テクノ雑学

第64回 待ってました! −PASMOとSuicaでらくらく通勤−

3月18日、関東圏を中心とした鉄道26事業者、バス75事業者(注:順次採用予定の事業者も含む)が、従来から採用しているSF型(Stored Fare=運賃蓄積型。あらかじめカードに運賃を貯めておき、使用のたびに精算するタイプ)磁気カード乗車券「パスネット」ならびに「バス共通カード」に加えて、非接触型ICカード乗車券「PASMO」を導入します。そして画期的なのは、従来からJR東日本が採用している「Suica」との相互乗り入れが実現する点です。

1枚のカードでJRも私鉄もバスも

これによって、関東圏のほとんどの鉄道とバスを、1枚のICカードで乗り継げることになりました。従来、たとえばJRの駅からSuicaを使って乗車し、直接乗り入れ等が行なわれている連絡駅の構内で私鉄や地下鉄に連絡乗車した場合、下車駅の改札をSuicaで通過することはできず、有人改札で現金、もしくはパスネットカードの残額で、連絡駅からの運賃を精算していました。

 また、その際に駅員さんは専用の装置を使ってSuicaに記録されている利用情報を処理し、同時に「処理連絡表」という紙を渡してくれます。この時点では、Suicaは利用不可能な状態になっていて、新たに改札へ入場できません。いったんJR駅の有人改札へ持参し、再度専用の装置で情報を処理してもらうことで、はじめて再使用が可能になります。この流れは、パスネットの場合もまったく同じでした。
 3月18日以降は、そのような手続きが不要となり、入札も出札も「タッチ・アンド・ゴー」が実現するわけです。

1枚のカードでJRも私鉄もバスも
1枚のカードでJRも私鉄もバスも
1枚のカードでJRも私鉄もバスも


 もうひとつのトピックは、同カードが路線バスでも使用可能になったことでしょう。現在、東京23区内を走っている路線バスのほぼすべてが、乗車区間とは関係なく定額の運賃先払い方式を採用しています。そのせいなのか、高額紙幣しか持ち合わせていない場合、釣り銭がないなどと言われ、車内で「バス共通カード」の購入をすすめられる場合が多々あります。バスの利用頻度が高ければそれでもいいのですが、あまりバスを利用する機会がない人には抵抗があるでしょう。さらに残額のあるSuicaやパスネットを持っていたとしたら、「こんな時に使えたら」……と思うのが人情というものです。

 ちなみにPASMO導入後も、パスネット/バス共通カードは併用されますが、おそらく3〜5年程度の時間をかけて、徐々にフェイドアウトして行くと考えられます。

■ PASMOの仕組み

 さて、PASMOも基本的な構造はSuicaと同様、ソニーが開発した非接触タイプICカード技術「FeliCa」を採用しています。
 FeliCaの構成要素は、カード側が内蔵するICチップとアンテナに加えて、リーダー/ライターです。ここで不思議に思う人も多いでしょう。ICが動作するためには電力が必要なわけですが、FeliCaカードに電源は内蔵されていません。なのに、なぜデータ通信が可能なのかといえば、カードをかざすリーダー/ライター側から照射されている微弱電力がポイントなのです。
 FeliCaカードの内蔵アンテナは、コイルを平面にループ状に巻きつけた「スパイラルアンテナ」です。このアンテナが、リーダー/ライターから照射される微弱電流を受信することで、「アンペアの法則(右ネジの法則)」によってコイルの中心を通る磁束(磁力線の束)が発生します。FeliCaシステムは、これを使って電力供給と交信を行ない、ごく微弱な電流でも、瞬時にデータ通信を可能としているのです。
 このあたりの仕組みは、バックナンバーで詳細に解説していますので、そちらもご参照下さい。
 

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 ちなみに、ICカードではなく、FeliCaチップを内蔵した携帯電話(おサイフケータイ)を使う「モバイルSuica」でもPASMOとの相互乗り入れが可能です。

PASMOとSuicaの違いは?

 さて、PASMOとSuicaとの相違点をいくつかあげてみましょう。

「無記名型」と「記名型」があること。無記名型は現在のSuicaと同じ物と考えてかまいません。記名型は、カードに使用者の個人情報を登録しておくタイプで、紛失した場合、紛失を申告した時点の残高を保証した上で再発行してもらえるメリットがあります。記名型とするために登録する個人情報は、氏名、年齢、生年月日、電話番号です。無記名型カードを購入後、記名型へ変更することは可能ですが、その逆は不可能となっています。

「小児用」があること。あらかじめ使用者が満12歳以下であるという情報を記録しておくことで、小児運賃が適用されます。ちなみに記名型、小児用ともに3月18日以降Suicaにも導入されますが、記名型とするために必要な個人情報のうち、電話番号が任意になっていることが相違点です。

