なるほどノイズ(EMC)入門

【実践編⑤】AIスピーカのノイズ対策

ロボットは、産業用ロボットと業務・サービスロボットに大別されます。産業用ロボットは、組立ロボット、溶接ロボットなど、FA工場で以前から活躍していますが、近年、成長が著しいのは、業務・サービスロボットです。なかでもAIスピーカ(スマートスピーカ)をはじめとする対話型ロボットの開発は世界的に活発で、家庭用のサービスロボットとして、さまざまなモデルが登場しています。

AIアシスタント機能を搭載した対話型ロボット

対話型ロボットであるAIスピーカのインタフェースは人の音声です。タッチパネルやキーボードなどによる操作なしに、人の音声をマイクロフォンが拾い、それをクラウドに送ってAI(人工知能)が認識して、音楽再生やニュースなどの情報提供、インターネットによる検索やショッピング、家電の操作など、さまざまなサービスを提供します。AIのディープラーニングにより、ちょっとした雑談程度のコミュニケーションをとることもできます。

据え置きで使用するAIスピーカにおいては、話者が遠くから話しかけても、その方向を検知して、周辺ノイズから聞き分ける必要があります。このため、AIスピーカには複数のマイクロフォンが搭載され、到達する音声の時間差や強弱などから、話者の方向を識別するとともに、多方向から来る周辺ノイズは、ノイズキャンセリング技術によって、ノイズ成分のみを打ち消します。 マイクロフォンとともに重要なのはアンプとスピーカです。AIスピーカの普及とともに、オーディオ機器並みの高音質も求められるようになっているからです。

AIスピーカに使用されるD級アンプに求められる課題

AIスピーカのパワーアンプには、スマートフォンやタブレット、ノートPCなどのスピーカの駆動にも使われているD級アンプ(クラスDアンプ)と呼ばれるデジタルアンプが使用されています。
D級アンプはスイッチングアンプとも呼ばれるように、スイッチング素子を用いたPWM(パルス幅変調)技術により、オーディオ入力信号をパルス信号に変換・増幅してから、アナログ信号に戻してスピーカで出力する方式です。

D級アンプは高級オーディオ機器で使われるアナログ方式のアンプと比べて、小型・低消費電力を特長としますが、パルス信号は多くの高調波成分を持つため、無対策のままではスピーカと結ぶ配線がアンテナとなって電磁ノイズが放出されます。

スピーカラインから放射される電磁ノイズを抑制するために、D級アンプの出力段には、一般にノイズフィルタとしてチップビーズが挿入されます。チップビーズとは、フェライト素体の中に積層工法などでコイルを形成したチップ部品です。チップビーズのインピーダンスは、コイルのリアクタンス成分とフェライトの抵抗成分からなります。低い周波数領域ではリアクタンス成分が機能してノイズを反射・阻止し、高い周波数領域ではフェライトの抵抗成分が機能してノイズを吸収して熱に変換します。簡便できわめて効果的なEMC対策部品として、電子機器で多用されています。

チップビーズの特性に大きく関わるのはフェライトです。スピーカラインには比較的大電流が流れるため、抵抗成分の大きなフェライトが使われますが、出力が大きくなるにつれ、高調波のノイズ成分によって音声波形が崩れて、音声歪みを起こすようになります。一般的なチップビーズでは、放射ノイズ除去と音声品質の確保を両立させるのは困難なのです。そこで、TDKが蓄積したフェライト技術を駆使して新開発したのが、ノイズサプレッションフィルタです。

AIスピーカの音質向上をもたらすノイズサプレッションフィルタ

ノイズサプレッションフィルタVAFシリーズは、出力2W~20WのAIスピーカなどのオーディオライン向けに最適な製品です。スピーカラインにおける音声歪みの度合は、一般にTHD+N(Total Harmonic Distortion + Noise:全高調波歪み+ノイズ)という数値で表され、数値が小さいほど音質が良いことを示します。下図が示すように、チップビーズの場合は、出力を上げていくとTHD+N値は上昇しますが、ノイズサプレッションフィルタではフィルタなしの場合とほぼ同等の特性を示し、挿入による歪みの発生はありません。チップビーズからノイズサプレッションフィルタへの置き換えは、音質の向上に大きな効果があることがわかります。

LPF(ローパスフィルタ)やチップバリスタとの併用による効果的なソリューション

一般にD級アンプの出力段には、オーディオ出力信号を取り出すためにLPF(ローパスフィルタ)が挿入されます。出力が小さいスマートフォンなどにおいては、LPFを不要にしたフィルタレス方式が主流となっていますが、AIスピーカなどの機器においてはLPFが必要となり、LPFの特性も音質に影響を与えます。

AIスピーカの放射ノイズの抑制には、ノイズサプレッションフィルタとLPF(VLS-AFシリーズ)の組み合わせが効果的ですが、下図のように、さらにチップバリスタ(AVRシリーズ)を併用することで、より効果は高まります。チップバリスタは人体からのESD(静電気放電)などから回路を保護する素子として、電子機器に多用されています。侵入したESDなどをグランドにバイパスするとき以外はコンデンサとして機能するため、スピーカラインに併用することにより、放射ノイズ抑制効果がいちだんと向上します。比較グラフが示すように、CISPR CLASS Bの限度値(家庭などで使用される電子機器の放射ノイズの規制値)を余裕でクリアします。

パートナーロボットへと進化しつつあるAIスピーカには、オーディオ機器なみの高音質が求められています。TDKのノイズサプレッションフィルタ、LPF、チップバリスタの最適な併用は、スピーカラインの放射ノイズの抑制とともに、高音質を確保するための最適ソリューションとなります。TDKではD級アンプの出力などに合わせた各種製品を豊富にラインアップしています。

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