テクノ雑学
第5回 空の彼方に“デジタルやまびこ” −レーダーで天気が判るワケ−
空の彼方に“デジタルやまびこ”
強い日差しが一点にわかにかき曇り、突然おとずれるにわか雨。暑い日に少しの涼しさをもたらしてくれる雨ですが、ここ数年、特に都会では、ヒートアイランド現象の影響で、昼夜を問わず夕立を通り越して局地的な雷雨や豪雨が降ることが増えています。災害防止の観点からも、いつ、どこで、どのくらいの雨が降るかを予想する「降水量予想」は、とても重要になっているのです。降水量予想には、天気予報でおなじみの「気象レーダー」や「アメダス」のデータを使うのですが、この2つ、実は全く別のものなのです。
レーダーの技術は、第二次世界大戦中に、連合国軍によって実用化されました。電磁波が障害物にぶつかると反射する現象はそれまでにも知られていましたが、高周波で大出力の電波を放出する「マグネトロン」と、指向性の強い(特定の方角からの電波を感度良く受信できる)「八木アンテナ」の発明で、夜間でも正確に敵軍の艦船や軍用機の位置を特定できる画期的な装置が完成したのです。
マグネトロンは、レーダーだけでなく、電子レンジの部品にも使われています。電子レンジは、終戦後レーダー技術の平和利用を研究していたアメリカのスペンサー博士が、実験中にマグネトロンのスイッチを入れると、近くにある食べ物が加熱されることに偶然気づいたことがきっかけで発明されたのです。1947年に発売された、世界で最初の電子レンジには「レーダーレンジ」という名前がついていました。八木アンテナは、現在もテレビ受信用に世界中で広く使われています。
気象レーダーでも、軍事用レーダーと全く同じ原理を利用しています。空中に発射された電波が、雲や雨で反射される現象を利用して、雲と雨の量を観測します。日本で最初の気象レーダーは、1954年、大阪・生野山に設置されました。現在は日本全国に21ヶ所の気象レーダーが設置されています。
気象レーダーは10分おきに、1km四方単位での雲量と雨量を観測しています。また、レーダーの設置してある近辺であれば、陸上だけでなく、海上の雲量と雨量を観測することができます。しかし、気象レーダーは上空の雲と雨を観測するので、実際に地上に降っている雨の量とは誤差が生じてしまいます。
上空の雨量、雲量を観測する気象レーダーに対し、アメダスは、地表で降っている雨の量を直接観測します。アメダスの名前は、(Automated Meteorological Data Acquisition System)の頭文字に由来しています。1970年代に徐々に雨量計が設置され、現在は日本全国に約1300箇所のアメダス雨量計が設置されています。設置間隔は約17kmです。
アメダス雨量計は雨量0.5mmで満杯になる三角形のマス2つを組み合わせています。片方のマスに水が満たされると、マスが倒れると同時にリードスイッチが入って信号が送られ、記録されていきます。最終的に1時間に何回の信号が記録されたかを数えることで、1時間の雨量が測定できます。
アメダスの測定は正確ですが、1時間に1回しかデータが取れず、また観測地点の間隔が17kmと長いので、局地的な豪雨は捉えきれない可能性があるという短所があります。
気象レーダーとアメダスのデータをコンピューター処理で合成したのが「レーダーアメダス解析雨量図」です。両方の長所を活かした、正確できめ細かいデータが特徴で、現在は、2.5kmメッシュ・10分おきの雨量図が利用できます。このレーダーアメダス解析雨量図が、天気予報で使われる降水短時間予想図の元になっています。
レーダーアメダスによる降水予想図は、インターネットで誰でも見ることができます。「ちょっと天気があやしいかな?」と思ったら、降水予想図を見てみましょう。雨が降りそうだと思ったら、傘を忘れずに。
【 レーダーアメダスによる降水予想図を見られるページ 】
■ レーダーアメダス合成値 (国際気象海洋(株)提供) http://www.imoc.co.jp/rdam.htm
■ Weather Information Service 雨(レーダーアメダス)全国の雨模様 (国土環境株式会社提供) http://weather.metocean.co.jp/amedas/amedas0.htm
著者プロフィール:板垣朝子(イタガキアサコ) 1966年大阪府出身。京都大学理学部卒業。独立系SIベンダーに6年間勤務の後、フリーランス。インターネットを中心としたIT系を専門分野として、執筆・Webプロデュース・コンサルティングなどを手がける 著書/共著書/監修書 「WindowsとMacintoshを一緒に使う本」 「HTMLレイアウトスタイル辞典」(ともに秀和システム) 「誰でも成功するインターネット導入法—今から始める企業のためのITソリューション20事例 」(リックテレコム)など
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