パワーエレクトロニクス・ワールド

第1回 パワーエレクトロニクスとは?環境・エネルギー問題のキーテクノロジー

パワーエレクトロニクスとは?

いまパワーエレクトロニクスが注目される理由

かたときも休むことのない現代社会を根底から支えているのは電力。パワーエレクトロニクスというのは電力の輸送・変換・制御・供給、また電子機器の電源などに関わる技術分野です。近年、省エネが声高に叫ばれる中で、電力消費量は増加する一方です。とりわけIT関連機器の急増が拍車をかけています。そこで、環境問題やエネルギー問題を克服するためのキーテクノロジーの1つとしても注目されているのがパワーエレクトロニクス。専門技術者以外にあまり知られていないその技術世界を今号よりシリーズでご紹介します。
電力を供給するという意味から、電子機器の電源を英語でパワーサプライ(power supply)といいます。電源がなければテレビもパソコンも使えず、エアコンや冷蔵庫もストップし、携帯電話の充電もできなくなってしまいます。現代エレクトロニクス社会は、巨大な電子機器ともみなせます。電力は単に供給すればよいというわけではありません。経済性(省エネ・省資源・高効率化など)や利便性(小型・軽量・高機能化など)を図りながら、各種の不安定要因をなくして、たえず良好な品質を保つということがきわめて重要です。これがパワーエレクトロニクスの永遠の技術課題です。

パワーエレクトロニクスの第一歩は直流、交流の理解から

パワーエレクトロニクス・ワールドへの第一歩は、まず直流(DC)と交流(AC)の違いを知ることです。直流というのは、たえず同じ方向に流れる電流です。乾電池やボタン電池などの1次電池、ニッカド電池やリチウムイオン電池、カーバッテリの鉛蓄電池といった充電できる2次電池ほか、太陽電池や燃料電池による発電も直流です。一方、交流とは一定時間ごとに交互に向きや大きさが変わる電流です。家庭のコンセントから供給されているのは、日本の場合100Vの交流で(北米は120V。世界的には200〜240Vが一般的)、その周波数は中部地方より東では50Hz、西では60Hzです。
商用交流は100Vとはいえ、ふだんでも100±10Vの範囲で電圧変動しているだけでなく、しばしば異常な電圧変動や瞬停(瞬間的な停電)があったり、本来のサイン波の波形にギザギザが入って歪んだりします。そこで、電力会社ではたえず電圧変動や波形歪みを最小限に抑えながら配電して、電力の品質を保っています。
乾電池などのバッテリの直流も一定ではなく、時間とともに電圧降下します。携帯電話やノートパソコンといったモバイル機器では、電圧降下は誤動作の原因となるので自動停止する機能を持たせています。また、電子回路に流れる直流には交流成分が混入してしまうため、これが誤動作やノイズ放射の原因になったりします。完全な直流、完全な交流は理論モデルとして考えられても、現実にはありえないのです。

電力供給システムとパワーエレクトロニクス

電力というエネルギーの伝達・変換において、あらゆるロスの低減と経済性の追求はパワーエレクトロニクスに課せられた使命。たとえば発電所で発電された電力は、高圧の交流に昇圧されて送電線に流されますが、送電線の電気抵抗によって電力のかなりの割合が熱となって失われてしまいます。この電力損失は電流の2乗に比例します。同じ電力を送電するには、電圧が高いほうが電流が小さくなるので、数10万V〜100万V超という高圧で送電されるのです。低圧で送電するほど太い電線が必要になり、それを支える送電鉄塔もより強固なものにしなければならないからです。
19世紀末に広域の送配電網を構築するにあたって、直流と交流のどちらが適しているかという「交直論争」が欧米で巻き起こりました。送電距離が延びるほど電圧は降下します。直流ではトランス(変圧器)で電圧を上げられないこともあり、交流が採用されて現在にいたっています。しかし、20世紀半ばすぎになって、直流送電が見直されるようになりました。交流を直流に変換して送電したあと、ふたたび交流に戻すため、交直・直交変換装置が必要になりますが、交流特有の電力損失もないことから、長距離送電では交流よりも直流のほうが経済性にすぐれているのです。直流と交流には一長一短の性質があり、適宜使い分けることが重要。これは電子機器についてもいえることです。

電子機器内部における電力変換

 電子機器のほとんどにICが用いられています。ICは直流で駆動するため、商用交流を利用する機器も、まず直流に変換するデバイスが必要になります。これを「AC-DCパワーサプライ」といいます(現在はスイッチング方式が主流になっているので、「AC-DCスイッチング電源」とか単に「スイッチング電源」などと呼ばれます)。バッテリ駆動の携帯電話も、簡易なAC-DCパワーサプライであるACアダプタで、交流を直流に変換してバッテリを充電します。また、ノートパソコンは携帯電話よりはるかに電力消費が大きいため、固定使用時にはACアダプタを利用します。
AC-DCパワーサプライだけが電源ではありません。電子回路の駆動電圧はそれぞれ異なるため、回路に応じた電圧に変換する必要があります。このデバイスを「DC-DCコンバータ」といいます。多機能化が進んだ電子機器では、複数の小型DC-DCコンバータがIC近くに分散配置されるようになっています。さらに液晶テレビなどでは、バックライトの冷陰極管の点灯用に高い電圧が必要なため、変換した直流を再び交流に変換してトランスで昇圧する「DC-ACインバータ」(単に「インバータ」ともいう)が搭載されます。
このように電子機器においては、回路に応じた電力供給を実現するため、いろいろなタイプの電源デバイスが搭載されます。形状もケースにおさまったユニットタイプ、複数の電源回路を一体化したモジュールタイプ、機器に組み込む基板型、基板にマウントする小型オンボード型などさまざま。専門技術者以外にあまり知られていませんが、電源はなかなか奥深く面白い技術世界なのです。

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