磁気式
磁気コイルをマーカーとして関節に取り付け、磁界内で動作を行います。磁気コイルが磁界内で動くことで生じる歪みを記録することで、コイルの位置を記録します。光学式に比べて費用が安く、また死角が生じにくいという長所があります。
マーカーなしで動作を判定するには?
ところで、先月も話題にした「Kinect」の場合は、プレーヤーがマーカーなどを付けていなくても、ジェスチャーなどを判定することができます。Kinectの場合は、「マーカーレス」の「姿勢推定」という技術を利用していると考えられます。
姿勢推定とは、撮影した映像から、頭、手、腕、脚などの部位を検出し、それぞれがどのように動いているかによって、姿勢を推定する仕組みです。
言葉にすると簡単ですが、撮影した映像から「頭」「腕」「脚」などの部位を特定するのは、人間には簡単でもコンピュータにはとても難しい課題です。よくあるのは、映像に対して「ここが頭」「ここが腕」などと指定するものですが、それでは、あらかじめ指定した特定の人の動作や姿勢を記録できても、不特定多数の人の映像に対して、姿勢を推定することはできません。
最近、Wall Street Journalでは、マイクロソフトの開発者の談話として、「Kinectでは、さまざまな特徴を持つ人の映像を大量に用意して、学習させる(機械学習)方式で、どのような人の映像でも姿勢推定ができるようになった」と紹介しています。
【 参考記事 】
■Wall Street Journal "TECH EUROPE" Key Kinect Technology Devised in Cambridge Lab
機械学習によって、誰がカメラの前に立っても、「両手をあげている」「手を振っている」などといった動作が判定できるようになるので、ジェスチャーでゲームを操作できるようになります。
元々、Kinectは、モーションキャプチャとして開発されたものではありませんが、前回紹介した距離画像センサ技術と合わせることで、3次元のモーションキャプチャと同様のことができるセンサとして、使用できます。
これまでのモーションキャプチャのシステムは、カメラやセンサを設置する場所が必要で、システムとしても高価でした。しかし、Kinectの場合は、数万円で簡易なモーションキャプチャシステムが実現できる、画期的なデバイスです。すでに、個人でKinectをモーションキャプチャとして利用したCG(コンピュータグラフィックス)作品やゲームなどが発表されており、今後に注目したい技術です。
著者プロフィール:板垣朝子(イタガキアサコ)
1966年大阪府出身。京都大学理学部卒業。独立系SIベンダーに6年間勤務の後、フリーランス。インターネットを中心としたIT系を専門分野として、執筆・Webプロデュース・コンサルティングなどを手がける
著書/共著書
「WindowsとMacintoshを一緒に使う本」 「HTMLレイアウトスタイル辞典」(ともに秀和システム)
「誰でも成功するインターネット導入法—今から始める企業のためのITソリューション20事例 」(リックテレコム)など
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