「オートチャージ機能」。対応クレジットカードと「ひも付け」され、PASMOの残額が一定額以下になると自動的にクレジットカードから残高のチャージが行なわれます。スタート時点では、残額が2000円以下になると3000円チャージされることになっています。使い勝手の面では、クレジットカードにSuica機能を搭載した「VIEW Suicaカード」と同様ですが、クレジットカード自体にSF機能を付加しているのではない点が相違点です。スタート時点でPASMOにひも付けできるクレジットカードは、(株)パスモが(株)ジェーシービー、三井住友カード(株)、UFJニコス(株)と提携して発行する「Passtownカード」の他、交通事業者系などの10社が発行するクレジットカードとなっています。

ポイント付加機能。私鉄大手各社の中には、独自に発行するクレジットカードやポイントカードに、PASMO使用によるポイント付加サービスを盛り込む事業者があります。たとえば、京王電鉄(株)グループの「京王パスポートカード」の場合、以前からグループ系列のスーパーマーケットや書店、飲食店などでポイント還元サービスを行なっていましたが、PASMOのオートチャージ用にひも付けすると1000ポイント、京王グループのバスや電車に月1度以上乗車すると、月あたり100ポイントが加算(ただし、5月31日までの限定)されます。また、東京地下鉄(株)グループの「To Me CARD」では「SF乗車ポイントサービス」と称し、1乗車につき2ポイント(ゴールドカードでは5ポイント)が溜まります。こちらは期間限定ではないので、溜まったポイントをPASMOにチャージ……といったループが実現するわけですね。

 ちなみに、路線バス事業者も「バス利用特典サービス(通称『バス特』)」と称したポイントサービスを用意しています。内容は事業者によって微妙に異なる点もありますが、たとえば西武バスの場合、運賃額=ポイント数(ex.210円=210ポイント)とカウントされ、1000ポイント溜まると「特典バスチケット」として蓄積、次回利用時に運賃100円分に充当されます。ポイントは月を超えて持ち越すことはできませんが、「特典バスチケット」は10年間有効となります。

■ 相互乗り入れ時の注意点

 SuicaとPASMOの相互乗り入れ開始によって、新たに注意しなければならない事柄も生じます。たとえば、JR駅から乗車し、直接乗り入れなどで改札を通らずに地下鉄に乗り継ぎ、再度JR線に乗り継ぐ場合です。

相互乗り入れ時の注意点(割引運賃が適用されなくなる場合)


 例として有名なのが、JR総武線と相互乗り入れている東京メトロ東西線のケースです。JR高円寺駅からJR津田沼駅まで乗車する場合、中野駅→西船橋駅間を東京メトロ東西線で行った場合は460円。しかし、SuicaやPASMOで出札すると、JRだけで行った場合の運賃である620円分がカードから引き落とされてしまいます。

 カードに記録されている情報は乗車駅名だけで、降車駅までの間に複数の経路が存在する場合、どの経路を使ったのかリーダー/ライターには判断ができないために起こる事態です、このケースに関しては現状、対処のしようがなく、割引運賃の適用を受けたい場合は、基本的に切符を購入する以外に方法がありません。例にあげた西船橋駅の場合は、自動改札機の増設で経由路線を判断できるように対応するそうですが、朝夕ラッシュ時に運行される三鷹〜東西線経由〜津田沼の直通列車では、JRを乗り継いだ分の料金が引き落とされることになります。

 また、「連絡運輸協定」の制限にも注意する必要があります。たとえばJR御茶ノ水駅と東京メトロ新御茶ノ水駅は、実質的には乗り継ぎ駅のようなものですが、鉄道各社間で結ばれている連絡運輸協定では乗り継ぎ駅として認められていません。そのため、通勤や通学でこの経路を使う場合、定期券が1枚にまとめられず、PASMO定期券とSuica定期券の両方が必要になります。さらに、同じ定期入れに両方の定期券を入れたままでリーダー/ライターにタッチすることはトラブルの原因になるため、いちいち取り出してからタッチすることになります。

 このように細かな問題は残りますが、システムの進化や改善によって徐々に解消されてゆくことを期待したいところです。


著者プロフィール:松田勇治(マツダユウジ)
1964年東京都出身。青山学院大学法学部卒業。在学中よりフリーランスライター/エディターとして活動。
卒業後、雑誌編集部勤務を経て独立。
現在はMotorFan illustrated誌、日経デジタルARENA、日経ベストPCデジタル誌などに執筆。
著書/共著書/監修書
「手にとるようにWindows用語がわかる本」「手にとるようにパソコン用語がわかる本 2004年版」(かんき出版)
「PC自作の鉄則!2006」「記録型DVD完全マスター2003」「買う!録る!楽しむ!HDD&DVDレコーダー」など(いずれも日経BP社)

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